第15話
「私は裏サイトを直接確認するために、このメールを送った人物に裏サイトの情報を教えてもらった。それで確認したところ、推測通りだったよ。一番古いスレッドに書いてあった。しかもスレッドのテーマからして、このメールについてだったよ。つまり一番最初のレスに、このメールの文章が書いてあったんだ」
「つまり、最初に書いてあったから、これだけ広まったってことですね」
「いや、そんなに単純な話ではないよ。そもそも、このスレッドは最初見向きもされていなかったようだ。当然だろうね。いきなりこの文章を見て、面白いと思うわけもない。無視して次のスレッドに行くだろう」
「そうですね。面白くないとスレッドは盛り上がらないし、メールが広がるわけがないですからね」
「そうだ。しかも最初はこの裏サイト自体、広まるのが遅かったようだ。だからこの文章を目にする人間も極端に少なかった。――でも、一ヶ月前くらいから、急にスレッドへのレスが盛んになってきたんだ。裏サイトが急速に広まり出したんだろうね」
「何故ですか?」
「それは分からない。専心的な誰かが広めたのかもしれない。だが、理由なんてどうでもいいんだ。結果が重要なんだよ。裏サイトが広まった結果、この文章を見る人間も急激に増えた。恐らくこの頃から興味本位でメールを流した人間が出てきたんだろう」
「それで広まり出したってことですか?」
「いや、その直後に起きたことが原因だったんだ。それは、とあるスレッドの、とあるレスが発端で起きたことだ。内容はこうだ。『俺、こんなメールが色んな奴から来るんだけど、皆知ってるか』。これを聞いて、君はどう思う?」
「んー、単純に考えるなら、このメールを皆が知っているか聞いているだけかと。穿って考えるなら、――自慢ですかね。俺、このメールいっぱい受け取るくらい友達多いんだけど、って」
「ふふふ、そうさ。君の言う通りだよ。そうやって煽る人間が出てきて、そのレスは注目されるようになった。そしてレスにあるメールについても注目されるようになったんだよ」
一息入れて、彼女は続ける。
「初めの内は意味もなく面白がって、友達同士で送り合ったりしていたんだが、気付けばメールに意味が付随するようになっていた。貰えば貰うほどに交友関係が広い、という証明書になったんだよ。つまりこのメールは人物のステータスを示す道具になったんだ」
「友達が多い、なんてことがそこまで人物のステータスとして確立するものですかね」
「それがするんだよ。彼等は学生だからね。学生のステータスなんて、学力と運動能力とコミュニケーション能力――交友関係の広さ――くらいなものだ。彼等にとっては立派にステータスになるんだよ」
彼女は本を閉じて、次の本を用意しながら言う。
「ではメールがステータスを示す道具になったなら、学生はここで何をすると思う?」
それは――
「――他人への誇示と、それを利用しての誹謗中傷、ですか」
「当たりだよ。彼等はいつしかメールを貰った人間よりも、貰っていない人間に興味を惹くようになった。貰っていない、もしくは貰っていなさそうな人間を片っ端から中傷しだしたんだ。『こいつ友達いないんだぜ』ってね」
事実であれ無実であれ、中傷された人間はメールを貰えるように行動するし、中傷していた人間は自分のステータスの誇示のために、ますますメールを貰うようにする。
だからこそ、このメールは僕の学校でのみ、急激に広まったわけだ。
成程。
確かにこれは愚行だろう。
「結局、学生ゆえにメールを道具とし、裏サイトゆえにメールを使用して誹謗中傷した結果、生じてしまった現象だったんだよ」
彼女は次の本を読みながら、そう締めくくった。
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