ぶきふたっ!

@itiru99

side*1 4月の衝撃



「山月小虎くん、付き合って欲しいの」



今、俺は告白を受けている。女子に付き合って欲しい、と言われて「どこに?」と返すほど鈍感でも馬鹿でもない。


相手は、この学園に通っているやつなら誰でも知っている。


2年A組 高坂 千百合(こうさか ちゆり)。


"美しい人形"


家柄は言うまでもなく、Sクラス。……全国一と言われるヤクザ、"高坂組"の一人娘。


親がヤクザでも容姿は全然そういう風ではない。色素が薄い甘木色の髪はポニーテイルにしている。目は髪と同色。透き通るような白い肌は化粧なんていらない。背は160センチくらいだろうか。そして、すらっとした手足。テレビに出てくるモデルとはまったく違った綺麗さ。宝石でいう原石。原石だが、磨かなくても十分。


成績も学年上位にはいる、と噂で聞く。


ただ、彼女にはひとつ欠陥がある。まったく表情が変わらない。機微すら、ない。そういわけで学園では"美しい人形"と言われている。


ハッキリ言って、家は父子家庭、容姿は金髪不良(髪は友達に染められ、不良は不本意)、クラスは問題児が集まる8組(別に気にしてはいないが)に所属している、山月小虎(やまづき ことら)には、縁のない雲の上の人なのに。


その彼女に俺は放課後体育館倉庫の裏に呼び出されて、今、現在、告白を受けている。呼び出し方法が手紙とくれば、なんてベタなシチュレーション! と突っ込まずには入られなかった。


告白をしながらも、高坂千百合は照れた様子もなく淡々としている。だから、どうしたもんかと、俺は黙ってしまった。


「山月くん、聞こえなかった?」

「いや。混乱してた」

「そう」


高坂千百合は、俺と目を合わせながら喋る。じっと俺の目を見ているのだ。俺の目に綺麗な彼女が映されてる。とても、気まずい。ただ、目をそらすと失礼な気がしてそらせない。


「俺、高坂と話したことない、よな?」


ひとつひとつ言葉を選んで話したら、ぎこちないしゃべり方になってしまった。高坂はそれを気にした様子もなく「ええ」と端的に言う。


「ひとめぼれ、ではいけない?」

「……光栄過ぎて倒れそう」

「どこか痛いの?」


彼女は的はずれなことを言う。いや、頭は痛いかも。


ほんと、大変な人に惚れられてしまった。A組のお嬢様が不良にひとめぼれって……物珍しいから、ではないらしい。だって、ずっと目を見ていたから分かってしまった。


彼女は緊張している。ひとめぼれと言ったとき、目が泳いだ。一瞬でも、分かった。


「どこも痛くはない」

「そう。返事は待った方が良いの?」

「いいや。――ごめんなさい」


急かされて、断った。頭をさげたから、彼女の表情は窺えない。彼女は俺に対して相変わらず淡々とした声で言う。


「敗因を聞きましょう」


……どっかズレてるよな、この人。


「敗因っつーか、高坂のことよく知らねえし」

「そう。敗因はそれ……始めに自己紹介をすべきだったのね」

「ちげえよ! 噂は色々知ってるけど、高坂自身のことはよく知らねえんだよ」

「うわさ……まあ。わたしのことをあることないことひそひそ……いじめ、こわいわ」

「高坂、お前、ボケなんだな!」


俺の目を見て無表情でこんなことを言えるとは……もしかして、天然か?


