岸辺の駅

雪 よしの

第1話 見知らぬ所

気がつくと、僕は電車の中にいた。


窓の外は、ずっと同じ景色のばかりだった。

右側は黄緑の草原が広がっている。

ところどころ、赤や黄色、白、紫の点。花が咲いてるんだ。

草原のずっと先には、切り立った崖のような山。頂上は見えないけど。

左側は、海がずっと続いている。いや、海に見えるけど大きな湖かな。

空は雲一つない青空だ。ここがどこかはわからないけど、

僕はちょっとだけ懐かしい気がした。


でも肝心な事がわからない。

僕って誰?ここどこ?どうしてここにいるんだ?


頭をフル回転させて、思い出そうとするのだけど、途中で思考停止するのか 

いつのまにかボーっとしてる。

もしかしてこれは夢か。それならば、と頬をツネってみると、痛い。


持ち物も何もなかった。携帯も財布も。

これからどうすればいいのか。あせらなくてはいけないはずなのに、

考えられない。そんな時に車内アナウンスが流れた


”次は終点 岸辺 岸辺です”


アナウンスと同時に、車掌さんらしい制服の中年のおじさんが


「切符を拝見いたします」


僕はポケットを探しまくるが 当然なかった。

「すみません。切符、持ってないのですが・・」

「そうでしたか。わかりました。次が終点になりますので」

車掌は何事もないように、それだけいうと通り過ぎていった。


(これからどうしたらいいですか?僕、自分の名前もわからないのですが)

車掌さんに相談してみようか。


迷ってるうちに、終点の「岸辺」という駅についてしまった。

僕は、せかされるように、降りた。

僕の他には数人の乗客がいたようだ。


次々、駅に乗客が入っていく。僕も仕方なく列の最後にならぶ。

切符を持ってない事を説明しないと、とにかく。

で、駅では切符をチェックするだけのようだ。


僕は、駅員さんと思われる人に ”あの・・”と言いかけて絶句した。


「奥田神父さん!!」

詰襟の神父服で 間違っても駅員さんじゃない。

「おや、健吾君じゃないですか」

奥田神父さんも ちょっと驚いてる。

僕が切符がないことを説明して、無一文でもあることも、さりげに言った。

神父さんは、ニッコリ笑って、

「とりあえず、駅でゆっくりしましょう。昔みたいに僕の手伝いをしてくれ

たら、うれしいです」


そうだ、僕は小学校の時、奥田神父さんの手伝いで、教会に行ってた。

そして、名前は健吾。

それだけは 思い出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る