なごり雪
キャサリンを抱く腕が焼けて焦げそうだ。それなのに彼女はとても冷たくて、この熱に溶かされていくみたいにどんどん小さくなっていく。もしかしたら、逆にこの腕は、彼女の冷たさに火傷しているからこんなにもじんじん、熱く感じているのかもしれない。
ギルには何が起こったのか分からなかった。
獣の声、落ちてくる石壁の欠片。キャサリンを庇ったつもりだった。だが、突き飛ばした筈の彼女は石の欠片を背で受け止めていた。その彼女をなぜ自分が下から仰ぎ見ていたのか。彼女を助けようとしたのだろうか、彼女に助けられようとしていたのだろうか。どちらにしろよく分からない。ただ、キャサリンはいつものように笑って、そしてそれきりになった。石の下から連れ出すことができた彼女は、ほんとうに、この腕に抱えきれるほどだけだった。
獣の声が響いている。砂と埃の煙は薄まって、その粒を陽光に輝かせながら光を通し始める。紅い上着が立っている。ディアネイラ。
ディアネイラはただ立っていた。筒を持っていたらしい手をそのままに、足下には割れた筒の残骸が散らばっていた。
「星が流れる理由は? なぜ星は死んでしまうと分かっていて、命を賭してまでしてなぜ流れるの?」
ディアネイラは平坦に、徐々にまくし立てた。その眼にギルは映っていないと見えて、べちゃり、燃え上がった熱にキャサリンがまた溶けていく。腕だけが、彼女の左腕だけが、この腕の中に残っている。真っ赤な雪みたいになってしまってなお、彼女は渡したばかりの指輪を離さない。
「キャサリンがこんな目に合う理由は? なぜ彼女は、どうしてこんなふうにならなきゃならない?」
ギルの問いに、ディアネイラは答えない。答えなどない。ただ、星もキャサリンも燃え尽きてしまった。腕の中に唯一残ったキャサリンのなごりが、溶けていって、腕を手を指をすり抜けていってしまう。
160124
第80回フリーワンライに参加したもの。
お題:なごり雪
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