御伽物語

@karasu-syougeki

ランタンの小さな火を見つめて僕はため息を吐き出した。今日は隣町から御伽師おとぎしがやって来る日だ。町の子供達は銀貨を握りしめて家族仲良くテントに入っていく。けれど、ちっとも楽しくなかった。僕の家は貧乏でおとぎ話を聞く事も出気ないんだ。

町行く人は皆楽しそうで僕より幸せそうだ。そんな貴族を見下ろせるオンボロ部屋から僕は窓硝子にため息を吐いて白く現実の世界を隠蔽していた。


外からは御伽師の出番を知らせるラッパの音色がする。そして貧困の差を明らかに照らし出すんだ。

僕は、布団に潜り込みラッパの音から姿を隠していた。

しばらくすると、ドアをノックする音が聞こえた。木製の薄い扉を三度優しく叩く音、誰かとは思わない。僕は病気の母さんと二人暮らしなんだ。


《エルノ入ってもいい?》


僕は、人より恵まれない事にいらだち返事はしなかった。


《お母さん入るわね?》


僕はベッドの布団にくるまり絶対に出ない。なぜかというと真っ暗な布団の中で泣いていたからなんだ。泣いた顔を母さんが見ると母さんが悲しい思いをするから。


《エルノ…テントに行かない?今日は御伽師さんが来て楽しいお話を沢山してくれるのよ。実はね、お母さんの作った手袋がさっき全部売れたの。だからね…エルノもお友達と一緒にテントに行ってきたら?》


お母さんは、嘘が下手くそだ。店の扉には鈴がついていて客や医者が来店すると必ず鈴の音が聞こえるんだ。隙間だらけの建物に生まれてから住んでいる僕には嫌でも分かってしまう。

以前、同じ理由で僕はテントに銀貨をを握りしめていった事がある。その数日後にお母さんは突然倒れたんだ。

僕は知っている。お母さんは薬を買うはずの銀貨を僕に渡してテントに行かせた事を。


《僕は行きたくないよ。お母さん》


僕もきっと嘘が苦手だと思う。だから嘘をつく時はいつも布団の中から声を出すんだ。

少しの間、お母さんは無言になった。そして布団越しにお母さんの手の重みが僕の頬を暖めた。

僕は目を閉じて温もりを感じていた。

その時、お母さんが優しい声で語り出した。


《はるか昔のお話です。この世界は闇の帝国ラディエルという悪の力に支配されていました。ラディエルの兵隊は人間でも獣でもない真っ黒な生き物でした。真っ黒な生き物は色々な生き物に姿を変えて人間を襲い沢山の死者をだしました。人間は、その真っ黒な生き物をグロズと名付けてとてもとても恐れていました。ある日、悪の皇帝ラディエルは人間を滅ぼすために禁断の生き物、黒い翼のドラゴンを使い人間を滅ぼそうとしました。黒い翼のドラゴンが火を吹けば空は真っ赤に染まり、翼を羽ばたいたら街が吹き飛びました。そのドラゴンの名前は……。ジーヴァイアス・アゼフ・ラディエル・ゼルファディオングロス…オルズヴィラドラグン。世界を白紙に戻す者。


人々はそのドラゴンをジーヴァイアスドラゴンと呼びました。


ラディエルは次々と街を火の海にしていきました。そして世界中の人々は絶望してしまい生きる力を失ってしまいました。



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