話其の拾肆/お互い様の渡りに舟

途中で雉が合流した桃太郎とご一行は海岸線までやって来ていた。


海を隔てたちょっと先に鬼ヶ島が見える。


「舟を探さなきゃならないな」


犬が言った。


「俺がちょいと探してみるよ」


雉がそう言って飛び立った。


そして上空から雉が周囲を見回した。


暫くしてから、雉が戻って来る。


「すぐ近くには舟らしきものは見当たらなかったな~」


「こっちから鬼ヶ島に渡る舟はないはず」


猿が、さも当然かの様に言った。


「何で?」


桃太郎が猿に訊く。


「鬼ヶ島に人間はいない。だから、人間がわざわざ鬼ヶ島へ行こうとはしない」


「言われてみると尤もだな」


犬が猿の言葉を認めた。


「じゃあ、どうすればいいの?」


桃太郎が皆に訊く。


「俺は飛んで行けるけどな~」


雉が言った。


「泳いで行くか、干潮を待って歩いて行くか」


犬が言った。


「向こうから鬼が来るのを待って、その舟に乗せてもらうか」


猿が言った。


「そっか~。干潮はまだまだみたいだしね~」


桃太郎が言った。


「向こうから、舟が来てるみたいだけど」


雉が鬼ヶ島の方を右羽で指し言った。


「丁度、良かった~」


桃太郎は海の方を向き、舟を確認して胸を撫で下ろした。


一行は舟が到着するのを待つ。


舟には五人の鬼が乗っていた。


「皆さん、これから何処へ行くの?」


桃太郎が鬼達に声を掛けた。


「何だ!?お前は。何処の鬼だ?」


「俺達は、これから人間を懲らしめに行くところだよ」


五人の内、二人が桃太郎の声に応え、通り過ぎる。


「ちょっと待って貰えませんか?」


桃太郎が鬼達を引き留めた。


「俺達に何か用があるのか?」


「お前、菊どんにそっくりだな~」


「行方不明になった菊どんの子供じゃないのか!?」


残りの三人が桃太郎に寄って来た。


「きっとそうだよ!」


「菊どんと桜ちゃん、喜ぶぞ~」


さっき桃太郎の声に応えてくれた二人も戻って来て、桃太郎達は鬼達に囲まれた。


「菊どんのところに帰って来たのか?」


一人の鬼が桃太郎に訊いてきた。


「いや、俺は峠向こうの村で人間に育てられたんだけど」


桃太郎が答えた。


「そっか、そっか。そりゃ覚えていないよな。保育器に入ったまま行方不明になったんだから」


別の鬼が言った。


「それで、その動物達は?」


また別の鬼が訊いてきた。


「友達です」


桃太郎が答えた。


「それで俺達に何の用?」


先程、用件を訊いてきた鬼が再び訊いてきた。


「皆さんも含めて鬼ヶ島の鬼達とお話したい事があってやって来たんだけど、舟が無くて思案してたところです」


桃太郎が事情を言った。


「そういう事なら、こちらも丁度、良かった。もう人間の相手なんかしてる場合じゃない。早く菊どんのところへお前を連れて行ってやろう」


一番、体の大きな鬼がそう言った。


「いや~、めでたい、めでたい」


「今日は美味い酒が飲めそうだ」


「早く菊どんと桜ちゃんの喜ぶ顔が見たいもんじゃ」


「さぁ、乗った、乗った」


桃太郎は一人の鬼に促された。


「友達も一緒にいいですか?」


桃太郎が誰ともなく鬼達に訊いた。


「構わん、構わん」


一番、体の大きな鬼が応えた。


すでに鬼達は皆、舟に乗り込んでいる。


そして桃太郎、犬、猿の順に舟に乗り込む。


「俺は飛んで行くよ」


雉はそう言って飛び立った。


「それじゃ、出るぞ~」


一番、体の大きな鬼が声を上げた。


鬼達と桃太郎ご一行を乗せた舟が鬼ヶ島へ向かう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る