高校生編
第16話 告白
入学式も終わり、説明会やその他諸々の行事もひと段落。
連休が明け、本格的な授業も始まった。
ユキは桃代と同じクラスになれた。
ほかの幼馴染はどうなった?
ユキのクラスは菜桜、環、美咲、千尋。
他は海、渓、千春、舞、ミク、大気が同じクラス。
普通科は5クラスあるのに運よく孤立するものがいなかった。
とりあえずホッとする。
涼は家政コース。
朗は建築コース。
規模的には比較的大きい学校だが、思ったよりよく会う。
釣りも今までどおり行っている。
ちょっと変わったこと。
4月生まれの涼が中免を取った。
海を乗せるためだ。
ぶっ飛ばしたり、危ないことをしないのを約束させ、取ってもらった。
すぐには2ケツできないみたいだけど。
あとは今までどおり。
休み時間、教室にて。
同じクラスの幼馴染女子と高校でできた友達、沙希が駄弁っている。
「狭間と小路っち付き合いよんやろ?」
誰もが思う疑問で盛り上がっている。
知り合って間もない人間でもあいつら見たらそげ思うよなぁ。
と言われるくらいには好きがダダ漏れなのだ。
なのに必死こいて隠す。
周りの人間は「隠す意味ねぇ~。」と、誰もが思っている。
菜桜が言う。
「あれ見たらフツー付き合いよるっち思うよね?でも付き合ってねぇんよ。」
「へ~。違うって?でもあれ、どげ考えたっちゃバカップルばい。」
「そやろ?アイツらに関するオモシレーことおしえちゃっか?」
別の友達と喋っていた桃代の耳に入るように、わざと大きめの声で反応を楽しむ。
「菜桜、きさん!お前、何言おうとしよんか?」
威圧的な態度で菜桜に近づく。
「お前はそっちで話しよけ。」
シッシと追い払う菜桜。
「お前、またとんでもねぇこと言おうとしよろーが!」
沙希が、
「はよおしえてん。」
期待に満ち溢れた表情で先を促す。
「あんたも聞かんでいーっちゃ!」
同じ教室内にユキもいるため桃代が狼狽えだす。
ユキも何を言われるのか心配で、こちらをチラチラ気にしている。
その甲斐もなく、呆気なく、しかも思いっきり、
「こいつら中学ん時セックスしちょーっちゃが。」
包み隠すことなく暴露される。
「ちょ!菜桜ちゃん?」
ユキは焦り、
「菜桜!お前、なんちゅーことを!」
桃代は赤面して既に涙目だ。
「「「おぉ~!」」」
教室にいたほぼ全員が桃代とユキに注目する。
セックスに興味あるお年頃やもんね。しょーがない。
沙希が、
「っちゆーか菜桜、なんでそげなこと知っちょーん?」
不思議な顔をして菜桜に聞き返す。
「は?だって見たもん。こいつらもみんな目撃者ばい。」
環、美咲、千尋を指さすと、全員頷く。
「はぁ?目撃者っち、どげな状況でしたん?みんなに見せて燃え上がる趣味でもあるん?」
普通はそう思う。
「も~!いらんごとゆーな!」
桃代がオロオロして菜桜の口を塞ごうとしている。
菜桜はそれをかわしながら、
「この前の春休み、温泉旅行で。酒飲んで風呂入ったらね、桃、ヨロヨロしてコケてからくさ。ユキが庇ったら偶然刺さった。」
「ほんのこの前やん!すごいね。だき、みんな知っちょーって!」
「そーばい。」
「もぉ!バカ菜桜!」
涙目でご立腹の桃代。
「どぉやった?」
「どーやったもこーやったもねぇちゃ…でったん痛かったし恥ずかしかった。人が痛がりよーんにこいつら誰も助けんで、刺さった部分じーっと観察しやがりよった。」
「あはは!それはまた。」
笑われる。
「全然ロマンチックやなかった。」
「そーやね。でも好きな人とできたならよかったやん。」
本人を前に、おもいっきしバラされ焦りまくる桃代。
「しー!」
「あ、そっか。告ってないんよね、ごめんごめん。」
「今の、ゼッテーわざとやろ?」
沙希はテヘぺロで誤魔化した。
ユキの方も高校からの友達に追及されている。
「入れた感じ、どうやった?」
「ヌルッとして温かった。」
素直に話している。
「しかしまぁ、すげぇ確率よね。宝くじの一等前後賞よか低いばい、多分。」
「うん。オレもそげ思う。」
会話の途中で、
「ユキくんはまた!なんでそげ冷静に説明しよん?」
怒られた。
でも、
「バラされたからにはしょーがない。実はオレ、意外と自慢やったりする。」
もうホントにアホである。
「もぉ!バカ!」
ユキにブーたれていると、
「あとねぇ。」
向こうで菜桜がまた追加情報を暴露しようとしている。
「あっ!こらー!」
桃代が菜桜のトコロに走っていく。
あっちに行ったりこっちに行ったり、大忙しだ。
「こいつら、橋の下でモゴモゴ…」
口を塞がれる菜桜。
その手を舐めた。
「ぅわっ!」
予想外の反撃が気色悪くて思わず手を引っ込める。
「橋の下で何しよったん?」
沙希が追及モードだ。
「乳揉んだり舐ったり、穴に指入れたりしよった。」
「あ~ん、もぉやめて~。」
恥かしさに半泣きの桃代。
ユキもかなり恥ずかしかったみたい。
額に手を当て「は~」。
「お前ら、一体何しよん?」
千尋が呆れながら突っ込む。
「二人やったらムラムラして…これっち、しょーがないよね?」
「まぁ。」
ユキ達のところはビミョーな空気になってしまっている。
桃代たちのところは、
「淫乱カップル!」
大盛り上がりしていた。
からかわれ、真っ赤になって俯く桃代。
「もぉなんとでもゆって…。」
完全に諦めた。
高校生になっても相変わらず騒がしい。
それから約一カ月。
ボチボチ暑くなり出した頃のコト。
夕食を終え、自分の部屋でマッタリしていたユキ。
喉が渇いたので、飲み物をゲットするため台所へ出てきていた。
その時、
『別にあんたのことなんか好きじゃないんだからね!』
模範的なツンデレセリフが隣の部屋から聞こえてくる。
今大人気のドラマらしく、妹が熱心に見ている。
桃代たちの話題にもよく上がっているヤツだ。
桃代のことだ。
明日以降、近いうちこれに似たネタをどこかで絶対ぶち込んでくるはず!と、容易に想像がついてしまう。
どのような展開になるかを考えてみる。
① このセリフを言う→ユキ:「なん?あのドラマ?」→桃代:「正解!」
② このセリフを言う→ユキ:「はいはい。」→桃代:「あ~!冷たい。」
③ このセリフを言う→ユキ:「何それ?」→桃代:「今、流行っちょーやつ。」→ユキ:「そぉなん?」→桃代:「そっか。ユキくんあんましテレビ見よらんやったね。」
おそらくこんな感じの展開になるはずである。
だから、予想を外したリアクションをしてやろう。
それに対してどう出るか、楽しみになるユキだった。
早くもその機会はやってくる。
次の日の昼休み。
部活棟にある自販機コーナーのベンチにて。
ここはちょっと遠いので、部活の時間以外利用する人は少ない。中々の穴場なのだ。
いー感じの溜まり場を見つけた幼馴染女子チームは今日もそこで駄弁っている。
ユキと千尋が飲み物を買いに行き、たまたまその前を通過していると、
「も~っ!アホ!ウンコ!」
桃代の叫び声。
いつもの如く菜桜たちにからかわれ、顔を真っ赤にして、涙目になってムキになっている。
ユキたちの姿を確認した菜桜が、
「まぁまぁまぁ。座んなっせぇや。」
声をかけてきたので素直に従う。
そしてまたさっきの続き。
「お前、たいがいじれったい。見よったらこっちが恥ずかしいわ。はよ告れっちゃ!ほら!ちょうど本人来たやねぇか。」
煽り立てる菜桜。
高校に入ってからはもう誰もが本人を目の前にして、手加減なしにからかうようになっていた。
「うるせぇっちゃ!本人の前でそげなことゆーなっちゃ!バレるやねぇか!」
真っ赤な顔して考えなしのリアクション。
「お前、バカ?今の、告りよーのと一緒やんか。」
菜桜から笑われる。
「あ~~~!もぉ!」
真っ赤な顔して発狂中。
直にいじられてなくてもユキとしてはなかなか恥ずかしいモンがある。
リアクションに困って俯いているユキ。
桃代は照れ隠しにわざとらしくキッとユキの方を睨む。
そして。
「別にあんたのことなんか好きじゃないんだからね!」
あのセリフ、頂きました!
「うっは~!桃…ドラマ観過ぎ!ここでそれ使うか?」
「でったんさびー!」
一斉に突っ込む幼馴染達。
実行するならここ!
ユキは可能な限り表情を消し、
「あっそ。ふ~ん。そーやったって。んじゃね…」
フラットな喋り方で答える。
スッと立ち上がり、その場を早歩きで後にする。
さて…桃代はどう出てくる?
予想では「あ~。ユキくん冷て~。」とか「うわっ!ひっでぇ!」とか「そーきたか!」とか、そんな非難めいた言葉を吐かれるだろうから、「まーね。」とか「ウソウソ。」といったリアクションのあと、話を終わらせるつもりだった、のだが…。
桃代のリアクションが予想外過ぎた。
他のみんなは冗談と分かって笑っているのに、この時に限って桃代だけが本気として受け取ってしまっていたのだ。
照れて赤かった顔色から一転。サーッと血の気が引き、劇的に焦りと悲しみの色に変わっていく。
ウソ?嫌われる!
そう思った瞬間。
みるみる目に大粒の涙を浮かべ、
「あっあっあっ!ごめんなさい!もう二度と言いません!今のウソ!ウソやき!謝るき!許して!お願い!ユキくん!」
まるで小さな子供が親から怒られた時のような、切羽詰まった情けな~い声。
直後、
「ホントは好き!大好きやき!」
告白キター!
しかし、告ってしまっているコトに全く気付いてない桃代。
涙が頬を伝い、手を伸ばし猛ダッシュ。
と、ここで一瞬幼馴染たちの顔が目に入る。そして気付いてしまう。その目が妙に生温かいコトに。
へ?なんでみんなそんなリアクション?今、ウチなんか変なことゆった?
追いかけながら、今発した言葉を脳内リピート。
…許して…お願い…ユキくん…そのあと、何ちゆった?
…好き…大好き……!!!
あっ!ウチ、勢いで告ってしまっちょーやん!
気付いてしまい、また赤面。ホント大忙しである。
ユキがビックリした顔をして振り向いた。
固まってこっちを見ている。
そのまま目の前まで行く。
追いついた桃代の顔を見た途端。
「うわっ!何?桃ちゃん泣きよーやん!ごめん!ホンットごめん!本気にするとか思わんやったき!あれ、ウソ!」
ヤバい…大好きな人を泣かせてしまった!
思いっきし動揺し、手を合わせて謝りまくる。
「ホント?よかった~…」
ヘナヘナっとその場に崩れ落ち、
「もー!ばか!マジで嫌われたかっち思ったやん!」
涙をこぼす。
「嫌うわけないやん。で、今ゆってくれたコトっちホントなん?」
気付かれていた。
「へ?それは…」
返答に困る。
「『大好き』っち聞こえたんやけど…あれ…ホント?」
赤かった頬がさらに熱を帯びてゆき、完全に俯いてしまう。
恥ずかしい。
そして…観念し、縦に小さく数度首を振る。
「よかった~…オレも好き。どげも思われちょらんやったら?とか考えたら怖いで言い出しきらんやったっちゃ。」
「ウチも怖かった。でも…よかった~。」
両想いになった瞬間。
長いこと温めてきた思いが伝わった!
顔を上げ、ぱあ~っと笑顔に変化してゆく。
今まで見てきた中でいちばんの笑顔。
「やっと言えた。永かったぁ。ウチ、小っちゃい時からずぅっと好きやったんよ?」
「そーなん?オレもなんやけど。」
「え~!もっとはよ知りたかった。」
「でもよかった。これからもずぅっと仲良くしよーね。」
「うん。勿論!」
誤解も解け、笑顔でみんなのところに戻る。
「お前、向こうでユキと何話よったんかっちゃ?」
菜桜が訪ねる。
「な~んも。」
意味深な笑顔で答える桃代。
「言えっちゃ!」
「イヤ。ひ・み・つ!」
この上なく機嫌がいい。
「なんかでったん憎たらしい。まぁいーや。後で拷問して吐かせる!」
「言わんも~ん。」
余裕の表情で全てを察したらしい菜桜。
こいつら…。
バカバカしくなって
「やっぱや~めた。大体想像がつく。あ~あ、オモシンネ~。」
追及する気も失せてしまっていた。
ともあれ。
いちばんくっつきそうでくっつかなかった二人がやっと10数年越しの思いを実らせた。
ノリは完全にラッキースケベのそれと同じだったが、これも彼等らしいのではなかろうか。
このまま結婚しちゃえ!
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