「それは、ボケとツッコミのボケよね」

「痴呆の方ではない」

「山月くん、痴呆、というのは差別用語に当たるの。言い換えるなら、頭のおかしい人、よ」

「お前の言葉の方がもっと差別してるけど!?」

「そう」

「そう、じゃねえよ!」

「ああ、敗因は"よく知らない"だったわね」


……無理矢理話題を戻した。いや、マイペースなだけか。


「まあ、そうだな」

「付き合っていくうちに仲を深める、というのは、だめかしら」

「よくあるな」


まあ、それはどちらかが告白を受けて"まあ、付き合ってみるか"みたいな流れだと思う。大抵、なあなあしてまあまあな結果で終わる。


「だめかしら」

「二回繰り返さなくてもいい。なあなあに付き合う、ね……好きという気持ちをおざなりにするのは、あまり好きじゃない」


高坂のこめかみがぴくっと動く。少しは何か感じているらしい。高坂は俺に好意を持っている。だから、告白してきた。その高坂をよく知らないのに、好きという気持ちはさえ確立してないのに、なあなあに付き合ってまあまあに終わるなんて、彼女に失礼にもほどがある。高坂は少し、黙って、口を開く。


「ふむ。でも、わたしは山月くんともっとおしゃべりしたり、ツッコミとボケの練習、たかのぞみだけど普通に遊びたいわ」

「……友達じゃダメなのかよ」

「ともだち……?」



それは普通の友達同士となんら変わらない付き合いだった。恋人同士と言われると、意味合いが違ってくるが。


「友達でも、喋ったり、ツッコミとボケの練習はしないけど、普通に遊んだりするだろ」


彼女の目が見開かれる――なんだちゃんと表情があるじゃないか――それが、俺が見る初めての表情の変化だった。



「目からぼたもち、ね」

「それを言うなら目から鱗! 棚からぼたもちと混ざってるぞ!」

「さっそくツッコミとボケの練習が出来たわ」

「あれは本気だったのか……!」



……こうして、俺は"美しい人形"こと高坂千百合と友達になった。新学期早々、変な奴と縁が出来てしまったなあ……と思いながら、いつものことか、と思い直したのだった。


高坂は「今度、お昼を一緒に食べましょう」と言って俺の前からさっといなくなった。俺が、返事をする間もなくだ。今度っていつだ。メアド交換すりゃ良かった……。


後悔してもしょうがない。高坂が今度と言ったんだから、今度があるんだろう。俺は学園の寮に行こうと、体育館倉庫の裏から出た。


寮に向かうついでにこの学園のことを説明しようと思う。誰にって、まあ、誰か。


俺が通ってる学校の名前は"三桜(さんおう)学園"。まだ創立10周年の真新しい学校。一番の特徴と言えば、エスカレーター学校ってところ。幼稚園~高校まで入ってしまえば、18歳まで教育の面倒がみてもらえる。勿論、学びたいやつだけだ。真新しいから、とにかく設備が揃ってて、校舎も新しい。


それなら、ただの私立校でもありそうだが、バックに雪白財閥がついていれば、話が違ってくる。貿易を主としてきた雪白財閥は、社長が代わって急成長を遂げた。色々な産業に手を出し、今や"世界の雪白"と呼ばれるほど。


その雪白財閥の社長が何を思ったのか10年前、急に学校を作りたいと言い出し、元々あった"三桜高校"をまるごと買い取って施設を増やしこの学園が出来た、という背景を持つ。その雪白財閥が建てた学校なら、お金持ちの子息や令嬢が親に勧められて入る。――それは少しでも雪白財閥と関わっておけば、後々有利になるかもしれない、と考えたからだろう。この学園が私立だが、入学金やら授業料が安いのは、こういったお金持ちの人たちが黒い金、とは言ってはなんだが、つまりは寄付金を募ってくれているおかげでもある。


また、学校のおかげでさびれていた三桜町は活気ある町へと姿を変えた。子どもが集まれば、その子どもをターゲットとしたお店が増え、それが広がり連鎖的に町は大きく発展をとげた。


因みに俺は金持ちなんかじゃない。母親は5歳のとき父親に愛想をつかしていなくなり、仕事はきちんと出来るが、私生活が終わってる父親と細々と暮らしている。とても、何も出来ない、だらしない父親だ。そんな父親のせいで、俺はしっかりとした少年になり、小6になる頃になんとなく「私立の学校の方が学歴的に良いらしいし、しょーがくきん? もらってはいらなきゃ」と思っていた。そこで、今から行く寮に入っている友達に誘われこの学校に入った。ある程度、学力はあったので中等部は父子家庭支援なんとか(とにかく有難い制度)で0円で通え、高等部も0円とは言わずも、多少奨学金制度を使って通っている。苦学生ってやつ。小遣い程度に週3でバイト。まあまあ充実してる学校生活。


