第10話

「お久しぶりです。今、大丈夫ですか?」

「見て分からないのか。駄目に決まっているだろう。話し掛けないでもらえるかな」

 彼女は僕のことを見ようともせず、本に目を落としつつ言った。

 いつも通りなので、気にせず僕は話を続ける。

「相変わらずの言い草ですね。これはあれ、虐めですか?」

「虐め? 君はこんなことを虐めだと認識する程に繊細な心の持ち主なのか。そうか、それは悪いことをしたね。これからは少しばかり労りの精神で君に接してあげるよ。――ということで消えてくれ」

「文脈がナチュラルに狂かれていますよ? 虐めにしか思えませんって」

「自意識過剰なんだね、君は。自意識過剰で繊細なチキンくん。君はもう少し他人の攻撃(ことば)に対する守備方法を学ぶべきだよ。受けるだけでなく流すことや避けることも覚えておくといい」

「はぁ、御高説ありがとうございます」

「うん。今のを受けるのは間違っていない。今までのはただの忠告であり警告だ。虐めだなんてとんでもない」

「分かりましたよ」

「ではチキンくん。素直な君のために一つ聞いてあげるとしようか」

「チキンじゃないですが、何ですか?」

「君は誰だ?」

「やっぱ虐めじゃねえか!?」

 ちょっと来なかっただけでこれか。

 しかもまだ僕を見ようともしない。

「僕ですよ、僕。分かりませんか?」

「分かるわけがない、と言いたいところだが、話し方や態度で分かったよ」顔を見ろ。「学校に友達がいない、まして普段私以外に話す相手もいないチキンくんだね」

「分かったなら名前で呼んで下さい」

 チキンじゃないっての。この人、本当に分かっているのか。

「まったく、最初から名乗っていれば邪険に扱わなかったのに」

 嘘吐け。

 変わらず本を読みながら言われても説得力がない。

「それで、今日はどうしたんだ?」

「ええ、ちょっと話がありまして」

「ふーん。面白い話なら聞いてあげるよ」

「面白い話かどうか分かりませんけど、とりあえず聞いて下さい。それがですね、昨日僕の携帯に知らないアドレスから変なメールが届いたんですよ」

「どんなメールだ?」

「読み上げるのもあれなんで、送りますよ」

 自分の携帯から、彼女の携帯に件のメールを転送した。

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