永遠(とわ)に共に

 おり機の前から、つうはゆっくりと戸口へ向かいました。

「私が鶴だという事がばれては、ここにいる事はできません」

「はたおりをのぞいて悪かった。二度としないから出て行くなどと言わないでくれ」

 与ひょうの言葉に、つうは静かに首を振ります。

 鶴の姿となったつうの姿は、惨めな物でした。反物にするために、自分の羽を抜いたせいで、あちこち傷ついた肌が見えていました。

「あなたは私を助けてくれた優しい人。しかし、お変りになられましたね」

 始めは、一日中ハタを織るのは大変だから少し休め、といたわってくれた与ひょうでした。しかし、反物と引き換えにたくさんの米を野菜を、時には金をもらうようになってから、「もっと織れ」とせかすようになったのです。

「あなたが欲深くさせてしまったのは私かもしれませんね。どうか、私がいなくなったらもとの優しいあなたに戻って……」

 開いた戸から、冷たい雪が吹き込みます。つうは夜空に羽を広げ、飛び立とうとしました。しかし、夜闇に白く浮き上がるその体はすぐに積もる雪へと落ちていきました。羽を抜きすぎ、飛ぶ事ができなくなっていたのです。

 かけよった与ひょうは、しっかりとつうを抱きしめました。いつまでもいつまでも……


 与ひょうの妻が死んだという話は、ゆっくりと広まりました。彼女がいなくなったため、与ひょうは反物がつくれなくなった物の、それでも巾着やふくさなど小間物は相変わらずのすばらしい出来だ、と。そして、なぜかつうと入れ替わるように一匹の鶴を飼い始めたと。所々羽根が抜け落ち、血が滲む鶴を、逃げ出さぬよう首に綱をかけ、風切り羽根を切って。

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