仇討前夜
ハチが大きな知らせを持ってきたのは、ある夜のことでした。
「知ってますか? カニの母さんが、猿の投げたカキにあたって死んでしまったそうですよ」
それを聞いたクリが、刺を逆立てて驚きます。
「本当かい? あの猿には困ったもんだ」
牛糞も、もたもたと応えます。
「あーあ。あの猿はいつもおいらをバカにするんだ」
「おらも、胴に傷を付けられた」
ほら、と臼は胴の引っ掻き傷を見せました。
「私も、前に棒でつぶされそうになりました」
ハチはぶんぶんと文句を言いました。
それを聞いた臼は、なにやらしばらく考え込みました。
「もし、サルを殺しても、今なら仇討ちという事になるな」
その瞬間、なんともいえない空気が辺りに漂いました。
「それならば、つかまっても罪に問われる事はない」
「それどころか、友人の母の仇をうったのだから立派な事とほめられるかも知れませんねえ」
ぼそっとハチが呟きました。
「あー。もしも罪に問われても、口裏をあわせてカニに殺害を依頼されたっていえば、ずっと軽くなるかもねえ」
牛糞がパチパチと目をしばたかせた。
「どうせなら、あのバカ猿、できるかぎり苦しんで死んで欲しいな」
クリがケケケと笑いました。
そういうことで、一同は計画を練り始めました。
「それにしても、イヤな奴を殺す口実ができてうれしいな。これで日ごろのうらみつらみが晴らせますしねえ」
とハチが呟けば、
「サルがカニを殺してくれてよかったよかった。そうでなければこんなことできないからのう」
臼も満足そうにいいました。
「なに、最初に悪い事をしたのはむこうだからな。正しいのはこっちなんだ。遠慮することはねえ。徹底的にやろう」
クリが威勢よく言いました。
「うまくいけば、カニからお礼ぐらいはもらえるかも知れませんねえ」
一同は、そういって笑いあいました。
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