王道ですか?いいえ違います

蜜缶(みかん)

王道ですか?いいえ違います(完)

山奥にある全寮制の男子校に入って3年目の春。

なんとも珍しい転入生が来て、しかもソイツと2人部屋の同室になってしまった。


転入生は美少年で…って、高3の男子に美少年は変かもしれないが、なんというかアイドル系なイケメンだったから美少年て言葉がすごく合うと思う。

で、その美少年な転入生・輝は生徒会の役員たちと知り合いだったようで、転校初日から役員と一緒にご飯食べたり遊んだりする仲なんだけども、最近なんでかそれにオレも一緒に連れていかれる。



ちなみにここの生徒会の人々は、輝に負けず劣らずのイケメンだ。

別に顔で選んでるわけじゃない筈なのに今年はいつもに増してイケメン揃いで、カッコイイ感じの会長に優しい笑顔の副会長、チャラめな会計、武士みたいな書記に可愛い後輩の庶務数名。

腐男子な親友によると、「限りなく王道に近い!」らしい。


王道の意味が分からず「何それ?」って聞いたら小説サイトをいくつも見せられて、オレは腐男子じゃなかったのに王道のことがよーく分かった。っていうか分かるまでサイト見させられた。

まぁでも小説の世界みたいに親衛隊やらはないし、生徒会の皆様がきたら「キャー!」とかそういうことはない。

みんなイケメンで人望があるからそこら中から挨拶や声をかけられたり後輩の憧れになったりするけど、所詮その程度だ。

同性愛だって多少あるけども、大っぴらにする人なんて極々一部だから、王道転校生を生徒会全員で取り合う!とかはないと思う。…多分。


だからどんなに王道風でオレが巻き込まれ平凡風であろうとも、オレが転校生に連れられて生徒会と一緒に食事をしようが遊びまわろうが誰一人文句を言う人もいないし、ましてや親衛隊からの制裁なんて、親衛隊がいないからありえないのだ。



…にもかかわらず、オレは生徒会と共に食事や遊びに行くことに苦痛を感じている。






(このメンツで食事すんのは、胃が痛いんだよな…)

「……はぁ…」

「?でっけえため息だな?」

「…あれ、口から出てた?心の中でしたつもりだったのに…」

「なんだそれ?大丈夫か?」

輝は元気っ子だが王道のように無神経にズバズバ言ったりしない、いたって常識的な友人だ。

輝に関して苦痛は何もない。


「ご飯も進んでないじゃん。ほんと大丈夫?」

「や、大丈夫。ちゃんと食べてるし」

副会長の心配そうな顔に、優しい声。

輝とかかわるようになるまで生徒会の人とはしゃべったことはなかったが、副会長は王道のように腹黒ということはなく、普通にいい奴だ。


「…お前は、ため込みそうなタイプだよな」

クールな書記も、ぼそっと言った一言でオレを心配してくれてるのが分かる。

申し訳ないやら嬉しいやらで、返事ではなく情けない笑顔を返した。


「…食べないんなら、これもーらいっ」

「あ!それ、最後に取っといたのに!」

そういってひょいっとから揚げを奪ったのは、見た目がチャラ男な会計。

コノヤロウ…と睨むと

「…なんだよ、ちゃんとさっさと食べないから悪いんだからなー」

とか言いながらも、お詫びに自分のとんかつを2切れもくれた。

多分こいつなりに心配してくれてるんだろうと思うと、暗くなってる自分が情けない。



「………」

「………」


そしてオレが苦痛を感じているのはただ1人。

無言でオレを睨み続ける我らが生徒会長様だ。





何でかわからないが、輝に連れられて初めて役員たちと顔を合わせたその日から、会長はオレをひたすらにらみ続けるのだ。

他に何か嫌がらせをするわけでもなく、罵声を浴びせることもなく、ただただ無言でオレをにらみ続ける。

ただそれだけ。

…だけどそれは、意外に堪える。




あまりの睨み具合に初日から「うわー…何だコイツ」と思ってはいたが、会長が人見知りなのか、もしくはそれが会長のつねなのかなと思ってなるべく気にしないようにしていた。

