対決半島(後編) 3/3
【二〇一三年五月八日 一一時五五分
女鹿市 仏門崎
女鹿市対決 中堅戦】
対決を終えた旭川と新政がスプライツについて語り合っている。旭川はよほど気に入ったらしい。
シューター組は好きにさせておいて、チーム・ミレニアムブックスを追い詰めた亜也子が大平を挑発しにくる。
「さあほら大平くん、パズル合宿が見えてきたよー?」
「まだだ……まだやられんよ!」
まだまだ余裕を見せる大平が自信たっぷりに取り出したソフトは、PSのCDケース。
「中堅戦は、これ。『パカパカパッション』。システム自体が対戦になっている音ゲーだ! これまた今回の勝負にもってこいだろう?」
「おお、いいねえ、熱いねえ」
「そっちは亜也子さんが出るんだろう? じゃあこっちは高清水だ!」
「パカパカパッションをプレイするのは初めてだから、今日はとっても楽しみだ」
両手を頭の上に立てながら高清水が言う。ぴょん。
「そのセリフやめろ! 変なフラグが立つからー!」
「ええーーっ!!?」
レスポンスもばっちりフラグが立ちそうな高清水である。
「まあ、これもさっきと同条件てことね。凄腕の初見と凡人経験者。いいんじゃない!」
「高清水よ、ゲームシステム自体は知ってるな?」
「ボタン四つでタイミングよく押す、だけだよね?」
一応未プレイでも知識としては持っていたようだ。
「そうだな。あとは判定が最上位のパーフェクトなら相手の足元にチップが送られて、最終的にたくさんチップが積み重なった方の負けだ」
「パーフェクトだけね、了解了解」
高清水は事も無げに答える。
「じゃ、さっそくリベンジマッチといこうじゃないの!」
「リベンジ? ああ、さっきバトルしてたのね。んじゃ、これは一曲あたり割と長いし、一本勝負でいこうかね」
中堅、両者ともうなずき同意。
プレイヤー同士の対戦モードを選択し、曲選択。
「初めてでいきなり高難易度いってもあれなんで、この辺かな」
「そのへんは亜也子さんに任せるよー」
亜也子の選択した曲は、『Escape』。ほどほどの難易度の曲だ。
続いてパート選択。キャラクター四人がそれぞれ別の楽器のパートを演奏するという体になっており、同じ曲でもパートによって難易度が違ってくる。
「んじゃやりやすそうなドラムにでもしようかな。あ、先選んでもいいよね?」
「どうぞどうぞ。ってかドラムって上級だけどいいの!?」
「いーのいーの。たぶんメロディーよりも初見でつかみやすいだろうから」
高清水がそう言うのだから、そうなのだろう。迷いなくドラムパートのゲロッパを選択。
「そうかー、泉ちゃんが上級ならこっちもそれで受けないとね!」
さすがにここで初級中級パートを選ぶわけにもいかないと思った亜也子はギターパートのコーク。
「さてさて、初見の音ゲークイーンはどれだけやれるのか注目! 女鹿対決中堅戦、レディー、ゴゥ!」
序盤、亜也子はタイミングよくパーフェクトを重ねていく。一方の高清水は初見ということもありなかなかパーフェクト判定が出ず、足下にチップがどんどん積み上げられていく。
「ははは! ハイスピードモードとかもないこのゲームで、初見目押しはつらいでしょ! さっきの雪辱を果たす!!」
「つらいねーつらいつらい……」
調子に乗っている亜也子の発言に、大してつらそうな様子もなく高清水が答える。
と、そのようなやりとりをしているうちに、曲は中盤にさしかかる。
いつの間にか高清水ゲロッパのチップはすべて無くなり、亜也子コークの足下にチップが積み重なり始める。
「えっ、うそなんで!?」
「いやードラム選んでおいて正解だったね。リズム掴めばこっちのものだね。目押し不要ー」
高清水は簡単にそう言っているが、譜面はそこそこ詰まっており、なかなかの難易度なはずである。高清水は亜也子の想像外の生き物だったようだ。
「ええーー……」
「よし、落ち着いてやってしまえ高清水!」
その後も時々高清水側にチップは送られることはあるものの、すぐに消滅を繰り返す。焦りの見える亜也子はちょっとしたミスを繰り返し、そのたびに足下にチップが溜まっていく。その様子を静かに見守る両チームのメンバーたち。
そしてそのまま曲が終了し決着。終わってみれば高清水の圧勝であった。
「やっぱチートでしょこの子……」
先ほどのドライブインでの勝負後と同じ台詞しか出てこない亜也子である。
「解って勝負挑んでたでしょ亜也子さん。負けは負けだ!」
「うっうっ……」
【二〇一三年五月八日 一二時二〇分
女鹿市 仏門崎
女鹿市対決 大将戦】
「女鹿市対決、お互いに一勝一敗。ついに最終決戦の時来たる!」
「まさかここまで粘るとはね。さすが古本屋ミレニアムブックスwith中華料理屋梅林。恐れ入ったよ」
店の名前をすべて入れると異様に長いものである。
「最終戦を飾るタイトルは……やはり今回の事件の発端となった、格ゲーで決着をつけようではないか!
