第31話② むか~しむかし。
【トラウマ】
物心もつき、活発になってきて如実に思うこと。
ユキは、これでもかというくらいスポーツに向いていない。
走るだけならそこまで遅くないが、そこに他の動作が加わったらどうだ?
複数の動作が絡むと、突如としてそれぞれの動作がシンクロしなくなる。
要するに不器用なのだ。
一つの、しかも単純な動きしかできない。
ユキの両親はスポーツ好きで何でもこなす。
そんな二人の子供なのに何故?
全く引き継いでくれていない。
突然変異としか思えない。
ちなみに妹は顔もいいしスポーツもできる。ちゃんとバランスよく引き継いでいる。
スポーツが大嫌いになった原因。
それは以下のような決定的な出来事があったからだ。
父親とのキャッチボール。
何度やっても飛んでいるボールをノーバウンドで取ることができない。転がっていったのを追いかけて行き、止まったのを拾ってくるので精一杯。他の幼馴染の子供と比べても明らかにどんくさい。
それなのに、「ウチの子ならできるはず!もう少しやればできるのでは?」と、期待。
引き際を間違えてしまい、熱心になり過ぎちょっと怒ったところ、強烈なトラウマになってしまった。
それ以来、二度とボールを触らなくなった。
水泳。
初めて子供達全員で隣の地区のプールに行く。
注意しておくのを忘れていたため、ユキは間違えて大人用のプールに入り、見事に溺れる。
水深120cm。
身長よりも深いプール。
まだ幼稚園にも行っていない、泳げない子供がいきなりこのプールに浅いつもりで入ってしまうと…そこはもう深海のようで。
それまでは、泳げないけど特別水を恐れることも無く、普通に川に入ったり浅いプールでチャプチャプやったりできていた。
この件で、また一つ強烈なトラウマが増えた。
他の幼馴染達は最初から浅いプールに入り、溺れることもなく大はしゃぎだ。どんどん上達し、泳げるようになってゆく。しかしユキだけは浅くても溺れたときの恐怖が先に立ち、入ることすらできない。構えてない時顔に水がかかろうものなら大パニックだ。
この日はプールサイドでつまらないひと時を過ごした。
完全に引き離され、置いてけぼりになった。
溺れたことで水=恐怖として認識してしまっている。
それ以来、風呂と洗顔以外は全くダメになった。
プールの授業で顔を水につけられない。
小学校高学年では泳ぐことを強要され、顔を水に浸けた途端大パニックになり、助けにきた担任を引き摺りこんで溺れさせ、二人とも意識不明。救急車で運ばれた。危うく授業で死人が出るところだった。高校生になっても似たようなことがあった。おかげでこれからも「泳げない」は継続予定である。
このような出来事をきっかけに、全てのスポーツから意識して距離を置くようになり、体育の授業では恥のかきっ放しとなる。
こうしてスポーツダメダメなユキができあがっていった。
【互いに意識で両片思い】
桃代はよくやりかぶる。
コケたり、落ち込んだり、ウンコしかぶったり。
幼馴染達といると嬉しくて楽しくて、ついつい調子にのってはしゃぎ過ぎるのが原因だ。
こっちの言葉では調子に乗るコトを「トンピンはねる」という。
トンピンはね過ぎて、やりかぶる。
①コケたり。
今日もみんなよりハイテンションでトンピンはね、派手にコケる。
ユキの家の庭。
何でもないところで足をもつれさせ、
「ぅわっ!」
叫んだ瞬間。
ボテ~ッ!
顔面からいって一回転した。
下はコンクリート。
普通の子供なら確実に大泣きコースだが、
「いって~。」
泣かなかった。それよりもみんなの前で派手にコケたことが恥かしかった。
笑いながら傷口に付着した砂を払い落とす。
身体のいたるところ擦り傷まみれになっていた。
目の前でコケられたユキ。
「大丈夫?」
心配そうに駆け寄ってくる。
「デコ、血ぃ出よぉばい?」
顔面からいったため、擦りむいていた。
「ホントに?」
「こぉ。」
手で拭いて、見せてやる。
「わ~。ホントね。」
早く遊びたい一心の桃代。
ケガのことはあまり気にしていなかったのだが、ユキは
破傷風は怖いとぞ!
父親から聞いていた言葉を思い出す。
「バイキン入ったらおおごとになるばい。洗い行こ?」
ユキは促すと膝や肘、顔に付いた砂をはたいてあげる。
「ありがと。ユキくん。」
毎度のことながら笑顔がとても可愛い。
微笑むたびにドキッとする。
水道のあるところまで手を引いていき、洗わせる。
桃代は優しくされたことが嬉しくてたまらない。
心が温かくなる。
この後ちゃんと消毒した。
②落ち込んだり。
遊び場である近所の小さな川の横の道路は年数回、道端の草が伸び、クルマが通るとき見通しが悪くなると業者による草刈りが行われる。
この日はみんなで川遊び。
いつもの場所に向かう。
ドンポ(=ドンコ)を取ったり、釣ったり、サワガニを捕まえたり、色んな水棲昆虫を捕まえたり。
今日は何が取れるのか、考えただけでもワクワクする。
もうすぐいつも遊んでいる場所。
「あ。草刈りあっちょーね。」
「ホントやん。」
草刈りは、道路の面の高さだけしか行われない。
川に覆いかぶさった部分は刈られないのである。
刈った草は回収されるまで、覆いかぶさった草の上に放置したままになる。
幅が狭い川のため、草で蓋をされたような状態になる。
「下りるとこ、分からんね。」
下り口の階段を探し、
「多分この辺!」
勢いよく桃代が走って行った。
すると、突然
!
