世界五分前仮説の向こう側

@amatukitune888

1度きり

世界五分前仮説のその先

唐突に告げられたのはとても冷酷で尚且つ寂しげなものだった。

「今入ったニュースです。落ち着いて下さい!今から五分後に世界が滅亡します。」

アナウンサーの落ち着かない声に世界各地の映像が流れていた。

これはこの残酷な宣告を受けた或るオカルト好きな少年の物語である。

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5:00前

「はぁ?そんな訳が」

ニュースを見ていた少年は、独り暮らしを始めて一年目、初めてのそして最後になるだろう独り言を言いはなった。地球滅亡論は世界中に蔓延るがとてもリアリティが有るものだった。

ただすぐ受け入れる事が出来た。いや受け入れない事が出来なかったのだろう。

ニュースには、箱根山、浅間山、桜島、他にも名前が分からないような世界中の火山が噴火している映像が、その後には動物がいや正確に云えば植物を含めた生物が病気なのか死んでいっているのかどんどん倒れていく映像が。

ただ人は倒れていく様子がない。

これは滅亡を見ろと云う神様からの天罰プレゼントなのかもしれない

神様は一週間でこの世を作った。が、たったの五分で世界が壊れてしまうのに少年は恐怖心をも覚え、身震いをした。

「伝えなきゃ!これだけはあの子に!」

少しの勇気が少年を動かした。

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3分30秒前

少年は何も持たず、猛スピードで家を飛びだした。

「急がなきゃ!この思いが消える前に!」

あの子の多分、今はそう遠くない‘あの’橋にいるはずだ。

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3年前

「近くにいてくれてありがとう」

少年はあの子の一言に一目惚れした。あの子の両親は3年前の4月に自殺した。橋から飛び降りての自殺だ。両親の遺体は橋の下の川から見つかったものの死んでから7日がたっており、目もあてられない状況だったらしい。

自殺の理由は今になっても分からない。あの子の幼なじみだった僕は慰めることしかできなかった。最初は泣き顔しか見せなかったあの子も段々と笑顔を見せるようになっていき、遂には僕は一目惚れしていた。

告白しようと聞きかじった告白の方法を実践した。

「月が綺麗だよ」

あの子は鈍感なのか天然なのか意味がわからないようで

「月がきれいなのは太陽があるからだよ!」なんて云っていたんだ。

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3:00前

今になって世界が終わることがとても現実にしか思えなくなった。とても短い時間しか残っていないけどあのヒーローはたったこの程度で世界を救っていたのだから驚きだ、とどうでもいいことまで考え始めた。只、走るのは止めない。

何となく橋であの子の両親が自殺したのが分かった。橋は昔から境界だった。鬼が出るといえば境界の意がある橋や門だし、橋姫という妖怪も橋、謂わば境界を守る妖怪として有名だ。あの子のお母さんが僕のお母さんに「疲れた」「死にたい」と愚痴をこぼしているのを見かけた。勿論あの子にはこの事を伝えなかった。多分、子育てにも生きる事にも疲れたあの子の両親は生と死の境界を垣間見ようとしたのだと思う。


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2:30秒前

漸く、橋が見えてきた。

一つの人影が見えた。

もっと沢山の人ご外にいると思ったが思いの外、人はいなかった。

思ったより五分は時間があるものだなと感じた。

僕は橋に近づいた。

橋の人影は僕に気付いたのかくるり

と振り返った。予想通りあの子だった。

「もう世界がおわっちゃうね」

あの子が口を開く

「そうだね」

僕はこれ位の事しか返せなかった。

「どうしたの?」

僕は遂に決心した

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1:00前

やっと伝えることができる。

「君のことが大好きだ!!!」

「知ってるよ」

予想外の返答だった。あの子は優しい微笑みで続ける。

「あの時言ったじゃない。ほら『君』っていう『太陽』がいないと私は輝けないから」

「そういうことか」

鈍感なのは僕の方法だったらしい。告白の恥ずかしさと二重で顔が赤くなった。

「最後に伝えれて良かった」

10秒前

9秒前

僕達は手を固くつなぎ

5秒前

4秒前

頬に涙をつたわせた。

3秒前

2秒前

まって!滅亡しないでくr...

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さて彼らは幸せになれたのでしょうか?

この兔を追いかけ穴へ飛び込んだ、不思議の国のような御伽話。

えっ?

世界は滅亡したはずだって?

彼らや貴方達は世界が一度しか廻らないと思っているのですか?

もしかしたら夢かも?自分が胡蝶になる夢(リアル)なら本当に胡蝶なのかとしれませんが...

神様は世界を一週間で作ったのですよ。

世界が五分で終わってもおかしくない。いや世界が出来たこと自体五分前なのかも。

創るのは時間がかかっても、壊すのはあっという間。

この‘ループ’から抜け出せないし、この状態じゃ生きているのか死んでいるのか分からない。

シュレディンガーの猫のような状態、いや同じ一連のストーリーを繰り返すが悲劇に向かうのはパブロフの犬のような状態なのかもしれません。彼らは気付かず涎を垂らしているのかも。

もしかしたら考えているようで何も考えてない哲学的ゾンビ?

彼らの脳だけが別のところにあったり。授業は学ぶ度に減っていくようですが彼らは学ばないので滅亡までの時間は減らないようです。はぁ。こんなつまらないタイムパラドックスみたいです。

狂った帽子屋さんも三月の兎もこんなパラドックスを考えるのはイヤでしょうね。

おや?そろそろ時間ですね。

ではまた何処かで。

あっそうそう

彼は最後に何かを見つけたようで滅亡を止めようとしたようですが何だったのでしょうか?こんなこと‘前回’は無かったのに。それとも世界が恋しくなってしまったり?

まあ、関係のないことですが。

では、今度こそまた何処かで

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唐突に告げられたのはとても冷酷で尚且つ寂しげなものだった。

「今入ったニュースです。...

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