だが、SNKやカプコンなどの有名タイトルでは、先日の泥仕合再来となるだろう。
そこで! 格ゲー初心者にも優しい、任天堂の隠れた名作ファミコンソフト……これだ」
青いカセット。ラベルにはピンクのオブジェクトのみで構成されたキャラクターが描かれている。どことなく愛らしい。
「『ジョイメカファイト』。一九九三年というファミコン末期に任天堂が世に送り出した、本格的対戦格闘ゲーム!」
「ええー!? ファミコンで格ゲーなんて、ちゃんとゲームになるんですか!?」
素直な驚きを隠せないメイド。
「なってるんだな、それが。まあ、見てみなさいな」
カセットをNEWファミコンに挿入し、電源オン。
タイトル画面が表示され、先ほどのカセットのラベルに描かれていたキャラクターがコミカルな動きをしている。すでに動きはキレキレである。
「まあデモ画面を待つとしようか」
しばらく待つと、よくあるCPU対戦でのデモ画面が始まる。画面上のキャラクターはアーケードゲームの格ゲーさながらの大きさであるというのに、処理落ちも大して起こらず対戦が行われている。
「え、ほんとだすごい! ファミコンでこんなデカいキャラがぬるぬる動いてるー」
「たぶんなんだけど、キャラクターの作りをこんな風に簡素化したのが効いてるんだろうね」
「確かにー。頭、手、足、胴がバラバラで関節辺りがないと、描画とかかなり減らせそうですものね。バラバラなのも、そういうロボだ! って言ってしまえば何の違和感もないです。さすがですね任天堂!」
理解力のある子、旭川。解説ありがとうございます。
「で、大将戦、誰が出る?」
「やっぱり双方の大将でしょ! 言い出しっぺのわたしが出る!」
「じゃあミレニアムブックスは当然、俺だよな」
「てんちょうしかいないですよ! 勝ってください!」
対人戦のキャラ選択画面が映し出される。
「じゃあ1P亜也子さんどうぞ」
「いいの? じゃあお言葉に甘えて。昔やったことあるんだけど、スカポンばっかり使ってたからそれでいい?」
スカポンとは、先ほどから出てきているピンクのロボットだ。このゲームの主人公ロボである。
「いいよ。ていうか俺もスカポンくらいしか覚えてないから、同キャラ対決、いいかな?」
「いいでしょ! そこはお互い本気を出せるとこでいかなきゃー。最終戦だもの」
「そうな。変なハンデとかつかないしこれでいこう!」
1Pの亜也子はピンクのスカポン、2Pの大平は黄色のスカポンになる。
「よし、このジョイメカファイト対決を収めたものが、長かった対決半島の勝者だ! 女鹿半島を手中に収めるのはどちらなのか! 大将戦、ジョイメカファイト対決、レディー、ゴゥ!!」
割とノリノリな新政の合図で大将戦、対戦開始。
お互いに飛び道具『トンデケー』やリーチのある大パンチ、大キックで様子を見つつ仕掛けるタイミングを見計らう。
「なんか……」
対決を見守りつつ旭川がぽつり。
「最終戦なのに緊張感の欠ける戦いじゃないです?」
それもそうだ。スカポンの攻撃の気の抜けた効果音や、『コンナンイラヘン』などの技名が、不意になごんでしまう感じである。
「それ言わんといてー!」
スカポンに感化されてか、関西風の言葉になる大平。イントネーションが怪しい。
「そうそう、割とこっちは必死なんだから……ああ!」
大平の『スカポンナゲ』が決まり、亜也子ダウン。
「あっ、てんちょう! ナイスです!」
「まだだよーまだまだ、あと二本も取らなきゃいけないなんて……!」
「そうそう、これからだよこれから!」
戦いを続けながら亜也子が大平に質問する。
「そういや、スカポンってなんか溜め技なかったっけ? ぐるぐるーって回転しながら飛んでくるやつ、みたいなの」
「ああ、『ローリングスカ』ね? 後ろに溜めて前+Bじゃなかったっけ」
と言いながら大平が『ローリングスカ』を出す。胴体の周りを頭と手足が回転しながら突進していく黄色のスカポン。不意に出されたのでピンクはまともに食らってしまう。
「うわ、卑怯!」
「対戦中に教えてあげただけ親切ってもんよ!」
「ん、まあそうか、ありがと!」
何故か素直に感謝する亜也子。
「お? 亜也子さん、これは勝ったかな?」
「え? なんでです? てんちょうの方が大幅リードじゃないですか」
「まあそうなんだけど、たぶん今の技を亜也子さんに思い出させたのは大平の失策だったんじゃないかなー」
「???」
亜也子の勝利を確信する新政の発言が理解できず、顔を見合わせる旭川と高清水。
「うおお!」
「どうしたんですてんちょう!?」
先ほどから続けてリードしていたはずの大平があっという間にダウンを奪われ、ハートの残数がお互い一つずつになる。一瞬にして同点まで追いついたことになる。
「亜也子さん、まじでつおい……」
亜也子の眼が、ギラリ、と怪しく光った、気がした。
「覚悟しなさい! このまま一本も取らせないよー!」
「きたきた」
「なにが起こってるんです……?」