「おっ……通り過ぎるとこだった」


そこで、友達の寮室についた。全国からお金持ちが集まる三桜学園は、学校から少し離れたところに寮も完備している。もちろん、俺は自宅から自転車通学だ。


チャイムを押すと、独特の音が鳴った。


しゅぴーん!


「……まだ変えてなかったのか……」


鋭いチャイム音である。無論、全部の部屋がこんなチャイム音なわけない。この部屋の主がチャイムを改造(……して悪いのに)したからだ。


ガチャ、とノックが解除された音が聞こえ、開かれた扉から整った女性的な顔が現れた。


「思ったより早かったねぇ、小虎」



部屋の主――スズは、榛色の目を細めて、にんまり、と笑った。



早く入れば、と言われて俺は部屋の中に入り、スズの背中を追う。ふんわり、と制服のスカートが揺れ、頭の中間当たりで二つに結ばれたミルクティ色の髪が目につく。



「スズまた長くなったんじゃないか、髪」

「ふふん。背中くらいまで伸びないかなあ、って思ってるとこだよ」



スズは嬉しそうにそう言い、サラッと髪を撫でた。ふんわり、と良い匂いのリンスが鼻腔をかすめる……またリンス変えた、なんて分かってしまう自分が怖い。俺はため息をついて、呆れてこう言う。



「……これ以上可愛くなっても、勘違いする男が可哀想なだけだ……」

「ぎゃはっ! 勘違いすれば良いじゃんっ

僕は、そんなばぁかな男を引っ掛けるのがだぁいすきなんだから」



上品とは言えない笑い声が部屋に響き、くるっとスズは俺の方を向いて、可愛くぱちっとウィンクした。



……さて、ここまでの時点で問題だ。




スズは男か、女か?




正解者にはハワイ旅行プレゼント――なんてしないけど、正解は男。正真正銘、女顔で、スカートを穿いていて、髪が二つ結びできるほど長くて、良い匂いがするリンスを使っていて、男が惚れるほど可愛くても――俺と同じものがついていて、女にはついていないものがついている、男だ。



本名は、成原 鈴之助(なりはら すずのすけ)と言う。鈴之助だから、短くスズ。俺とは小5のときから一緒。家があらゆる武道に長けている厳しい家柄で、自分の趣味(おんなのこおんなのこした可愛いものを集めること)を認められず、昔から女の格好をして反発している。


……反発って言っても滅茶苦茶似合ってて、可愛いからほぼ好きでやってるんだろうな……。女の格好をして、男を引っ掛けるのが大好き、という性悪な趣味を持っている。……そろそろやめて欲しい。引っ掛かった男達が可哀想な目にあっているのを、俺が何度見たか……。



きっとスズは楽しくて俺が何を言っても聞かないのだろう……。



2LDKの部屋――寮は二人部屋で、スズも例外じゃない。俺は、リビングにあるクリーム色のソファに座った。



「あれ、ショウは?」




ここに住んでいるもう一人の住民は、俺とはそれこそはな垂れ小僧の頃から一緒の幼馴染みで、小・中・高と一緒だった。アイツの両親が去年から海外に行き、生活能力のないアイツは寮に入った。今日は、スズと帰ったはずなのに、いない。スズはキッチンでコーヒーを淹れながら、答える。



「なんか電話があって、"母ちゃんが倒れたらしいから、え、えーてーえむ? に10万振り込んでくる!"って慌ててでかけたけど」

「振り込め詐欺だろ、それ!?」



馬鹿! お前のお母さんは今海外だろ! えーてーえむってなんだ、ATMだろ!? ああ……幼馴染みは天性の馬鹿であり、アホだ。



「ていうか、スズそこは止めろ!!」

「ATMもちゃんと言えないショウが、ATMなんて知らないと思うしさぁ、それで振り込み作業なんて出来るわけないじゃん」



……冷静な判断だけど、友人として止めろよ。スズは大丈夫大丈夫ーと笑ってコーヒーを持ってくる。



「ショウは馬鹿だから、人に事情話して止められるよ。ぎゃはっ!

