願い事と夢と
仁志隆生
願い事と夢と
昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
この二人はとても人柄がよく世話好きで、村でも評判の夫婦でした。
ある日のことです。
二人が住んでいる村でお伊勢参りに行く代表を決めることになりました。
普段は代表をくじで決めますが、今まで二人は
「皆行きたいじゃろ。わしらはええから」
と言ってくじをひくのも辞退してきました。
なので村人達は「今まで二人には世話になりっぱなしで全然お礼が出来てなかった。今回はぜひ行ってきてください」と言いました。
二人はそこまで言われたら遠慮しては悪いと思い、お伊勢参りに行くことにしました。
「ばあさんや、何かワクワクするのう」
「おじいさん、わたしもワクワクします」
おじいさんとおばあさんは童心に帰ったかのようにはしゃいでいました。
「なあばあさん、何か願いごとでもするのか?」
「そうですねえ、子供が欲しいとお願いしましょうか」
「そりゃいくら神様でも無理だろう」
「そんな事言ったら怒られますよ」
「そうだな、ハハハ」
旅は順調に進み無事伊勢神宮に着いた二人。
お参りを済ませついでに京の都を見物して土産もたくさん買いました。
「おじいさん、ちょっと買いすぎましたね」
「そうじゃの、持って帰るのは一苦労じゃのう」
そう言ってると
「もし、何やらお困りのようでやすね」
と若い男が声をかけてきました。
「いや、お伊勢参りの土産を買いすぎましてのう」
「それはそれは、さぞお困りでやんしょ。で、どちらから来られたんですかい?」
「東の方からです」
「ならちょうどいい。あっしもそっちへ向いて旅してるんで途中まで持って帰るのを手伝いやしょう」
「いや、悪いですよ」
「いやいや、遠慮なさらずに」
こうして二人は若者に荷物を半分持ってもらって帰路につきました。
「ああ、本当に助かります」
「いや、何か死んだ両親に孝行してるような気になりやした」
「そうですか。わしらには子供がおらんのでのう、もし息子がいたらこんな感じなのかな」
「そう言って貰えると嬉しいでやす」
(へっ、この二人ちょろいな、隙を見てとんずらしてやる)
この若者は盗人でした。
そして日が暮れた頃、三人は宿場町で宿を取りました。
「さて、そろそろ寝ますか」
三人は布団に入って寝ました。
若者はしばらく寝た振りをしながら逃げ出す隙を伺っていました。
するとおばあさんが起き出しました。
(ありゃ、ばあさん起きちまったか、ん? こっちに来るぞ?)
「おやおや、布団がはだけて、風邪ひきますよ」
そう言っておばあさんは布団をかけ直してあげました。
そして枕元に置いてあった若者の服をとると
「昼間から気になってたけどずいぶんほつれてますね、繕っておきましょ」
そう言って服を繕い始めました。
薄目でそれを見ていた若者は、なんだか胸が熱くなりました。
(こんな風にされたことって今までなかったな。本当は親なんて顔も知らねえよ、捨て子だったしな。でもなんだろうな、なんか、うう)
若者はいつの間にか本当に眠ってしまいました。
そして夢を見ました。
子供の頃に戻ってる自分。
でも昔と違うのは外で遊んでて家に帰るとそこには両親がいました。
その二人は若かりし頃のおじいさんとおばあさんのように見えました。
朝起きると若者は
「お二人に謝らなければなりやせん」
正直にすべてを話しました。
「おや、そうだったのかい、だかの」
「まだ何もしてませんしね、正直に話してくれたんだしいいですよ」
「うう、あっしは」
若者は涙ぐんでいました。
するとおじいさんが言いました。
「実はの、わしらも夢を見たんじゃ」
「え?」
「わしらも若い頃に戻っていての。家で自分達の子供が帰って来るのを待っとったんじゃ。そして帰って来た息子はあんたが子供ならこんな感じかな、と思う子じゃったわ」
「おじいさん、皆して同じ夢を見てたんですかね」
「そうじゃな、不思議なこともあるもんじゃ」
「いや、もしかするとお願い事を聞いてもらえたのかもしれませんねえ」
「ああ、子供が欲しいって願いか」
「え?」
若者は目をぱちくりさせていました。
「なあ、あんたさえよければうちに来てくれんか?」
「え? で、でもあっしは元は野盗集団の一味で今は」
「わしらの息子じゃだめかの?」
おじいさんが若者の手を取って言うと
「うう、わかりやした、おとっつぁん、おっかさん」
若者は俯いて涙声で言いました。
そして三人は一緒に村へ帰りいつまでも仲良く暮らしました。
どう、無理なことなどないでしょ。
でも誰の願いでもを叶える訳ではないのよ。
あなた達の今までの行いをみて、叶えたのよ。
人間がこういった人ばかりだと楽なんですけどね。
おしまい
願い事と夢と 仁志隆生 @ryuseienbu
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