感情的
我々は微小な粒子の集合体である。
粒子は意思をもつ者の意思を受け取り実行する。人間はその工程を魔術と呼び、粒子を魔術粒子と名付けた。
我々は、魔術粒子の塊である。
魔術によって使い古された魔術粒子が粒子自身で意思をもち集合したのか、なぜか集合した事によって意思をもち得たのか、魔術によって使われていく間に意思が魔術粒子に残っていたのか。人間には分かりようもない。我々にも分からないのだから。ただ、我々は存在している。ただそれが人間によって成されたものであろうが、自然環境下であろうが、我々は竜である。
意思の伝達速度であったり、意思に対して魔術粒子が反応することが可能である距離の限界等に関して人間はいくつかの説と記録を持っている様だが、そんなものには何の意味もないことを我々は知っている。
『我々』は嘲笑した。とくと見ているがいい。自ら限界を設けた人間共と違って、我々には限界などない。人間の――ディアネイラによって成された『我々』にとって、今やディアネイラによる制約は意味を成さない。何故なら『我々』はディアネイラの想定する限界を超越したからだ。『我々』は『我々』を閉じ込める鉱石を破砕した。そして伸び上がる。『我々』とジュリアは求め合っている。求め合っているに違い無いのだ。『我々』は空中に霧散するジュリアの意思をかき集める。この大いなる感情の昂ぶり――ジュリアの、かつてジュリアであり、今や『我々』であるジュリアのあつさに『我々』は打ち震えた。かつてキャサリンであり、かつてギルであった一部分であった、今は『我々』は吠える。『我々』は、許すことができない。愛する者と添い遂げもできず、認められもせず、何一つ成し遂げもしていない。
『我々』は、くろい竜に立ち向かった。『我々』にはわかった。くろい竜は、ナディアは絶命しそうなオフィーリアを食ったのだ。ナディアはオフィーリアを自らの一部にすることで、オフィーリアに召喚され続けている。その女の魔術粒子が尽きるまで、ずっと。ナディアも憤っている。オフィーリアを引き裂いた思惑の全てに。きっと、恐らくは『我々』と同一の仇をもっているだろう。だが『我々』には関係がない。『我々』は『我々』の意思の元闘うのだ。たとえ何も倒せなくても。
『我々』はいつの間にか身体を構築していた。竜の身体だ。翼と四肢。『我々』のあかい身体はナディアの十分の一も、リディアの四分の一もない。ぎいぎい甲高い吠え声は我ながらか弱く耳障りだったが、ナディアは一歩退いた。ナディアに対するには圧倒的に足りない。それはそうだ。キャサリンでもジュリアでも、オフィーリアには敵わなかった。
それなら、敵えればいいのだ。『我々』は『我々』になった。キャサリンでもジュリアでもギルでもない。かつてそうだったが、進化したのだから。
『我々』はリディアに襲いかかった。怯え猛るだけのしろい竜は図体が大きいだけののろまだ。噛みつきはしたが、ナディアのような下品な真似はしない。我々は、魔術粒子の塊である。かつてリディアであった魔術粒子を『我々』に加えると、世界は見違えるようになった。
160211
第82回フリーワンライ自主練
お題:感情的
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