おまけ・アゴクイですか?いいえ違います



「そいやアゴクイの話題もやってたけどさ、やっぱすげーなーアゴクイ。今までもさー、そんな気にしてなかっただけであったんだろうけどさー、やっぱこう気にしだしたらめっちゃいい気がするわー。流行るだけあるわなー。あー…BLでも流行んないかなー」


親友と廊下を歩きながら朝のテレビ番組の話をしていた筈なのだが、気が付くとよくわかんない話題になっていた。

…まぁコイツと話してるとなんでもBLの話にすり替わっていくのでいつものことなんだけども。

だけど今日はBL話になる前からよくわかんなかったので、取り敢えず質問してみた。


「…アゴクイってなに?」

コイツに質問すると「そんなことも知らないのか?!」とBL本を読まされることも多いのだが、流行りについていけないのも嫌だし仕方ない。

そう思っていると


「え、健!そんなことも知らないのか!」

親友は大げさな程信じられない!という顔をこちらへと向けた。


(あ、でた…これはまた読まされるパターンか…?)

嫌な予感に遠い目をしていると、親友がオレの方へ距離を詰めてきた。

「え…おい、近っ」


ドンッ!


近づいてきた親友は、近くにあった壁にオレを追い込むようにしながら、ドンっとオレの両サイドに手をついた。

「まずはー、これが壁ドンだろ?」

そう言ってにやりと笑う。顔ちっか!


「……や、壁ドンは知ってるし!」

近すぎる距離を離そうと親友の肩をぐっと押すが、親友の力が思ったより強くびくともしない。

(オタクのくせにどっからそんな力出るんだよ…!)

ぎっと親友を睨み付けていると「……何やってるんだ」と横から声が聞こえた。


相変わらず親友が動こうとしないので、壁ドンされたまま声のする方へ視線を向けると…

なんと、そこにいたのは会長だった。



「あぁ、会長!健がね、今流行りのアゴクイがわかんないっていうから実践して教えてあげようかと思って」

「……アゴクイ、だと…」

会長はそう呟くと、真顔でオレたちの方をじっと見つめた。

…般若の顔を止めようとすると真顔になるらしく、最近の会長はもっぱら真顔だ。

通り過ぎて行かずに足を止めてこちらを見たままの会長を見て、親友がニヤリと笑った。


「そうだ、会長!アゴクイわかるでしょう?健にアゴクイ教えてやってくださいよ!」

そう言いながら親友はオレから離れていくと、会長の背中をぐっとオレの方へと押した。


「……」

「………」


親友に押されるまま素直にやってきた会長は、さっきの親友の壁ドンぐらい距離が近くて、なんかすごい迫力だ。

(……近くで見ると、やっぱすげぇ美形だな…まつ毛長っ)


そう思っていると、無言のままの会長の右手がオレの方へスッと伸びてきて。顎を掴まれたかと思うと顔をクっと少し上に向けられて、そして…



カプッ



躊躇う様子もなく一直線に顎を甘噛みされた。



「っ…!?!」

「え……?」


あまりの驚きに体を後ろへ反らせるが、壁が邪魔して上手く逃げれない。

すると会長はゆっくりとオレの顔から離れていって…やっぱり真顔でオレを見つめていた。


「……これがアゴクイだ…」

「………っ」


会長が少し体を離して今は顎に軽く右手を添えられてるだけなのに、心臓がバクバクして動けそうもない。

ただただ無言で会長と見つめ合っていると


「え?会長、アゴクイって…もしかして知らなかった?」

と親友が…ニヤニヤを抑えられないのか両手で口を抑えながら興奮気味に聞いてきた。


「……アゴクイは…顎を食うことじゃないのか?」

真顔のままほんの少しだけ目を瞠った会長が、オレから顔を反らして親友へと顔を向けた。


「違いますよ、会長。アゴクイは顎をクイっと持ち上げることですよ!途中まで合ってましたけど!むしろオレとしては今の方が大歓迎ですけど!!」

と親友が興奮しながら親指をグッと立てた。

口を抑える手が片手になったため、親友のニヤニヤとしただらしない口が隠し切れずに見えている。


(だったら最初からそう言えよ…)

そう思いながら親友をギロリと睨むと


「……っそう、だったのか!ごめんっ!」

そう言いながら、会長がトンっとオレの右横に手をついた。

うおぉ。まさかの壁ドン。



きっと本人は壁ドンするつもりじゃなくて普通に壁に手をついただけなんだろうけども。

目の前にある会長の綺麗な顔が真顔のまま真っ赤に染まっていて…

…なんか親友にされた時と違って胸がキュンとしたんだけど…しちゃったんだけど……だけどそれ以上にオレは、


(……ニヤニヤし過ぎだろ、お前。)

隣でガン見している親友を今すぐ消し去りたかった。




終   2015.10.19



(私の実際のアゴクイ勘違いをネタにしたものです)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る