第4話夢見る女子高生
前の電車から、どのくらいたったのだろう。
時間を計る目安がない。太陽も位置が固定してるから。
寒くもなく暑くもない。風も吹いてない。
また電車が入って来た。数名の客がおり、喫茶室で、僕はまた忙しくなった。
今度は、紅茶を飲むとすぐ出ていく人、なんだかんだと、神父さんにごねる人。
お客の中に、女子高生らしき子がいた。上はチェックのブレザーにえんじ色のネクタイ。
下は無地のグレーのプリーツスカート。髪はセミロングで、ぱっちりした目がかわいい子だ。
僕を見つけ、まっさきに僕にちかよってきた。
「ねえ、ここ、なんていう処?町や店はないのかしら?
武器とかは、どこで手にいれるの?」
ちょっと訳のわからない質問に ”僕は忙しいから後で” と言って逃げたけど、
そんな事でめげる子じゃなかったみたいだ。
僕の後をついて来て、まだ質問してくる。
”ここでは、魔法は使えないの”とか、”仲間はどうやって探したらいいのか”とか。
これじゃ仕事にならないよ。かわいい女子がそばいいるのは、嬉しいけど。
「まずは、座って。今、君の分の紅茶を入れるから」
その子は 素直に座り僕の答えを待ってる。
その間、他のお客さんの紅茶を入れ、最後にそこ子の紅茶をもっていった。
「紅茶より、コーヒーがいいな。で、自己紹介します。私、由香里っていうの、工藤由香里。
セント・テレーズ学院の2年生。まず、一緒に冒険する仲間をつのってます」
はぁ?冒険って、なんの事だろう。
チラっと奥田神父さんの方をみると、中年の女性に泣きつかれてる。
今更、神父さんに泣きついても、もうどうしようもないんだけどな。
「僕は健吾。その名前以外、記憶がないんだ。独身だったみたいだけどさ」
同年輩くらいの人との話をするのは、ひさしぶり?のような気がする。
ここに来る前も、女子と話しをする事は、ほとんどなかった。
なぜって、、なぜだろう・・又、頭がモヤがかかったようにボンヤリしてきた。
「私ね、異世界へ来るのに、屋上から飛び降りた。で、ここって何?
ここが出発点なの?」
「僕も詳しい事はわからないけど、さっき言ってたような、店もないし。
武器もない。時計すらないんだから。ここで”冒険”って話も聞いた事ないけど。
異世界、現世と違うという意味ではあたってる、でも、ここは”向こう側”へ行くための
中継点かな。一休み所というか」
「向こう側って、あの広い川の対岸って事?そこが、冒険者の入り口ね」
あ、だめだ。この子、根本的にわかってない。
よくある異世界転生物語をスッカリ信じて、自殺したんだ。
そう、思い出したというより、PCでネットゲームをしてる場面が頭に浮かんだんだ。
頭に浮かんだ僕の部屋は、ファンタジー小説の山だった。
思い出すきっかけをくれた、由香里ちゃんに感謝だな。
僕のわかる限り、ここの事を説明しよう。
「ここは、いわゆる彼岸なんだ。由香里ちゃんも切符をもってるだろう?
電車でここで降りた人は、ここで、ひと時ゆっくりしたり、神父さんと話しを
したりして、そうして、皆 向こう側へ行くんだ。
はっきり言うと、君は死んだ。飛び降り自殺という形になるんだろうね。
転生というのは、僕は知らない。向こう側へ行く人は、冒険のぼの字も言ってないから
向こう側も、ゲームのような冒険が出来る場所ではないんだと思う」
由香里ちゃんは、心外って顔で、
「自殺じゃない。転生したかっただけ。対岸にはきっと別な国があるのだと思う
よくあるパターンだし。泳いで対岸までいってみる。」
今にも、ドアをあけて飛び出しそうな由香里ちゃんを、あわてて止めた。
神父さん、助けて・・僕は対岸の事を良く知らない。
でも、この子、由香里ちゃんを、このまま行かせてはいけない気がする。
海側(川側?)のドアの前で由香里ちゃんを、とおさないようにしてると、
神父さんがやっと来てくれた
「あなたの言っている”冒険”とか、異世界転生とかは、私はわかりません。
ただ今、この川を渡るのは、あなたには無理ですね。途中で溺れます。
あなたには、もう少しゆっくり過去をふりかえる必要もあるようです」
よかった。やっと神父さん、来てくれた。
由香里ちゃんは、”私は溺れないわ、水泳得意だもの”と言いながらも、
確信をもった神父の”溺れる”という言葉で、躊躇したようだ。
「あのさ、由香里ちゃん。よくその手の小説では、転生して異世界で冒険
ってあるけど、それが本当なら、ニュースになってるよ。まじな話。
対岸の世界がどうなってるかは、わからないけど、僕が思うに、自分の死を納得してはじめて、
向こうに行けるのだろうと思う。
さっき、中年のおじさんが話したけど、やっと納得もらったら、すーっと向こう側へ
歩いて消えて行ったよ。由香里ちゃんは、本当に”死んで異世界に転生” なんて信じてたの?」
僕の言葉で、黙ってしまった。って事は、少しは疑問に思ってはいたんだ。
「それは、やっぱりちょっぴり疑ったけど」
「異世界に行きたいって思うような、何かがあったとか?」
僕の質問に、思い当たる事があるけど、言うのを躊躇してるようだ。
言葉にすると、それが本当になりそうで怖いって感じの顔だ。
「・・この頃、ちょっとだけ、忙しかったんだ。で、ラインのメッセージ、読むだけで
返さなかった。そうしたら、友達からハブにされて。
一番、仲のよかった子にもリアで無視されて、ちょっと落ち込んでた。」
ラインって便利みたいだけど、トラブルの話もあるんだな。
僕はラインは、やってなかった。だいたい、スマホじゃなかった。
もっぱら、PCでオンラインゲームにはまってたんだ、僕は。そこまで思い出した。
「僕はよくわからないけど、ラインって結構、面倒なんだね」
「うん、やらないと、そこで何言われてるかきになるし、返信おくれると、
不機嫌マークでかえってくるし。
彼に、振られたのも、私がいつもスマホばかり気になって見てるせいだし。
彼氏もいないし、友達だと思ってた子は違ったし、なんか、
もう何もかも面倒になって、それなら、別の世界で生きなおせばいいって・・」
で、自殺したってわけか。一か八かのカケのようなもんだな。
ちなみに、神父さんは、由香里ちゃんの話がよくわからないようだ。
まじめに聞いてるけど、時々、首をかしげてる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます