可愛い女の子が清楚だなんて誰が言ったんだよ!
碧木ケンジ
第1話
高校生活…それは言わば汗と涙と青春の日々。
そして恋の始まりである。
…って誰が言ったんだよ!
恋なんて待っていても来ないし、毎日テスト勉強やら行事やらで女子と話も出来やしないじゃないか!
誰だよ汗と涙はあっても青春があるなんて言ったやつは?
何が恋の始まりだよ!
もう今年で2年生だよ!始まってすらいねぇよ!
出会いが無いんだよ、出会いがさ。
俺は学校の6限目の授業を受けながらそう思う。
俺はどこにでもいる残念な男子高校生なのだろうか?
いやまだ評価すらされていない準備期間中の高校生だろう、たぶん。
…何の評価で何の準備なんだろう?
まぁ、深く考えない方が良い系なのはわかる。
物事を深く考えると逆に失敗するっと中学の競艇が趣味の斉藤先生もそんなことを言っていた。
その台詞は単に大穴に賭けて失敗しただけの言い訳だったけど、とりあえず深く考えたらダメなんだ。
そんなことをグダグダ思っている俺にも男友達はいる。
お互いの休んだ分のノートしか貸さない関係だし、月に2回くらいはゲーセンでの付き合いもある。
…それだけなんだよな、割とマジでさ。
どっかのロボットとか乗って世界を救う熱い仲間とか、異世界で背中を預けた戦友とかそんな濃ゆい友達関係って訳でもないんだよなぁ。
休日はパソコンでネットをしながらダラダラと家で過ごして不完全燃焼なまま1日が終わっちまうし、このままじゃいけないとは思うんだよ。
部活だって運動は苦手だし、かといって興味を引く文科系のジャンルもない。
期待の帰宅部エースの名を欲しいままに高校生活を地味に過ごしている。
あだ名も無ければ、いじめも恋も眼鏡も無しのホモでもない凡人男。
野球の授業でホームランも打てなければ、黄色い声援が来るような送球も出来ない。
中学の頃は邪気眼なんてものも発動しないし、したくも無いまま平凡で
隣町の中学だって彼女のかの字もないままに卒業してしまった。
そんな俺にも名前はある、今井浩二という親以外は名字で呼ばれる俺の平凡な名前だ。
1度でいいから下の名前で呼ばれて彼女と甘い時間を過ごしたい。
例えば同じクラスの遠野さんとか。
遠野さんは大人びた可愛いひし形ショートヘアーの白め肌の女の子だ。
クラスで男子に密かな人気があって、誰に対しても明るいし、俺みたいな凡人男では釣り合わないだろう。
最近は昼休みに教室にいないことが多いのだが、何かあるんだろうか?
実は地球を侵略しに来た宇宙人で屋上とか体育倉庫で連絡とか取ってたりして、そんな馬鹿な話もあるわけないか。
単に女子同士で屋上とかで食事でも取ってるんだろうな。
キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪
俺が口に出したわけじゃないが授業終了のチャイムが鳴った。
あっ、そういえば5限の体育の時に倉庫の備品整理を頼まれてたことを思い出した。
生徒会の指示で体育委員は1年の各クラスの体育委員が当番制でやることになってたんだっけ。
何も毎日やることないのにどっかのバカがボールを盗んだとかで委員会会議で毎日確認するようになったんだっけ。
今日は体育委員の女子が休みで俺だけだから面倒くささが2倍だな。
体育倉庫の鍵を職員室から借りてこないとなー。
あーあ、今日も女っ気ゼロの寂しい青春の1日になりそうだ。
※
問題が起きた。
放課後に職員室から鍵を借りて体育倉庫まで向かうまでは良かった。
問題は体育倉庫の鍵が開ける前から開いていたことだ。
最悪な事が浮かぶ。
ボールを盗んだ奴がまた来た?
