3.
でも、私はそれからTに誕生日プレゼントを渡すことはできなかった。
Tは次の日、つまり奴の誕生日の日、列車の人身事故で死んだ。
大学への下見の帰り道のことだったらしい。
駅のホームでふらついたところを転落、直後に入ってきた列車に轢かれ即死。
私が聞いたのは、それだけだった。
それだけを聞いて、私は自身の受験に戻った。
なぜ、Tが死ぬ前日に古びた文房具屋で鉛筆を一本だけ買ったのか。
自殺だったのか、事故だったのか。
Tに、何があったのか。Tが何を思っていたのか。
もちろん、全く気にしていないわけではなかった。
受験当日、電車に乗り込んだとき、筆箱からシャープペンシルを取り出したとき、止めの合図で消しゴムを置いたとき、一瞬Tのことが浮かんだ。
けれど、それだけだった。
気にしないふりをし続けた。
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