春休み

エピソード61/春休み最後の日

木綿子ゆうこがリビングでTVを見ている。


しかしTVに集中をしている訳ではなかった。


明日から学校が始まる。


クラス替えがあるので、誰と同じクラスになれるのか、なれないのか。


そんな事が少し気になっていたのである。


今日はアルバイトを終えて帰宅し、先程、夕食を済ませた。


木綿子の母は台所で洗い物をしている。


父はまだ仕事から帰って来ていない。


絵美えみ由佳ゆかは、今日はアルバイトを休むと言っていた。


でも、絵美は山ノ井やまのい君のところにでも行っているだろう。


だったら、由佳にでも電話をしようかな。


そう思った途端に、木綿子の携帯の着信音が鳴った。


木綿子は立ち上がって、自室へ向かいながら電話に出る。


木綿子「もしもし」


あつし「もしもし、長谷川はせがわ!?」


木綿子は自室に入って戸を閉めた。


木綿子「うん。私だけど」


淳「今、時間、あるかな!?」


木綿子「大丈夫だけど。珍しいね。大竹おおたけ君から電話をしてくれるなんて」


淳「そう言えば、長谷川に電話をしたのは初めてだったな」


木綿子「それで、何?」


淳「今、出てこれる?」


木綿子「大丈夫だよ」


淳「今、長谷川んチのすぐ近くの公園に居るから」


木綿子「そうなんだ。じゃあ、すぐに行くね」


淳「待っているよ」


そして淳が電話を切ってから、木綿子も電話を切った。


木綿子は上着を羽織って自室を出て、リビングでTVの電源を切ってから玄関へ向かう。


木綿子の母「あんた、何処へ行くの?」


台所から木綿子の母が声をかけた。


木綿子「ちょっと友達に呼び出されちゃって」


木綿子の母「そう。余り遅くならないようにしなさいよ」


木綿子「すぐに帰って来れると思うよ」


そう言って、玄関で靴を履いて外へ出た。


そして近くの公園に向かう。


公園に着くと、淳が公園のブランコに座っているのが見えた。


淳も木綿子が来た事に気付く。


そして淳はブランコを降りて、木綿子に声をかける。


淳「悪ぃな。急に呼び出しちゃったりして」


木綿子「んーん。全然、構わないよ」


木綿子はそう答えながら、隣のブランコに座る。


淳も再びブランコに座った。


淳「今日、何をしていたの?」


木綿子「アルバイトに行っていたんだ」


淳「長谷川もバイトに行っていたんだ」


木綿子「由佳と絵美は休むって言っていたけど、どうせ、する事はないし」


淳「俺も、さっきまでバイトをしていて、帰って来たばかりなんだ」


木綿子「そうなんだ」


淳「でも、今日でバイトもおしまい」


木綿子「お疲れ様~」


淳「サンキュ。長谷川はまだバイトを続けるんだろ!?」


木綿子「うん。学校が始まったら、日曜日だけだけどね」


淳「そっか。日曜日はバイトなのかー」


木綿子「どうかしたの?」


淳「いや、日曜日がバイトじゃ、日曜日にデートとかって訳にはいかないのかな~、なんて」


木綿子「え!?」


淳「いつまでもウジウジしていても仕方がないからね。進級したのを機に俺と付き合って欲しいんだ。友達としてじゃなくて恋人として」


木綿子「本当に!?」


淳「待たせちゃって、ゴメンネ」


木綿子「ん~ん。私が勝手に待っていただけだし」


淳「間に合ったのかな」


木綿子「うん。ギリギリね」


淳「ギリギリだったのか~」


木綿子「ふふふ。それじゃ、私、アルバイトを平日に変えようかな」


淳「日曜日を空けてくれるの!?」


木綿子「私だって、デートはしたいもん」


淳「でも、平日にバイトをすんのは大変じゃない!?」


木綿子「そうだけどね~。夏休みが終るまでは続けたいから」


淳「何で?」


木綿子「だって、夏休みが終ったら、アルバイトどころじゃなくなるじゃん」


淳「なるほど。そうだよな~」


木綿子「私は進学するかどうかは分かんないけど、どうするか決まるまでは一応、受験勉強もしておかないと」


淳「長谷川は進学を迷っているんだ!?」


木綿子「ウチ、貧乏だからさ。お姉ちゃんも短大だったから、私も行けて短大かな」


淳「長谷川自身は大学へ行きたいの!?」


木綿子「それもまだ、よく分かんないんだ。大学へ行けば、また最低4年は勉強をしなきゃならない訳でしょ」


淳「そうだな」


木綿子「でも、大学へ行っている間は就職をしなくてもいいと思うと、行ってみたい気もするし」


淳「そっか。俺はまだ、どんな仕事がしたいとか分からないから、取り敢えず、大学に行ってからって感じかな」


木綿子「そういう人は多いんじゃないかな」


淳「って、そんな話はまだ早いよな」


木綿子「そうだね」


淳「そろそろ帰るわ。俺、腹が減っちゃって」


木綿子「まだ夕飯を食べていないの!?」


淳「だから、さっきまでバイトをしていたって言ったじゃん」


木綿子「そのまま来たんだ」


淳「明日から学校が始まるな」


木綿子「そうだね。一緒のクラスになれるかな?」


淳「いや、一緒じゃない方がいいべ!?」


木綿子「そうかな!?」


淳「クラスメイトにバレたら、色々と大変そうじゃない!?」


木綿子「それも、そうかもしれないわ」


淳「それじゃ、また明日、学校でね」


木綿子「うん。またね」


淳が自宅へと帰って行く。


木綿子は淳を見送ってから、自宅へと足を向ける。


季節が春になり、ようやく木綿子と淳にも春が訪れた様だった。

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