「うわ!」という声と共に消えた!
「桃っ!」
「桃代ちゃん!」
消えたところの「草の蓋」には穴。
ユキが心配して走って行く。
覗くと桃代はひっくり返り、ビショビショになって、恥ずかしそうに笑っていた。
「へへへ…ここじゃなかった。落ちた。」
下り口は数メートル先だったのだ。
落ちたところは高さ1.5mほどの石垣の護岸。
「大丈夫?」
階段のあるところに穴を開け、桃代の元に辿り着く。
手を引いて起こす。
「あ~あ、ビショビショやん。一回帰ろ?」
「いーよ。どーせ濡れるき。」
「そぉ?」
納得しかけて、
「やっぱ帰ろ!」
ユキの目の色が変わる。
ケガをしていた。
「え?いーよ。」
遊びたいばかりの桃代。
「こぉ!血。」
指をさす。
ふくらはぎの外側を擦りむいていた。
恐らく落ちた時に護岸か川底の石で擦ったのだろう。
「ホント。でも、あんまし痛くないきいーよ。」
「ダメ!バイキン入る。消毒せな!」
普段ボーっとしているユキ。
こんな時だけ少し厳しくなる。
心配してもらって嬉しい桃代。
「分かった。一回帰る。」
「ちょっと行ってくるね。待っちょって。」
「分かった。先に取りよくね。」
「うん。」
ユキは桃代だけでなく、他の幼馴染がケガしてもこんな感じでものすごく心配する。
ただ、桃代のやらかす回数が圧倒的に多いので、どうしても専属の世話係みたいになってしまうのだ。
そして桃代はそれがとても嬉しかったりする。
③ウンコタレかぶったり。
タレかぶる=漏らす
幼馴染達は、程度の差こそあれ基本アホだ。
最高にアホなのは勿論桃代。次いでユキ、菜桜、こんな感じ。
で、アホ故にしょーもないことが流行る。
この日のブームは、飲み物を飲んでいる最中屁をこいて笑わせ、吹きださせること。
菜桜の家にみんなで集まり、お菓子を食べながらジュースを飲んで駄弁っている。
胡坐をかいて座っていた海。
おもむろに片ケツを上げ、
ぷ~。
ぶ―――!ボタボタボタ。
不意を突かれ、ジュースを飲んでいた全員が吹きだす。
ゲホッ!ゴホッ!ウェホッ!
むせまくる。
「あ~っ!お前ら、人の部屋で!たいがいせーよ!」
菜桜が絨毯の上にジュースをまき散らされ怒っている。
風呂場に雑巾を取りに行き、キレイに拭き上げた。
何事もなかったかの如く雑談再開。
最大の人数が、飲み物を口に含んだ時を狙う。
ブリッ!
親父みたいなキレのある大音量。
菜桜だ。
またもや吹きだす。
「ざまーみれ!」
得意げな笑顔で拳を握る。
でも、また絨毯が汚れた。
既にかなりどーでもよくなってきている。
拭き方がテキトーになった。
雑談は続く。
突如、硫化水素臭。
「うわ!最悪!」
「誰か?くっせー!」
「ちょ!窓開けよ!」
ユキだ。
悪い笑顔で微笑んでいる。
「お前っ!」
バシッバシッ!
「イテ!ごめんごめん。」
菜桜から叩かれ、笑いながら謝る。
換気が終わる。
「あ~くせかった。お前、何食うたらそげな臭いになるんか?」
「さぁ…イモ?」
「イモ食ってそげな臭いになるか?ウンコ行ってこい。っちゆーか次出そうになったら外でせぇよ?」
菜桜から厳重注意される。
「分かった分かった。」
ユキは笑いながら謝る。
桃代はおいしいなぁと思いつつ見ている。
そして、ついにその時が訪れる。
きた!
肛門に圧を感じた。
みんなが飲み物を口に含んだのを確認した瞬間ぶっ放す…予定だった。
が、乾燥した音はしない。
「ぷ~」の代わりに
ぶび~モリモリモリッ!
湿った音がした。
肛門から気体混じりのスラリー…。
しまった!と思った時には遅かった。
完全に全部出てしまっている。
パンツの中は大盛。
大惨事だ。
同時にサーッと血の気が引き、青ざめる。
昨日、晩御飯でイカの刺身食ったあと、牛乳飲んだらヒットしたんやった!
