話其の捌/物判りの悪さと立場を違えた者達

犬と猿が一触即発の空気の中、桃太郎が猿に話し掛ける。


「ちょっと待ってくれないか。俺は犬に鬼ヶ島への道案内を頼んでいる」


「何で鬼のお前が犬に鬼ヶ島への道案内を頼む必要があるんだよ!?」


猿は不機嫌そうに、そう応えた。


「俺は自分が鬼だという自覚はない。しかし犬や君の話を聞くと、どうやら俺は鬼ではあるらしい」


「何を言っているんだ!?お前は?」


「俺は人間に育てられた。だから俺は鬼ヶ島が何処にあるのか詳しくは知らない」


「なるほど。しかし、何故、鬼ヶ島へ向かう?」


「鬼に人間をいじめないで欲しいと頼みに行くところだ」


「何!?お前は鬼のくせに人間の味方をする気なのか?」


「俺は人間に育てられたから自分では鬼というよりも人間だと思っている。だから味方と言われてもピンとはこないが、そういう事にはなるのかもしれない」


「道理で人間の下僕の犬と鬼が一緒にいる訳だ」


「ちょっと待った。俺はそもそも人間の下僕じゃない。そこが最大の誤解だ」


犬が話に割って入ってきた。


「何が誤解なんだよ!人間の味方をする鬼と一緒にいるくせに」


「だから俺はそこの鬼とは仲間でも何でもない。寧ろ俺は人間とは敵対する事になった犬なんだよ」


「人間と敵対すると言うのなら、何で人間の味方をする鬼を鬼ヶ島へ案内するんだよ!?」


「そこの鬼が鬼ヶ島の鬼達との話し合いを望んでるからだ。話し合いが決裂して争いになった場合に俺は鬼ヶ島の鬼の方について、そこの鬼と闘う覚悟はある」


「だったら、案内なんかしないで闘えよ」


「話し合いを求めている相手に、いきなり闘いを要求するのは卑怯じゃないか」


「人間の味方する奴に卑怯もへったくれもあるかよ」


「話の分からない奴だなぁ」


「分からないのはお前達の方だろ。人間の味方をする鬼に人間と敵対する犬って。訳が分からんわ」


「訳が分からなくても構わんから、通して貰おうか」


「嫌だね。人間の味方をする奴も、人間と敵対すると言う犬もどちらも気に入らねぇ」


そう言いながら、猿は桃太郎と犬に対して身構えた。


「仕方がないな」


犬もそう言って、猿に対して身構えた。


そんな犬の前に桃太郎が進み出る。


「此処は俺に任せて貰えないか!?」


「それは構わないが、本当にいいのか?」


犬は桃太郎に念を押した。


「案内を頼んだのは俺の方だからな」


そう言って、桃太郎は猿に対して身構えた。


数瞬の間、睨み合う桃太郎と猿。


突然に空から一羽の雉が飛んで来て、猿に対して攻撃をし始めた。


雉の空からの攻撃に対して猿は成す統べも無い感じである。


桃太郎と犬は突然の事態に呆然とするしかなかった。

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