銀色の麻薬

流民

第1話

あちこちから聞こえてくる轟音、そして人を狂気のどん底へ誘う光。

そんな中で私はただ狂気と戦っていた。

いやむしろ私の中で脳内麻薬が分泌されその狂気すらも快感に変わってしまっている。

スリットに実弾を投入する、そして目標に向かって進んで行くタマ、私はこの狂った世界に生きている。

何時からこんな世界に足を踏み入れてしまったのか、もうこの世界でしか私は生きていけなくなっている。

もう私は正気ではいられない。

狂った世界の住人と言う事にあまりにも馴染み過ぎてしまったからだ。

辺りから吹き出す煙、パンパンと弾き出されるタマ、そこでは命は一発のタマよりも安く扱われている。

しかしこの地獄に落ちて行ったものは誰もその事に気づかないし、不思議に思うこともない。

なぜなら、その地獄に集まる人達は皆、この音と光に惑わされ、一発に命を削って生きているからだ。

そんな私もその中の一人だ。

いつかこの地獄から抜け出したいと強く願ってはいるが、おそらく抜け出す事は無理だろうと心の片隅で思っていることも事実だ。

今日も実弾を抱えてこの地獄にやってきてしまった……それはもうこの地獄の音と光に見せられてしまっているからだ。

それがどれだけ危険な事かも自分ではよく解っているはずなのに、それでもその地獄に行かずにはいられなくなってしまっている。

それはまるで、食虫植物の甘い匂いに誘われ、よっていく小さな虫のように。

そう私はこの地獄の中では小さな虫に過ぎない。

甘い蜜に誘われて養分になる為の小さくて愚かな虫でしかない。

しかし、そんな事が解っていたからといって私には選択の余地などほとんどないのだ。

この地獄で死ぬか、若しくは地獄から這い出てどこかでのたれ死ぬか、もう私にはその二つある地獄の選択肢しか残されていない。

なぜならもう平和な世界に帰っていくには、私はあまりにも地獄に足を踏み入れすぎたから……

だから私は今日もこの地獄で狂気と戦う、いやむしろ狂気を楽しむと言うほうが正しいだろう。

しかし、今日でその実弾も切れてしまう……もう私もこれが最後だ。

もっとまともに生きていく事も出来たのかもしれない。

いや事実私もそのようにまともに生活を送っていた時期もあった。

しかし、何処でどう道を誤ってしまったのだろう……

もう私には後戻りはできない。

だから私は今日も朝から地獄で実弾をスリットに投入して踊る銀色のタマを見ている。

 窓から見えるあの眩しいばかりの平和な世界を横目に……

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