「いやね、亜也子さんて、なんか昔から溜め技とか溜め撃ちとか絡むと異様に強くなるんだよね。例えば、『19XX』のヴァリアブルボムとかね。その攻撃が強力であればあるほど、やたらとうまく使いこなしちゃうんだ」
「あたしよりよっぽど亜也子さんのほうがチートじゃないすか……」
チート呼ばわりされたおだんご娘がぽつり。新政もそのまま肯定する。
「ま、そうだね。そんなわけで、今回のスカポンの『ローリングスカ』は、見ての通り高速かつ威力大、しかも無制限に出せるときたわけだ」
着実にボコられていく大平のスカポン。
「おお……うおお……」
大平、再度ダウンを奪われ最後のハートがなくなる。
「てんちょう! まだです! まだいけます!」
「おう、あきらめちゃいないさー!」
まさかの一方的な展開に応援側も白熱してくる。大平もまだまだ気合充分のようだ。
「とと、うわっ!」
突然、亜也子が慌て叫ぶ。
「ああっと! コントローラー落としたー!」
ダウンを奪って少しの空き時間があるので、亜也子は溜めで酷使した左手をコントローラーから外していたのだが、ちょっとした拍子にコントローラーを取り落としてしまったようだ。
「よし! チャンスだ!」
これを逆転の機と見て大平が攻勢に移る。
「うわー卑怯なり大平くん!」
「ハンデだハンデ!」
「でもやっぱ卑怯だ大平さん!」
味方にまで卑怯呼ばわりされる大平。本人は気にしていないようだが。
コントローラーを持ち直した時には、亜也子の体力ゲージは残りわずかまで減ってしまっていた。
「大平くん」
「なんでしょう亜也子さん」
「死ぬがよい」
某大佐も顔負けの威圧感での『死ぬがよい』である。的確に放たれるローリングスカ。
「うわ、なんで! なんかスカポン光ってるし!」
「強化される追加コマンド思い出した」
「まじか……」
絶望するしかない大平。黄色スカポンも立て続けのダメージに頭を落としてピヨピヨ状態になってしまう。
「アハハハハハッ! みんなで合宿に行こう!」
心底楽しそうな亜也子の言葉とともに、無抵抗な大平に向けてピンクに光り輝くローリングスカが放たれる。
画面の動きがスローモーションになり、バラバラに吹っ飛ぶ大平の黄色スカポン。
亜也子のピンクスカポンの勝利のダンス(?)で幕を閉じたのだった。
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【二〇一三年八月一八日 九時二五分
秋穂市 国道13号線】
「まったく……なんで店を一週間も空けなければならんのだ……」
「ほらほら! 敗者は潔く従うのです。運転集中して!」
大平ワゴンがまったく同じメンバーを乗せて、国道を穂沢湖方面へ突き進む。
約束の罰ゲーム、『落ち物パズル地獄の一週間合宿』へ向かっているのだ。
「まあしかし、よくみんな予定合わせらましたよね。わたしはなんとか県庁のインターン終わったタイミングだったからよかったですよー」
「なんだかんだでみんな結構楽しみにしてるんじゃない?」
「俺はいやだぞ! 落ち物パズルしかできないなんて……」
「ほう? 大平、そうは言ってもこの箱の中身はパズルゲームで一杯のようだけど?」
新政の座る助手席の足下に置いてある箱には、有名どころからマイナーなものまで、ゲームハード問わず新旧入り乱れた落ち物パズルがどっさり。
「あ、それはだな……ほら、合宿行ってタイトルやりつくして暇なのもどうかと思うだろ! な!?」
「まあそういうことにしておいてあげましょうかねー、大平さん」
にやにやしながらいたぶる高清水の発言に、ぐうの音も出なくなる大平であった。
この辛く楽しい地獄の合宿のお話はまたの機会に。
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【グランドフィナーレ
二〇一五年一二月五日 二三時一五分
秋穂市 ミレニアムブックス】
さあ、いかがでしたでしょうか。
最終的なポイントは1147対796。
女鹿半島を巡る対決はチーム・新屋家によって制され、一つの戦いの幕が下ろされました。
対決が終われば、古本屋『ミレニアムブックス』も通常営業です。しかし、ゲームある限り、彼らの対決は終わらないことでしょう。
「う、うおお! プリンツきたー!」
「まじで!? やばい、今回は大平さんの独り勝ち?」
「ああ……資源が……バケツがー」
「お願い! 川内ちゃんがんばって嵐を……うー、また那珂ちゃんか……」
「ああ、溜めに溜めた資源で大型艦建造したい……」
「亜也子さん早まらないでくださいー! いくらE-4のドロップ悪いからってあきらめるのはまだ早いですー! グラーフさんでも出しててんちょうに一矢報わないと……」
いつでも、どこでも、どんなゲームでも、対決上等!
またのご来店をお待ちしております。
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