だけど1度遊ぶ時輝との待ち合わせに遅れて、オレだけ後から合流したことがあった。

みんなを見つけて、声をかけようとしたその時、オレは見てしまったのだ。


オレ以外のみんなといる時は、凄く笑顔で楽しそうにしているのを。

そしてオレが来たと分かった途端に、極道のような恐ろしい顔になるということを。



その後たまたまトイレで会長と鉢合わせた時に

「…オレ、なんかした?」

って聞いてみたけど、鋭い視線を一瞬向けられただけで完無視されて終わった。





(多分、会長はオレのことが嫌いなんだろうなぁ…)

だけど会長は毎回他の役員とともにオレと輝の部屋へ遊びに来るし、食事に誘いにくる。


(会長は王道小説のように、輝のことが好きなのかな…?)

だからオレがどんなにいけ好かなくても、輝が連れてくるからしぶしぶ受け入れる。

そういうことなのかもしれない。


…だけど理由が何にせよ、嫌われ、無言で睨まれるのは、正直しんどい。

皆の手前言い出せなかったけど、オレはそろそろ限界だった。





ピンポーン

「お、来た!健、飯行くぞー」

輝は玄関の方向へと向かいながら、当たり前のようにオレに声をかける。


「…オレ、パス」

「……え!?なんで…!?」

断られることを予想してなかったのか、輝はものすごく驚いた。


「オレ、他のヤツと食べるから。だから今日からパスね」

「え、なんで!なんで急に…他のヤツと約束したんなら、今日は…仕方ないけど…明日からまた一緒に食べようよ」

輝にしては珍しくしょんぼりしてるから少し胸が痛んだが、だがオレの決意は変わらない。


「明日からも無理。オレは別で食べるから、皆にもそう言っといて」

会長以外とは時々会いたいけど…でも別に普通に話しかければいい話だし、わざわざ一緒に飯する必要はない。

うん、これでいい。これがいい。


「…じゃあ今度からソイツも一緒にみんなで食べよう」

「ヤだよ。オレはいいから、輝は皆と食べてくればいい」

「な、んで…なんでだよ!オレと食べんのそんなにヤなの?」

「別にそうじゃないけど…輝がこっち来て食べる分には大歓迎だし…」


輝なら「わかったー!」ってすぐみんなのとこへ行くかと思ったのに。

「じゃあなんで…?なんかあった?」

なんでなんでと、理由をしつこく聞いてくる。

そうこうしてる間にもしつこくピンポーンとインターホンが鳴っているのに、輝は出に行く気配がない。



「…ねぇ、なんで」

眉をハの字にしながら何度も聞いてくる輝に、仕方なく理由を言うことにした。


「…だって、会長来るだろ」

「………え?」

「オレ、会長と会いたくない。会長さ、いつもオレんことすげぇ睨んでくんの。…多分オレのこと嫌いなんだろうけどさ、そんなんされたらオレも気分悪いし、正直飯がまずくなる。お互い嫌いならかかわらないようにするのが1番だと思うんだよね」


会長が輝のことを好きだとしたら、輝の中の会長の評価が下げてしまうかもしれないが…でもきっと輝は事実を言わないとちゃんと納得しないだろう。

言い切った後輝を見ると何かを言おうと口を開いたが、声が発せられるよりも前に、ガチャ…っと何かが落ちる音がした。


え?と思って音のしたリビングから玄関へと続く廊下を見ると、そこにはなんでか生徒会役員がいて、会長の足元に鍵が落っこちていた。



「え…?みんな何で中にいんの?」

最初に口を開いたのは、輝だった。


「や…えと、チャイム何回鳴らしても出てこないし…でも人のいる気配はしたから…中で何か起きてたらどうしようと思って…その…」

「…会長のカギは、緊急時のためにどこでも開けれるようになってるんだ」

返事をしたのは、副会長と書記だった。

会長はいつもの鋭い眼光はなく、鍵も拾わずになんか無表情に固まっていた。


「あぁ…そうなんだ…」

輝がそう言って、なんか微妙な沈黙。



(…もしかして、聞かれたのかな?)

