第56話 花火

 夏といえば花火!

 

 週末買い物に行き、隣町のアーケードでくじ引きしたら花火セットが当たった。

 早速その夜、庭に出て家族3人で楽しんだ。

 有喜は花火初体験。

 楽しかったらしく、「また買って!」とねだってくる。

 

 近所のスーパー兼ホームセンターは、夏限定で花火コーナーができる。しかも、これでもかと言わんばかりに目立つところに設置してある。

 有喜を買い物に連れて行くと、花火のところへまっしぐら。

 座り込み、熱心に見ている。

 一緒に見てみることにした。


 セット物は昔と比べると内容がかなり充実している。当時はショボイと思っていた安全花火のセットですらときめいてしまうほどだ。打ち上げ花火セットに至っては、単品でやってみたかったけど、高くて買う気がしなかったヤツがフツーに複数入っていて、しかも割安。

 今、小学生だったらさぞかし金を注ぎ込んだだろう。

 なんてことを考えつつ、バラ売りの花火を見てみる。

 パラシュート花火。

 火を点けたら回転しながら飛んでいくヤツ。

 ロケット花火。

 ねずみ花火。

 蛇玉。

 煙幕。

 クラッカーボール。

 なんだか…いー感じでワクワクしてきた。


 そして。

 

 一番ハマったアレ!


 今でもまだあるんかな?小学生は禁止のはずだから置いてないかな?


 探すと…


 あった!金鹿紅炮!牡丹紅炮もある!

 

 商品名だと分かりにくいが爆竹だ。

 金鹿紅炮は、黄色ベースにピンクや青の塗り分けがしてあり、鹿の影のデザインがしてある箱。中身が他の爆竹よりも少し大きく、束をバラした時、導火線が長い。

 牡丹紅炮は赤ベースに牡丹の花の絵のデザイン。金鹿紅炮と比べると一回り小さい。中身も少し小さく、バラした時の導火線が短い。

 持ったまま鳴って痛い思いをする確率が高いのはこちら。

 あと、マイナーなところで虎紅炮というのもあったがこれは流石に置いてない。たしか、上の二つが200発入りだったのに対して虎紅炮は160発入りだったような…違ったかな?

 それはさておき。

 どちらも箱のデザインが当時のままで、入数も変わっていない。値段は…150円。小学生の時より30円ほど値上がりしていた。


 さらによ~く見てみると…クラッカーまである!


 クラッカーとは、パーティーで使う円錐形でヒモを引っ張ると音とともに紙テープや紙ふぶきが飛び出すヤツではなく、タバコのような形状をしており、マッチ箱で擦っても着火でき、水中でも爆発する花火のコトで、2B弾とも呼ばれるヤツだ。5本入りで30円。こちらも10円の値上がり。

 時の流れを感じてしまう。



 爆竹をそれぞれ一箱ずつ、クラッカーを5袋買うことにした。

 桃代に見つかると怒られる可能性が高いので、カモフラージュのための有喜用安全花火セットを一緒に持って行き、なおかつ普通のレジじゃなく、サービスカウンターで支払う念の入れよう。

 くだらないことにだけはちゃんと頭を使うユキだった。

 

 

 

 買い物も終わり家に帰る。

 すぐさま千尋に「面白いもん買った。今から来れる?」とメッセージを送信。

 きっと懐かしいと思ってくれるはず。

 そんなことを考えつつ待つこと数分。

「着いたぞ」と返信があり、勝手口からノックの音。


「ほら。千尋ニーチャン来たぞ。」


 と言うと、


「はーい!」


 有喜が大きな声で返事しつつ、走って行ってドアを開け…菜桜を確認。


「菜桜ネーチャン!」


 無邪気な笑顔で飛びつく。


「おー!ユーキ。」


 菜桜は微笑んで優しく抱っこしてあげる。


「ふふ~ん。フワフワ。」


 いい笑顔。


「ははは。こそばいーっちゃ。」

 訳:くすぐったい


 好きなようにさせてあげる。

 有喜は菜桜とミクの乳が大好き。二人とも好きなだけ触らせてくれる。近頃は環のも好きだが、幸と一緒のときだけは少し遠慮して触る。


 いつもの如く感触を味わっていると、


「こら!ユーキはまた!下りなさい!」

 

 桃代に見つかり怒られる。

 それでも抱っこされたまま。


「離れんか!アンポンタン!」


 ムキになって引き剥がした。


「あ~!菜桜ネーチャ~ン!」


 名残惜しそうに手を伸ばす。


「また今度の。」


「うん!」


 元気良い返事。

 ホント、スケベで困ったものである。




 ユキの部屋にて。

 

「まだこげなん売りよぉっちゃが!懐かしくねぇ?」

 

 子供の様に目をキラキラさせながら、有喜用の安全花火が入ったレジ袋からそれを取出し、テーブルの上に並べ、千尋と菜桜に見せる。

 

「お前…いい年こいて何買ってきよん?」

 

 千尋は呆れ半分、懐かしさ半分で笑っている。

 菜桜は、

 

「お前、よぉ買えたね?桃、何も言わんやったん?」

 

 やはり呆れている。

 

「桃ちゃん食いもん買いよる間にサービスカウンターでコソッと買った。」

 

 それはもう得意げである。

 

「バ~カ。そげな騙すげなコトしてから。見つかったらゼッテー激し怒らるぅぞ?ユーキのことで危ないモンにでたん神経質になっちょろーもん?」

 訳:絶対激しく怒られるぞ

 

「まーね。でも、懐かしいやん?」

 

 チャリのことで散々怒られたのに全く懲りちゃいない。

 今、桃代はお茶の用意中で台所にいる。有喜はつまみ食いするため桃代のそばにいる。

 と、騒がしく廊下を走ってくる足音。


 バン!


 勢いよくドアを開け、

 

「さっき買ったのやん!これっちどげな花火なん?」

 

 手に取り興味深げに聞いてくる。

 ユキは、

 

「ん?パンっちなる。」

 

「持ってできんの?」

 

「それはダメやね。持ってしたら指が吹き飛ぶ。のーなっしまうぞ!痛いぞ~。」

 訳:無くなってしまうぞ

 

 悪戯しないよう、わざと大げさに説明する。

 

「ホント?」

 

「ホント。ダイナマイトの小さいヤツやき。お父さん小さいとき20回ぐらい指が無くなった。」

 

「うそぉ?でも今ちゃんとあるやん。」

 

「うん。やっと生えてきた。だきユーキもしたらダメぞ。」

 

「分かった!」

 

 指が無くなったら大変だ。大好きなお絵描きや粘土遊びができなくなってしまう。

 一応は分かってくれたみたい。

 中身を出して見せてやる。

 

「ダイナマイト?なんか違うね。」

 

 イメージとはかけ離れていたみたい。束になっているのを手に取ってマジマジと見ている。

 

「この紐をね、こーやって…」

 

 着火する側から数えて2個目ぐらいに束ねてある紐の端が挟んである。それを引き抜いて着火する側に引っ張るとバラバラになる。理論値では、不発しなければ一箱で200回ワクワクできることになっている。一気に鳴らすと10回しかワクワクできない。勿体ないので小学校の時はバラして遊ぶのが基本だった。

 バラを一つ手に持って、

 

「ね?小さいダイナマイトやろ?」

 

 有喜も手に取り

 

「ホントやん!」


「ね?だき、ゆーこと聞かんやったらケガするんぞ。」


「分かった!絶対せん。」

 

 ちょうど納得したところで桃代がお茶を運んできて呆気なくバレる。

 

「あーっ!いつの間に爆竹やら買っちょったん?しかもクラッカーまで買っちょーし!も~。ユーキの前でそげなもん見せたらいかんやろ?」

 

 案の定怒られた。

 

「大丈夫っちゃ!今、説明したっちゃき!ワルソやらせんっちゃ!」

 

 笑ながら必死で言い訳するユキ。

 ヘラヘラしながら言い訳する態度が全くもって気に食わない。反省なんかこれっぽっちもしちゃいないように見えるため、ますますヒートアップする。

 

「今までそれで大丈夫やったことっちある?チャリの時だって真似してケガしたやろ?」

 

「今度こそ大丈夫!危なさはバッチシ説明した。理解しちょーはず!」

 

 根拠のない自信に満ち溢れているが、桃代は全く信用していない。

 心配でたまらない。

 

「どーだか。多分またケガするきね。持ったまんま鳴ったら痛いの分っちょーやろ?」

 

 夫婦の言い合いの場に居合わせるの、これで何度目?