"それは振り込め詐欺だよ、君!!"ってさ」

「はあ……そうかもな……」



コンビニで大騒ぎしてなきゃいい……と半ば神に祈りながら、コーヒーをすする。しばらく、新学期の授業のことを二人で話していたがスズが本題を口にする。




「で、高坂千百合からの告白は受けたの?」



「いや」

「最初から筋道立てて教えて。小虎にやっと来た春なんだからっ」



スズは、にまにまと嫌な笑いを浮かべて聞いてくる。……スズには手紙が来たことも話していたから、高坂の"用事"を終えたあと行くと約束していた。もちろん、スズが無理矢理取り付けた約束だ。



俺は、上手く話せないけど、と前置きをしてさっきあったことを話始めた――。



「ぎゃっははははははは! なっ、な、なにっ! ぎゃははははははは!! こ、高坂っ、ちっ、ゆりと友達っ!?」

「そうだけど」


ぎゃっはははははははっとスズは大笑いを繰り返し笑い転げる。俺は、なんでそんなに笑えるのか分からない。スズはひとしきり笑って、涙をふいて(どんだけだ)、口を開く。


「高坂千百合が小虎を好きっていうのも驚いたけど、小虎も小虎だよ。ホント、変なやつに好かれるっ」

「高坂はちょっと世間知らずって感じだったけど、そこまで変なやつじゃなかったし、少し話して楽しかったんだ」


それは確かだった。まだ、知らないことが多いが高坂は表情が変わらないだけで、他は普通の女子と変わらないと思う。


「いやあ、でも、学園一の美人からコクられて付き合わないとか、ああ……小虎は小虎だねぇ」

「どういう意味だよ?」

「なあんでもないよ。ま、良いんじゃない? クラスの何考えてるか分からない女子よりマシだと思うし」


スズはそこでぎゃはっ! と笑う。……俺たちのクラスは問題児が集まったクラスだから、そのクラスの女子と高坂を比べるのは……そもそも理科室爆破した奴や教室で鍋をして火災報知器鳴らした奴らと高坂は比べられたくもないと思う。みんな見た目はまともなのに……どうして頭のネジが一本飛んでるんだ。



「……今年は何もないと良い」

「何言ってんの? 無理だって!」


俺はクラスの連中を思い出したら寒気がして思わずそう呟いたが、スズはそれをばっさり言い捨てた。



「今年の新歓は何をやるんだろうな」

「また鬼ごっこじゃない? ぎゃはっ! 豪華賞品GETしようね~」


ガッチャ!


「……?」


しばらくスズと雑談していると、バタバタと騒がしく誰かが、部屋に入ってきた。チャイムも無しに、この部屋に入ってくるやつなんて一人しかいない。


「スズ、母ちゃん倒れてなかった!」


そう叫んで現れたのは、俺の幼馴染み、媛路彰陽(ひめじしょうよう)。彰陽だから、短くショウと呼んでいる。背が185センチと高く、ひょろっとしている。ふわふわの黒髪とシュッとした顔が犬のコギーを彷彿させる。でも、犬みたいに頭は良くない。振り込め詐欺に引っ掛かりそうになっている通り、純朴で馬鹿だ。


良かった。こうして帰ってきたということは、振り込め詐欺には引っ掛からなかったらしい。俺はほっと安心する。


「えーてーえむがなんだかわかんなくてさーおまわりさんに聞いたら『それ、振り込め詐欺だろ!?』って言ってくれて……まさかおじさんが振り込め詐欺の一員だとは知らなかったぜ!?」