陰口みたいになってしまったなら申し訳ないが…でもまぁ事実だし、仕方ない。


「…オレ今日から別の人と食べるから。じゃ、みんなでご飯いってらっしゃい」

そう言ってそそくさとこの場を後にしようと、役員の横を通り抜けようとした時にグっと誰かに腕を引かれた。



「……な…んでっ…」



「………えぇ?」


振り返ると、オレの腕を引いて引き留めたのは会長で、その会長はというと…なんでかほろほろ涙を流していた。


(…なんなの?え?何事……?)

いつもあの般若の顔をオレに向けてくる会長がほろほろと泣いている。

そして、距離を取ろうと腕を引いてみても、がっちり腕をつかまれていてびくともしない。



そんな会長を見て

「会長、泣くな!男だろ!」

「ほら、健が見てるだろ?情けない男と思われるぞ?いいのか?」

「おい、そんなことで泣くなよー、馬鹿だなー」

周りからは泣かないようにと声がかかるが、何で泣いてるんだと聞く人は誰もいなかった。



何故誰も会長が泣いてることを不思議と思わないんだ。

さっきの陰口的なものを聞かれたとしても事実だし、泣かれるようないわれはない。

(もうマジなんなんだ。この人はオレに何をしたいんだ…)


正直訳が分からなくて、少しイラッとした。




「……会長、なんで泣いてんの?」

「―…っ!」

オレの問いかけにビクッと肩を揺らすが、何も答えない。


「さっきのが陰口みたいに聞こえたなら謝るよ。…でも会長がオレ睨んできたのは事実でしょ?オレが嫌いなんでしょう?だったらかかわらなければいいじゃんか。だからこの手、離して」

「………っ」

返事をしないくせに、それでも手を離さない。


「……手、離せよ」

あ、思わず低い声が出てしまった。と悪びれもなく思っていると


「………ぃやだっ」


そう小さく声が返ってきた。




「……あんたなんなの?何がしたいわけ?とりあえず離してよ」

「だって、離したら、どっかいくだろ!オレともうかかわらなくなるんだろ?そんなんヤだ…」

弱弱しい声とは裏腹に、オレの腕を握る会長の手にグっと力がこもった。


「ヤだって…あんたガキかよ。お互い嫌いなのになんで一緒にいなきゃなんねーの?」

イラッとするオレに、会長はとんだ爆弾発言をした。



「…っオレは、健のこと嫌ったことなんかない!健のことが好きなんだ…!睨んでるつもりは…なかったんだけど…ごめん。なるべく直すから…頼むから、嫌わないでくれ…っ」



「……はぁ?」

ぽかんとなるオレを他所に、輝や他のメンツは「やっと言ったか」「バ会長は世話焼けるぜ…」と、なんだか最初から知ってた風だ。


「~~…っでも!睨んでるつもりなかったにしても、いつもオレとしゃべんないじゃん!トイレで2人っきりになった時すら完無視だったじゃん…!」

そう慌てて反撃するも、

「健といるといつも緊張して、何しゃべっていいか…わかんなかった。トイレって…あの時だろ?健が隣で用を足してるから…なんか見ちゃいけない気がしたし…余計……緊張するし…」

とか顔をぽっと赤らめられて、オレが撃沈した。



「……お前がそんな変態だとは思わなかった」

まさかトイレでそんなところを見られているとは…と思ったら「オレは見てない!無実だ!」とか言われた。

なんか色々信じられん。




茫然としつつも昼飯の時間が終わってしまうからそこはなんとかお開きにして、

その足で親友に直行して相談したら「マジで!wリアルな会長×脇役平凡きた!ww」とかニヤニヤされたが、それは絶対にない。




……あるとしたら、脇役平凡×泣き虫会長だろ。




終   2015.4.22

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