王子の幸福
服についた最後のルビーを持って、貧しい人の所に飛んでいくツバメを、王子は見送りました。
「やあ、王子様。だいぶ寒くなってきたね」
足元から声をかけて来たのはこの町の町長でした。
「あのツバメは、まだ君のそばにいるのかい?」
「ええ。どうやら、賭けはボクの勝ちのようですよ」
最初に賭けを持ちかけたのは、王子の方でした。
『どうやら、あのツバメはボクに惚れているようです』
何となく王子が口にした言葉を、町長は笑い飛ばしたのです。
『まさか。君の服についている光に惹かれているだけだろう。カラスとか、鳥はキラキラしている物が好きだというからな』
『では、賭けましょう。もし本当にツバメがボクに惚れているのなら、冬になってもここにいるでしょう』
『それだけではおもしろくない。お前の持っている宝石や金箔の服をツバメにどこかに運ばせよう。コキ使われれば嫌になってお前から離れていくだろう。それに、宝石が気に入っているのなら、それが無くなった時にどこかへ行ってしまうに違いない』
『その条件でいいでしょう。もし私が勝ったら、新しい服と宝石を用意してくださいよ。今よりも高価な物をね』
今、王子が立っている広場の木は、すっかり葉を落としていました。
「では、あのツバメが凍死するまでこの町にいたら私の勝ちです。約束の物をお願いします。ああ、また新しい服や宝石がもらえるなんてボクは幸せだ」
「はいはい、分かったよ」
王子の像を離れながら、町長は心の中で呟きました。
(やれやれ、本当に王子の服を買わないといけなくなるかもしれん)
いくらかかるのだろう、とため息をついた時、町長はいい事を思いついた。
(何、相手は動けない銅像だ。負けたらとかしてしまえばいいか。むこうはまさか俺がこんな事を企んでいるとは思うまい。おめでたい王子だ)
幸福な王子あらすじ
ある町に立派な王子の銅像があった。その銅像は宝石で飾られ、その様子から町の人々に「幸福な王子」と呼ばれていた。
王子はある日、町の貧しい人々を見て哀れに思い涙を流す。その涙に気付いて声をかけてきたツバメに、自分の服についた宝石を困っている人々に渡してくれるよう頼む。ツバメは越冬するのを忘れて宝石をくばり続け、凍死してしまう。そしてその頃には飾りの宝石もなくなり、王子はみずぼらしい姿になっていた。そして「幸福な王子」の名にふさわしくないと思った心ない人々は像を下ろし、溶鉱炉で溶かす。
その頃、神様の言いつけで世界で一番尊い物を探している天使がいた。ゴミ捨て場で溶け残った王子の心臓と、ツバメの亡骸を見つけた天使は、これこそふさわしい物だとそれらを天国に持ち帰った。そして王子とツバメは楽園で暮らす事となった。
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