 千尋と菜桜はもはや苦笑するしかない。

 いつもユキがしょーもないことして怒られ、そのコトに対するこれまたしょーもない言い訳で怒られる。

 完全にパターン成立だ。


「桃…お前大変やね。」


 千尋がしみじみという。


「なんか子供二人おるみたいやん。」


 菜桜も呆れている。


「は~…そぉなんよ。ホント二人ともウチのゆーこと聞いてくれんっちゃき。」


 困り果てた顔をしてため息。

 一生懸命母親している桃代に同情してしまう千尋と菜桜だった。

 

 

 

 ここからは小学校時代の思い出話。

 小学生の頃は爆竹やクラッカーなど、大音量の爆発音が出る花火が大好きで、しょっちゅうやっていた。

 勿論危ないので学校からは禁止されている。

 たまたまその現場を通りかかった同校の生徒からチクられて、代表委員会に挙げられる日常。その度に担任の先生から呼び出しを食らい、怒られていた。

 チクった人間が名前を出してもいないのに、バレてしまう程の常連だった。


 小学校では夏休みや冬休みなどの長期休暇の際、禁止事項としてゲーセンの出入りやバイクの無免許運転、爆竹やクラッカーの類は必ず挙げられる。休み前の地区ごとに行われる集会である「部団会」と、終業式後のホームルームでは毎回同じことを言われる。

 余談だが、ここは炭鉱の町なので、ちょっと変わった決まりごともある。

 例えば「露天掘りには近づかない」「縦坑跡には近づかない」「ボタ山には近づかない」といったものだ。

 露天掘りとはいっても今現在石炭を掘っているわけではなく、かつて石炭で栄えていた頃の採掘現場に水が溜まってできた大きな水たまりのことを指す。長年かけて浸食が進み、池の水際はオーバーハングして、奥へと広がっているという。ここに落ち込むと這い上がることが困難らしい。死体がオーバーハングの肩口に引っかかって浮いてこないらしく、完全に行方不明になってしまうというのだ。

 縦坑跡とは、横穴の坑道へ向かうためのエレベーターの縦穴のこと。一辺が数m真四角、深さは垂直に500mほどあるらしい。こんな規模なので、当然埋めるのは困難。落下防止のために鉄板が上に敷かれているのだという。知らない人はどこに立坑の穴があるか分からない。むやみにその周辺を歩き回るのは危険なのだそうだ。落ちれば捜索は困難。完全犯罪を成立させるため、この中に死体を投げ込んだ、と言う噂を聞いたこともある。

 ボタ山とは石炭を掘った時の純度の低い石炭=ボタを積んでできた山のことである。

 自然の山ではないから崩れやすい。登っていて崩れでもしたら生き埋めになる可能性もある。しかも、ボタの重さで石炭が自然発火し、有毒ガスが出ているところもあるらしい。

 いずれも事故を起こせばただでは済まない。

 だから、近寄ってはいけないのだ。




 長期休みの時期。

 特に夏休みにはスーパーなどでも花火が売られだし、入手しやすくなってくる。

 親父たちの年齢の人たちは主に駄菓子屋で買っていたらしいが、今の入手経路はスーパーやホームセンター、ドラッグストアなどだ。夏休みの間に安い店で買い溜めしておいて、花火シーズンが終わっても尚遊ぶ。禁止事項を守らないのがなんとも楽しかった。


 爆竹やクラッカーといえば、当時はとんでもないことばかりやっていた。

 子供特有の残虐性や無謀性で、カエルなどの小動物や昆虫を吹っ飛ばしたりとか、導火線がギリギリのとこまで持って度胸試しとか、クラッカーを持ってする(クラッカーは爆発する火薬が点火する位置に近いため、逆側のギリギリを持って鳴らすと痛くない)とか、フナの口に咥えさせ泳がせて爆死させる(クラッカーは水中でも爆発する)とか、繋がれた飼い犬の鎖の範囲内で爆竹を鳴らし、怯えさせて犬小屋に入ったところ、犬小屋の中に放り込んだり等々、それはもう目に余るような酷い悪さをしていた。


 警告!花火は人や生物に対して使用するモノではありません!!マナーを守り、注意書きをよく読んで、安全第一で楽しく遊びましょ!


