第十一話 戦闘

 一刀の内に、枯木は白い化け物を真っ二つにした。

 次いで返す刃でもう一体。その奥より迫りくる一体を、刀を十字に閃かせて四分割したのち、脚を踏み込みその奥の異形の頭蓋を割った。だが、異形は尽きない。森の奥より数多来る。

 噴出する血液で身体を真っ赤に染め上げながら、グンカは森より現れ出る白い異形をひたすら斬っていた。錆びているはずの刀身は白銀の光を帯び、血と脂による切れ味の劣化も見られない。古い符牒コトバだ。彼がまだ人間だった頃に用いていたチカラ。


「で、なら」


 斬るたびに、白い異形は声を発する。

 人の用いる言葉をばらばらにしたような奇妙な悲鳴をあげる。


「ならき」


 斬れども斬れども、森より異形は現われる。現われるたびに真っ二つに四分割に八分割に、あるいは頭蓋へ必殺の突きを打ち、そのたびに不可思議な断末魔を聞く。


「でいな」


 夥しい血雨の最中、枯木の化け物は斬り続ける。内に燃え続ける怒りを原動力として、ただひたすらに殺し続ける。


「いならき」

「で」


 物の数ではなかった。このまましのぎ続ければ、イラを護ることは容易だろう。いくら数が多くとも所詮は下級ザコ。尋常の人間に脅威であれども、人を外れた化物グンカの相手ではなかった。圧倒していたのである。枯木の怪物はその並外れたチカラで、白い化け物たちを前に。

 

「──こんばんは」


 ちりんちりんと涼やかに鳴る、その鈴音を聞くまでは。


「────ッ!?」

 

 瞬間、グンカは跳び退いた。

 草原の上を滑り、野原と森の切れ目から距離を置く。

 白の化け物たちは相も変わらず大口を開けて四足歩行をしている。だが、違う。今の寒気は、悍ましさは違った。知性ある悪意だった。

 群れる白の化け物のその奥に、着崩した着物姿の女が一人、婀娜あだな笑みを浮かべて立っている。周囲に浮かぶ、長方形のふだの数々……呪符。いずこかより鈴の音を鳴り渡らせて、人の姿かたちをした化け物は在った。

 もっとも殺すべき者達のうちの一人が、現れた。

 廃工場のその奥に嗤っていた女。

 餌と喰われる人々を、ひた嘲笑っていたその女。

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