今頃思い出してどうする。
腹痛が納まって完全に安心しきっていた。
絶体絶命だ。
「桃?」
異変に気付く菜桜。
桃代の目が潤んでいる。
そして、
「うわ!クセッ!ウンコの臭いする!」
「桃…お前…」
呆気なくバレる。
「いや、その…」
この期に及んでまだ何か誤魔化そうとしている。
「ちょ!桃!立ってん?」
「いや、あのね?」
涙目でテンパり拒否る桃代。
もうだめだ!
菜桜が強引に後ろから抱きかかえ、立たせた。
「いーき!うわ!ケツでったん黄ぃなくなっちょーき!」 ←訳:お尻めっちゃ黄色くなってるし!
短パンのケツの辺りが黄土色に変色して盛上る。
滲んで絨毯にまで達していた。
しかも、パンツの中に納まりきれなくて、短パンの裾から具が零れ落ちている。
「あ~ん、もぉ…」
ほとんど泣いていた。
「…どーするよこれ。」
菜桜は困り果てている。
部屋には徐々に臭いが充満。
「たまらん!」
思わず窓を開けた。
ユキが動く。
ティッシュで拭いてまわる。
粗方拭き終わると、
「桃代ちゃん、着替え行こ?」
無言で頷く。
「ちょっと行ってくるね。」
「おぅ。」
桃代の手を引き、颯爽と部屋を出ていった。
具が零れ落ちながら歩くことを考え、予備のティッシュを持って。
桃代はパンツの中が山盛りなので変な歩き方。しかもゆっくりだ。
案の定、菜桜の部屋から勝手口までウンコを落しながら歩いて行っているらしく、
「ユキくんごめんね。」
という声が、普段よりゆっくりのペースで小さくなっていく。
途中トイレに寄る音がした。
拭いたティッシュを捨て、大盛パンツを身軽にするためだ。
「家の中、ウンコまみれやん。ぜってーお母さんに怒られるし。」
菜桜はかなり怯えている。
実はユキがひとつ残らずふき取っており、その夜、菜桜は怒られずに済んだ。ユキに感謝だ。
「まさか三年にもなってタレかぶるとはねー。」
環が諦め顔で笑う。
「あれは多分残らず全部出たね。」
美咲の推理は大正解だ。
「大丈夫?腹、痛くない?」
ウンコのことより身体のことを心配していた。
凄く嬉しい。
「うん。」
やっと少しだけ笑ってくれた。
ケツが気色悪いのでガニ股で歩く。
まだ帰ってくるはずもない時間にユキと二人で帰ってきたのを不審がる桃母。
今度は何をやらかした?
「なん、桃?どげしたんね?うわ!くさ~!タレかぶったとね?」
ソッコーバレた。
「いや、あの…」
まだ誤魔化そうとしていた。
言い訳など聞く間もなく、
「すぐ風呂場行って洗いなさい!ごめんね、ユキくん。またバカなことしよったっちゃろ?」
「ははは。」
笑って誤魔化す。
しばらくして下を穿き替えた桃代が出てくる。
「ホントに腹痛くない?正露丸飲まんで大丈夫?」
「うん。もぉ大丈夫。行こ!」
手をつないで走って行った。
学校じゃなくてよかった!
もし、学校でこんなことになったら?
そう考えると背筋が凍る。
流石にシャレになってない大事件だったが、優しくフォローしてくれたユキ。
超絶恥かしかったが嬉しかった。
桃代は幼馴染以外の友達といるときは割と落ち着いている。
が、基本ドジでポンコツ。
幼馴染といるときは安心するのだろう。
やらかす確率が非常に高い。
で、何かあると真っ先に心配し、気遣ってくれるユキ。
やらかす回数が多いから、それに気付かないわけがない。
自然と意識しだす。
あれ?
そういえば、いっつもウチのことよくしてくれるよね?
前、ケガした時もそうやったし今も…
…ユキくん、優しいな。
小学校になると、様々な代表を決める場面が出てくる。
小さい纏まりでは班長。大きい纏まりではクラス委員。四年からは代表委員会なんかがその例だ。
桃代は他の人が代表になるのを渋っているとき押し付けられると断れない。
ついついOKしてしまい、やる羽目になってしまう。
そして、そこでも能力を発揮する。
意外にも班長とか委員長向きだったりする。
元々責任感は強い方で、頼まれるとキッチリ最後までやり遂げる。一年生で班長をやらされて以来、毎回何かの係に選ばれている。例えば花の水やりとか、教室で飼っているメダカの世話、学習委員としてプリントや教材を運ぶ、などである。
こなしていくうちに信用も得て、さらに頼まれる。ホントはしたくなかったりするけれど、ほったらかしたり誰かに丸投げしたりする性格ではないので、助けを借りながらでもなんとか完遂する。
ユキにはそんな「できる」桃代がとても輝いて見える。
自分はドンくさくてできないから、余計にそう見える。
ずっと前から憧れていた。
しかし、少し前から憧れじゃない別の感情が生まれつつある。
一緒にいると恥ずかしいけど嬉しい感じ。
これ…なんやろ?
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