第10話

第終話 杯盤狼藉。


 彼は殺したわ。

 だって、つまらなかったもの。

 そう。

 いつまでも同じように逃げ続けて、面白くないわ。彼は私と一緒に逃げようとは何度もしてくれたけど、ただの一度も私の為に立ち向かおうとはしてくれなかった。

 どこまで行っても、いつまで経っても、救いようの無いエゴイスト。

 そんな彼を愛せって言う方が、無理じゃない?

 彼と言うか、あなた、ね。

 何か言いなさいよ。

……まあ、いいわ。

 死体に話し掛けたって返事はないのは、当然の事。

 

 絵に描いたように幸せな日常を、もう一度体験したかったのでしょう?

 だからこんな真似までして、言い訳しながら執筆をしていた。悪いけど、あなたの描くラブコメ、つまらないわ。

 幸せだと思った事を小説に残したいなんて、つまらない。

 あなたが似合うのはそれは寧ろ真逆。

 幸せだと思った事を、血で染め上げたい。そっちの方が、面白いじゃない。狂おしい程、好きよ。

 まあ、もう遅い。

 あなたは所為で、もう何も出来ない。

 あなたが悪いの。

 全部。

 あなたが――何度も夢見た過去を、思い出す事に飽きたから、悪いの。

 あなたが私を大切にし続けなかったから、悪いの。


「一つだけ願いを叶えてあげる」

 って言ったのはあなたよ? 愛した私の願いを、一つだけ叶えてくれると言った。

 私は願いのまま動いただけ。

――あなたを殺したの。

 あなたが私に飽きてしまったのなら、私だってあなたに未練はない。

 結局、どちらのあなたも及び腰だった。

 面白くないわ。

 

 嗚呼、私はこのままどうなるのでしょうか。

 このまま、あなたの思い出の中で生き続けるのでしょうか。

 刺激のない毎日を、死ぬまで生きるのでしょうか。

 まあ、いいわ。

 今のあなたに飼い殺されるよりは、全然良い。


 それじゃあ、短いですがさようなら。

 どこかの片隅で、消える事も出来ず、人に忘れられるまでこのままでしょう。


 それじゃあ、消えてしまう前に、さようなら。











はい、おれが異世界へ行った時の話をする。――――――――了

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