 そうやって酷い悪さばっかするもんだから、しょっちゅう罰が当たる。

 例えば…

 度胸試ししていて、導火線が途中から一気に燃えて持ったまま鳴ったり。

 導火線から落ちた火種が爆竹の箱の中に落ち、全部爆発したり。

 飼い犬のうんこに爆竹を刺して点火し、逃げると鳴らなくて確認しようと物陰から出た瞬間爆発して、全身うんこまみれになったり。

 不発弾の中から火薬を取り出して集め、それに点火しようと顔を近づけると、思ってもみないタイミングで火が点き、顔が火柱の中へ。顔面全体が火薬の燃えカスで真っ黄色になり、眉毛もまつ毛も燃えて無くなってしまい、前髪も焼失。出校日担任に原因を追究され、無理矢理吐かされると教壇に立たされ、「決まりを守らないとこうなります。分かりましたか?」と見せしめにされたり。

 それはそれは酷い目に遭うのだ。

 今となってはいい思い出…なのか?




 小学校時代の甘酸っぱい思い出はこれくらいにして。

 買ってきた爆竹とクラッカーを鳴らしたくてウズウズしているユキと有喜。

 みんなで庭に出た。

 虫除けの意味も込めて、点火用に蚊取り線香を持ってきている。


「ユーキ!耳塞げ!」


 両掌で耳を塞がせ早速点火するユキ。

 先程バラしたヤツに火を点け投げる。


 シュー…パン!

 空中で爆発した。

 紙屑が舞う。


「おぉ~!懐かしい!」


「なんかいーね!」


「やっぱ楽しいね。」


 さっきまであまり乗り気じゃなかった菜桜と千尋。少しテンション上がっていた。

 桃代だけが、


「も~…危ないのに。」


 気が進まない。

 有喜がいらんこと真似しだすのも心配なのだが、子供の頃何回か持ったまま爆発したので、ちょっとしたトラウマだったりする。

 爆発音がするたび強く弾かれジンジンするような感覚が指に甦り、痛そうな顔をする。

 他の4人は何発か鳴らしたことにより、テンションが上がっていた。

 と、不意に、


「な~んかユキんちでパンパン聞こえるね~っち思って来てみたら、こげなことか。お前らなんか懐かしいことしよるやん。」


 悪い笑みを浮かべながら環登場。


「あっ!環おばちゃん!」


 幸を連れてないのを確認してから有喜が飛びついていく。


「オッス!ユーキ。」


 抱っこしてあげる。


「うわ~❤フワフワ!」


 触って喜んでいる。

 まあまあサイテーだ。

 親としてもかなり恥ずかしい。


「あっ!こらまたっ!下りんか!バカユーキ!」


 桃代から怒られる。


「お前、おっぱい好きやの。」


 笑いながら尋ねると、


「うん!柔らかいし!」


 正直に答えやがる。


「桃?お前、ユーキ乳に飢えちょーやねーか。もっといっぱい触らしてやらんか。」


 環から言われ、


「コイツ、ウチのは触らんっちゃき!」


 口を尖らせ答えると


「お母さんホネホネやき硬いモン。」


 有喜が最も言ってはならないことを口に出す。


「うるさい!バカユーキ!そんなに環おばちゃんがいーなら環おばちゃんちの子になってしまえ!」


「おばちゃん、いい?」


 真に受ける(フリをする)。


「いーぞ。泊まりくるか?一緒お風呂入ろっか?」


「うん!」


「もー!ユーキは!」


 プチ発狂する。

 もうホントにどうしようもない。どんどん桃代の言う事を聞かなくなっている気がする。と思っている。それが歯痒くて…。

 でも実際は言う事を聞かなくなったのではなく、幼馴染達の影響でお母さんをからかうことを覚えてしまったのだ。精神年齢が有喜といい勝負なトコロがあるので、すぐにムキになってしまう。ムキになるのが面白くてついつい意地悪してしまう。でも、ホントは母さんのことが大好き。

