妖精の恩返し

日捲 空

始まり

《妖精の心得》

1つ  人の邪魔をしないこと

1つ  人に気付かれないこと

1つ  人に見つからないこと



────以上の事が、原則的な妖精の心得です。基本的に人間は私達、妖精のことは見えませんが、この心得に従うように──」


 なんて、細かい規則とか取り決めとかを先生が話してるけど、ぼくの中にはあまり入ってこないです。

 だって、眺めてるだけだった人間の国にやっと行けるのです!

 あぁ、早く先生の話が終わって欲しいです。


「──みなさん、青い指輪は付けましたね。この指輪は妖力を3回使うと戻ってくる仕組みになっています──」


 そうそう、その妖力を使って、人間の国で『ささやかな良いこと』を3つしてくるのが妖精学校の課題なのです。

 


「──以上で説明は終わりです」

「やったです!先生、ぼく行ってきまー……」


 その言葉を言い終わるまでに、待ちきれなかった妖精が一人、ガラスの無い窓から飛び出した。


「あーあ、ヤヨイが行っちゃった」

「ヤヨイ、妖力は強いけど、天然でせっかちなんだよなー」

「前から人間の国にも行きたがってましたし」


 同じ課題を前に、説明を聞いていた妖精達が口々に話をしている。

 春色の長い髪の先生が諦めたようにため息をついた。


「ヤヨイのあのスピードでは、もう雲を抜けていますね……仕方ありません。まぁ、特に競争ではありませんので、みなさんも出発しましょうか」

「はーい」


 小さな妖精達が噴水の横を通り、花園を抜け、人間の国へと降りていく。

 早々に戻ってくる妖精がいることを、今は誰も知らない。

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