世界で一番短いセカイ系。
二十五日
ファンタジーっぽい世界
冒頭
そして文月くんにとって、恋人の望みというのは阻止してはいけないものであります。
「やぁ、文月君。わたし、世界を滅ぼすことにしたから」
「おやおやチョコさん。朝っぱらから物騒なことを言いますね」
文月くんは焦りました。
だって文月くんは、恋人のチョコさんが世界を愛してやまない博愛主義者であり、世界中の贅の限りを尽くさんとすれば尽くせてしまうようなお金持ちであり、幸福という言葉を擬人化して表現したら、こんな姿になるだろう、と思っていたからです。
そんなチョコさんが
チョコさんはココア色の髪の毛を指先にくるくると巻きつけながら、口を尖らせます。
「だって、わたし、この世界には少々飽きてしまったの」
「飽きるとか、飽きないとか、そういう問題なのですか」
「飽きて飽きて飽き尽くしました。隅から隅まで完璧に飽きて、いくら飽きても飽き足らないほどに飽きました」
「いったい、それのどこが『少々』なのでしょう?」
チョコさんは、そこまで言ってからハッと気づいたように口を開いて、すぐに文月くんの方を向き直り、バツが悪そうにもじもじとしました。
「あ、あの、べつに文月君に不満があるっていうか、そういう意味じゃなくてね?」
「日頃からチョコさんの愛のすべてを一身に受けているので、俺はそんな勘違いはしませんけど」
「うわ、うれしい! セックスする?」
「しませんけど」
文月くんはあきれたように首を横に振ります。
チョコさんは可愛らしくて素晴らしい女性ですが、もう少し恥じらいという観念を持った方がよろしいと思いました。
ところでチョコさんが世界を滅ぼしてしまうというので、文月くんは大変です。
チョコさんが「光あれ」といってしまえば、光が生まれてしまうような世界なのです。それくらいの財力と権力と暴力を持っているのがチョコさんという女性なのです。言ってしまえば神様のような存在なのです。
「チョコさん。チョコさんが世界を滅ぼしてしまいますと、俺も一緒に滅んでしまうという結果になるのです」
「わたしは文月君だけを残して世界を滅ぼすという、針の穴に糸を通すような器用なことだってできるのよ」
「針の穴に糸を通すのはだいたいの人類が可能だと思うんですが」
「物の例えってやつなの。だいたい、文月君はできないじゃん」
「できませんけど」
手先が恐ろしく不器用な文月くんは「ぐぬぬ」と言って黙り込みます。
さて、困りました。
文月くんは万策尽きたと言った様子で頭を抱えますが、その時、
「では、この世界も意外と捨てたものじゃないってところをアピールしてみせます」
「文月君、今日は妙にやる気だね」
「えぇ、もちろんですよ。俺はけっこうこの世界が気に入ってるんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます