【完結済】はい、おれが異世界へ行った時の話をする。

障子破り

事実とは――小説があって奇なる。

第1話 這這の体

 

 はい、俺が異世界へ行った時の話をするぞ。


 なんつうか、どうでもいい生活を送ってた訳だ。虐められてる訳でもなく、虐めている訳でもなく。コミュ障って訳でもないが、人見知りではあった。不器用で、甘えん坊。その癖反抗的と言う、本当に糞みたいな人間だった。最上級侮蔑用語を与えたって問題ない程な。まあそれでも、外面は取り繕っていたよ。座右の銘が「理性的に生きろ」だったからな。外面と内面の切り崩しは得意だったな。

 後、友人の問題も多少な。所謂リア充グループに若干入りつつも、親友と呼べる友人はオタクグループに居たな。両方往来したりして、正直全部捨てたかった。一人で生きていけないからって言う、本当にマザーファッカーだな。キョロ充にでもなってた方がよっぽど楽だっただろう。

 実際辛かった。

 自分の環境だけじゃなくてさ、自分も嫌いだし。右翼よりの癖に日本人が嫌いで、正しくは、日本人の持つ同調圧力と選民意識が糞程嫌いだった。

 なのに何も捨てられない。

 プライドも。

 捨てられないから辛かった。

 投げ出したかった。

 

そうすると、いつの間にか俺は異世界に飛んでた訳だよ。

 急展開ですまんが、本当に急に歩いている景色が変わったんだよ。

 目の前が歪んだ訳でも、何か切欠があった訳でもない。電車乗って実家近くの駅に着いて、バス乗ろうとしたら人がわらわら並んでいたから乗るの止めた。

 歩いて一時間くらいだったけど、健康の為にも歩いた。

 健康の為(笑)。死ねよ俺は。無意味な行動を望みながら無意味に行動するのを拒否し、全ての行動に意味を求めてしまう。

 忘れたけど、多分待つのが面倒臭いのとバスが嫌いなだけだった気がする。

 勝手にトリガーが引かれたって訳だな。創作物チックな考え方をしてみると、向こう側に切欠があったんだろう。そうして、それが本当に偶然俺が選ばれたんだ。

 どうでもいいな。


 さて、歩いていた場所は森な訳だが、波打つ音と独特の匂いで海の近くだと解った。歩道も何にもなくてさ、迷ってたんだよ。幸い朝だったお陰でさ、暗闇の中だったら本当、三時間くらい彷徨ってから泣き喚いていただろうな。俺森とか山嫌いなのよ。虫とか気持ち悪いし動物怖いじゃん。

 まあ十分歩いて海に出たのよ。

 今思うと松等が植えられていなかった、そこら違和感持つべきだったのかな。まあ全国の海行った事ねえから知らんがな。

 俺海嫌いなのよ。背泳ぎしか泳げないし、溺死怖いし。くらげとか、何とかって言うイモガイとか毒あるんだろ? 無理だわ。

 見てる分にはいいけど、入るなんて事になれば絶対に拒否するね。


 言っておくけど、海見ながら開放された……なんぞ一切思ってねえ。異世界と言うより瞬間移動した気分になってさ、グラビティゼロって映画の事思い出した。地続きである限り、どうにか頑張れば帰れるだろうなって。糞みたいな予定とかあった訳だし、本当面倒臭えとしか思えなかったんだよ。多少、つかこの文章から考えられない程テンション上がってたけどな。

 それでも綺麗だったんだよな、海。

 沖縄程じゃないけどさ、自分の存在が惨めに思うくらい綺麗だったんだよ。別に惨めに思わなかったけど。

 で、写真を撮ろうと思ったんだ。本当馬鹿なんだろうな。そこで初めて携帯電話の存在を思い出したんだ。ツイッターやラインってあるじゃん。ラインは連絡手段としか見てないけどさ、ツイッターとか、嫌いで、やらされてる感じ? ってのかな。止めればいいだけの話だけどさ。意識的に開かないようにしている節があったって言い訳。

 予想出来ているとは思うが、無論圏外。

 そこでやっと、焦りが浮かんで来たな。

 焦ったら駄目だよな、本当に。焦った所為で何も出来なくてさ、現実逃避して落ち着こうとする為に読書しようと思ったんだけど、駄目。全く頭に入らない。同じ行を延々と読み続けるみたいな。

 読書しようとして、気付けたのかな。焦ってたから見えていなかったようにも思う。

 足跡、あったの。

 俺の足跡と交差するようにね。

 足跡を目で追うと、森とも砂浜とも付かぬ微妙なボーダーに続いていたのよ。んで、それを辿った先にあったのが、笑いそうになるくらい普通の光景。

 日本家屋な。

 んで、安堵した。だって、考えてみろよ? 急に知らん土地に放り出されて、且つ携帯電話は圏外。

 そこでやっと見付けた日本家屋。落ち着かない訳がない。

 と言う言い訳でさ、やっちまった訳よ。一周回って玄関でも探せばよかったのかね――先の事を言うと探さずに正解だったんだが――無断侵入な。

 家の庭を覆うようにして木々が茂っててさ、自然に作った門みたいだったから、侵入したんだ。

 そこまで大きくなかったけど、決して狭くはない日本家屋な。

 とりあえず人探すだろ?

 侵入すると、誰も居ないのよ。

 庭から室内を探したけど、見付からなかった。風鈴が揺れているもんだから、相当な田舎だろうな。悪いけど俺、田舎以外で使われている風鈴見た事ねえわ。

 勿論声も出した。

「何方かいらっしゃいませんか!」

 久々に叫んだわ。

 まあ、出て来ない。つか居ない。

 でもここに居ればさ、住民はいつかは戻ってくるだろうって思ったのよ。不躾にも縁側に座ってさ、そこそこ離れた位置に見える海を見てたの。

 時間が経つに連れて、落ち着いてくる――否、慣れてくる。

 可笑しな空気に慣れてきて、思考が正常化してくる。ように感じた。

 実際は知らない。ネガティブな予想しか着かなかった訳だから。もし住民が全て消えて俺だけが残ってたらーとか。帰ってる途中交通事故に遭って、死んじまったとかな。

 まあ、こうして書いているから、そう言う事なんだけど。


 また、不安に包まれ始める。そんな時だった。

「************」

 確かに、人の声が聞こえたのよ。

 俺は反射的に喜んで、顔を上げた。

 するとそこに、女が居た。

 金髪の、二十歳前後の女。明らかに外人。

 英語ロシア語ドイツ語程度なら、少しは知っていた。外見からして英語圏ぽかった。だからさ、こう言う場面で使える英語、適当に言おうとしたんだ。でも、全然浮かんでこねえの。何言えばいいのか解んね。

「************」

 とかさ、明らかに五十音表で発音出来る域超えているの。

 何言ってるのか全然解らない。

「え、あの」

 なんてコミュ障言語話したら、何か間延びするような発音を出した。

 そしたら、

「これなら、わかる?」

 って片言で。

 通じると思わなかったから解らなかった。

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