 しばらくバカバカしいやり取りが続いた後、


「ねえねえ。幸は?」


 環が帰郷し、自分より年下の子と遊ぶ機会ができ、お兄ちゃんぶることができて嬉しい今日この頃。しかも、とても懐いてくれている。一緒にいると、ずっとついて回るので、妹分としてすごく可愛がっている。


「ん?幸はねぇ、今日爺ちゃん婆ちゃんとお買いもの。」


「そーなん?来ればよかったのにね。」


「今度また連れて来ちゃーね。」


「うん!」


 ふと気付くと男二人、昔に比べて爆竹での遊び方がミョーに大人しい。

 すぐにピーンときて、


「あ~…ユキ、桃に怒られたんやろ?」


 笑ながら言い当てる。


「なんで?鋭いね。もしかして見よった?」


「見るか!見らんだっちゃ、お前のやりそうなこと大体わかるし。どーせ爆竹も桃に内緒で買ったっちゃろ?」


「なんで分かるん?」


 不思議そうに尋ねる。


「桃、ユーキが心配やき、そげな危ないモンゼッテー買わせんやろーもん?」


「ま、そぉやけど。」


 ホントはユキが好きだから、おおよその行動パターンが分かってしまうのだ。それに対して桃代がどう出るかを考えると、どんなやり取りがあったかさえもすぐに分かってしまう。


 環は守と再会してこれまで数回、どこかに遊びに行ったり飲みに行ったりしている。だから、帰郷した時よりもユキへの依存がちょっぴり弱くなった状態。なんとか普通に接することができるようになったところだ。まだまだ、「好き」は消えないけれど、守の前では元の旦那よりはるかに自然体でいられる。これから好きになれることを期待しつつ付き合っている。


「どぉ。一個やってん?」


 環が箱の中にバラした一本の爆竹を取り出し、


「ユーキ!耳塞げ!」


 塞いだのを確認すると、蚊取り線香の火で導火線に点火する。


 シュー…


 人のいないところにポイッと投げ


 パン!


「ははは、懐かしいね。」


 楽しそうに笑う。


「これもしよーや!」


 環がクラッカーを手に取った。


「川行こう!」


 バツグンにノリノリだ。

 ここにいた全員で前の川へ。

 いい大人が5人と子供が一人、あくどい花火をしているというまあまあ奇妙な光景だ。

 幸いにも釣り人はいない。

 環が川岸の粘土質の泥を手に取って丸め、クラッカーを刺す。

 チャッカマンで(蚊取り線香で着火すると火が消える)、先っぽを炙ると


 シュー…


 黄色い煙が出だす。

 数秒後白煙に変わり、


 ドボン。


 川に投げ込む。

 着底したと思われる個所から泡に包まれた煙が浮いてきて、水面に漂う。

 さらに数秒後、


 ボッ!


 閃光と鈍い爆発音。

 ひときわ大きい泡が浮いてきた。

 水面で弾け、煙が漂った。


「いーね!なんかワクワクする!」


 環が微笑んだ。


「昔はフナに咥えさせたりとか惨いことしよったよね。」


「今じゃ可哀想過ぎてゼッテーしきらん。子供っち残酷よね。」


「それっちゃ。」


 昔話で盛上る。

 今度はオモリなし。

 点火して、煙の色が変わり、


 ポイ!


 ブクブクブク…


 パン!


「うわ!音ショボ!」


 大人全員がそう思った。


「小学校の時のっち、もっと激しい音しよったよね?」


「うん。」


「今の、パン!っちゆーよりパフ!に近かったよね?」


「なんかそげな感じ。」


 とは言え水中で爆発する花火なんてそうはない。

 いー感じのテンションで団子を作って沈めて鳴らしたり、水面を漂わせながら爆発させたり。

 サイコーに楽しめた。

 桃代だけは有喜がやりたがるのを止めるのに必死で、イマイチ盛上ることができなかったようだ。


 決して子供に進められるような遊びじゃないが、それでも昔を思い出し、懐かしい気分に浸ることができ、なかなかのリフレッシュができたように思う。

 やはり、歳食ってもあの爆発音にはトキメクものだ。

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