俺はゆっくりと静かに倉庫に入り隠れた。
人を呼ぼうにもすでに逃げているだろうし、変な好奇心で犯人の写真をスマホで取ってやりたいと言う気持ちもあった。
その写真を見せれば職員室の先生方も犯人が解って一件落着して、この毎日の備品整理も無くなるだろうと思ったからだ。
スマホを構えて跳び箱の裏に隠れた。
誰かの声が聞こえた。
「でも私…」
「だからここが良いって言ったでしょ?」
2人の女性の声が聞こえた。
薄暗い中で目が慣れてくると2つのシュルエットが見えた。
遠野さんと隣のクラスの女子の前田さんだった。
前田さんはセミロングの茶髪で胸の大きい陸上部の1年生だ。
女子にも男子にも人気のある人だ。
その2人がこんな薄暗い体育倉庫で何をしているんだろう。
興味が湧いたのでスマホのカメラモードをムービーモードに変えて録画した。
画面にもしっかりと映して撮影し、アングルもバッチリと2人を映していた。
その時だった。
2人がキスをした。
思わず声が出そうだったが我慢した。
2人がそんな関係だとは思わなかった。
あんな清楚な遠野さんがあんな乱れてキスをしている。
まるで貪るように音を立てながらキスをしていた。
俺はただそれをスマホで録音していた。
※
事が終わって前田さんが出て行った。
その後で遠野さんはマットの上でしゃがみ込んでしまった。
激しいキスだった。
見ていて声が出そうなくらいのキスの応酬だった。
そんな時だった。
俺のスマホが振動したのは。
「誰っ!?」
遠野さんの声が響く。
振動の内容は友達からのメールだった。
タイミングがあまりにも悪いメールだった。
「いるんでしょ?隠れていないで出て来たらどうなの!」
俺は観念して姿を現した。
「今井君!どうして?」
「ごめん、俺今日はここの備品整理で来ることになっていたんだ。さ、最初は泥棒かと思ってその正体をスマホに撮ろうとしたんだけど、まさか2人があんなことしてるとは思わなくて…決して盗み見た訳じゃなくて」
「何よ、白々しい…やましい気持ちが無いならすぐに出て来たでしょ?それなのにねっとりと録画してたのは興奮してたからでしょ!」
「そんな…もし出て来たら許してくれたのかい?」
「許すわけないでしょ!あんな恥ずかしい所を見られたんだから!」
「そんな滅茶苦茶だよ。第一遠野さんだってどうかと思うよ?2人で体育倉庫であんなことしているなんて」
「何よ、脅迫するつもりなの?」
「そ、そんなこと言ってないよ。勝手に思い込まないでくれないかな?」
「人の人生踏みにじるなんて最低ね」
「な、何馬鹿なこと言ってるんだよ!穏便に済ませたいのに勝手なことばかり言ってさ!もう俺帰るよ」
「ま、待ちなさいよ。先生に言うつもりでしょ?証拠の動画も持ってるんだし、そんなの絶対にさせないんだから!」
「そんなことする訳ないだろ。どうすれば信じてくれるんだよ?俺はただもう今日は帰りたいだけだよ!」
「あんたにも同じように私の恥ずかしい事と同じことをしてもらうわよ。それであんたも先生に言うことも出来ないんだからね」
そう言うと遠野さんは俺に近寄り背中に手を回す。
「え、ちょっと待ってよ。遠野さん!何する…」
俺の口は遠野さんの口で塞がれて最後まで話せなかった。
こうして俺のファーストキスは遠野さんに奪われた。
甘いレモンの味がした。
クラスでは見た目も清楚で大人しそうな遠野さんがあんな事をしていて、あんなに短気で怒りっぽいなんて思わなかった。
口の中に舌が入ってくる。
それが舌と舌とをこすり唾液やら感触やらが脳を襲う。
電気が体に入ったような感覚だった。
「これであんたも同罪よ。もしあの事を言ったり、動画で見せるようなことをしたら私もこの事をいうからね!わかった?」
「そんな滅茶苦茶な…ちょっと待ってよ」
「嫌よ、あんたみたいなダサ男と一緒に歩くのなんてごめんだわ」
そう言うと遠野さんは倉庫からさっさと出て行った。
今日は色々と清楚な女の子のイメージが幻滅して、散々だった。
そしてファーストキスも奪われてしまった。
可愛い女の子が清楚だなんて誰が言ったんだよ!
大ウソじゃないか。
恋なんて出来ないままキスから始まったし、女子と話もロクに出来ないまま散々な扱いを受けたじゃないか!
こうして俺は遠野さんと前田さんとの秘密を共有することになったのだった。
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