「電話かけてきたのはお前の叔父さんじゃねえよ!話し混同してんじゃねえか!!」

「お、小虎きてたのかよー」



ショウは今俺に気づいたようだ。にこにこ笑って「おまわりさん親切だったぜー」と言う。


「……うん、良かったな……」

「ぎゃはっ! 小虎呆れてるしっ」


ショウの笑顔に毒気を抜かれた俺はそうとしか言えなかった。



スズから「ご飯食べてけば?」と言われたが、それを断って寮を出た。四月と言っても、まだ寒い。首をすくめながら歩いていると、校門の前に誰かが立っているのが見えた。


「……高坂?」



薄暗がりに見えた、シャンとした背中にポニーテイル。それは、つい数時間前に別れた高坂だった。小さな呟きだったのに、高坂はその呟きに反応してポニーテイルを揺らし、ゆっくりと振り向く。


「ごきげんよう、山月くん」


そう高坂はしっかりと俺の目を見て挨拶した。……高坂やべえ「ごきげんよう」って超似合ってる、じゃなくて……。


「高坂、誰か待ってるのか?」


新学期が始まったばかりで活動している部も少ないが、友達と一緒に帰る約束でもしているんじゃないかと聞くと首を振られる。


「いいえ。山月くんを待っていたの」

「俺?」


高坂は首を縦に振り、鞄から携帯を取り出しと言った。


「メールアドレス、交換しましょう」

「ええ!?」


俺はマイペース過ぎる高坂についていけない。


「メールアドレス、交換しましょう」

「二回繰り返さなくても良い!」

「赤外線でいいわよね。わたしのメールアドレスを山月くんが受けとる? 山月くんのメールアドレスわたしが受けとる?」

「いや、どっちでもいいけどっ 高坂、ここでずっと俺を待ってたの、か?」


メールアドレスを交換するためだけに、空が薄暗くなっていくなか、一人でずっと。


「ええ」

「俺が帰ってたらどうしたんだよ」

「……あ」

「あって……」

「それは、考えていなかったわ」


考えてなかった……。俺が呆れてため息をつくと、高坂は急に小さな声になって「迷惑だったかしら」と言う。


「そういうわけじゃなくて……」

「今度お昼、食べる約束したのに連絡の方法がなければこまると思ったの。下心はもちろん、あったけど」

「下心は隠しておくもんだろ」

「そうね。でも山月くん、わたしはあなたとともだちになったけど付き合うことを諦めてはいないのよ。下心ありありで山月くんを惚れさせようと待っている間、決めたわ」

「マジか」


まじよ、と間髪入れずに言う高坂を見てなんだか背中がムズ痒くなってくる。高坂はとにかく言うことが真っ直ぐで、「好き」ということを一直線に伝えてくる。俺へぶつけてくる。


そんな高坂は、物凄く可愛い。人形じゃない。ちゃんと感情があって、その感情を言葉で示している。……友達じゃダメか、なんて俺はまったく酷いやつだ。高坂は所謂(いわゆる)、据え膳を食えないんだもんな。


「……」


高坂に謝るのは簡単だった。ごめん、友達になんてなれるわけないよな……って。でも、それはただの自己満足で正直俺は……高坂ともっと話したり、遊んでみたり、彼女の表情を見てみたかった。


だから、


「高坂、何時間も待たせて悪かった。待っててくれてありがとう」


礼を言うのが、一番だ。


「いいの。わたしが勝手に待ってただけだから……山月くんのメールアドレス、ください」


最後に敬語になった高坂は少し照れているようだった。それは俺の推測だけど、高坂のメールアドレスを受信したとき俺は少し照れていた。


――もしかしたら、高坂がここで待ってなかったら、俺と彼女の縁は切れていたかもしれない。俺たちは、不良とお嬢様のまま一生交わらなかったかもしれない。


それを考えたら、酷くつまらなく感じた自分がいた。


今は高坂の思いに応えられないけど、ひょっとすると……ひょっとしなくても、俺は高坂を知るうちに高坂を好きになるんじゃないか、って……そんな予感がした。




end

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