From Hair to Knee(仮題)

ミーシャ

「人が天使を殺したころ」1/2

人間の文化は、なにも文字だけで保管されるのではない。


声によって、生きた耳によって、語り継がれる物語の中にも、人の生きてきた証がある。


確たる証拠とは、ながいながい時間のなかで、意味を失っていくものである。

想像力だけが、無意識に浮かぶ残像を、過去から現在の時間へ伝えていくことができる。


無から有は生まれない。有から有が生まれるだけである。

有から無が生じることはあっても、それは喪失では無い。永遠でもない。



あるとき人間は、狩りをしていた。それは、今日の食事のために、始められたのではなかった。彼らは衣服も武器も、十分に持っていたし、食べるものにも、欠いてはいない。


そこから始まる狩りは、一つの絶対的な命令に基づき、開始された。


「神の指示した創造物を、殲滅する」


それは、生存競争では無かった。人間は、見たこともないものを、狩りに行く。神の指示は明確であった。


「鳥の羽を生やし、お前たちのような大きさで、お前たちよりも軽い、生き物を狩れ」


彼等は、自分たちの背丈と同じくらいの草が生える、湿地帯を長い間進んだ。


甲高い、笑い声のようなものが聞こえてきた。水の落ちる音もした。それは青い滝だった。


青く凍ったような水が、しぶきを上げて落ちていく。その前に、羽の生えた者たちはいた。人間たちは斧や剣を振りかざし、次々と捕えていく。


狩られる側の生き物たちは、人間を知ってか知らずか、はじめは何をされているか、分からないようだった。


しかし気付けば、羽をばたつかせ、空に飛びあがり、逃げようとするのだった。そこで人間は、彼らの発する声を理解できないと思い、言葉を話さない、未熟な生き物であると考えた。


なぜなら、彼らはあまりにも簡単に捕まり、羽を切り落とされると、多くの血を流して、すぐさま息絶えた。そうして積み上げられた彼らの身体は非常に軽く、人間たちは、その軽さに驚いた。


人間たちは、殺したものに気を留めなかった。神の命令は新たに発せられ、彼らは空を見上げた。そうして、羽の生えた軽い生き物たちの群れは、土に帰ることになった。



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