リバースライフワン(テスト)

クルサス

第1話最低の女

―――どうしてこういうことをしてしまっているのだろう。

そう思っていても少女は未だに行為を辞めることができない。

男子生徒に跨り、両手で様々な部位にナイフを刺し続けることを。

夕暮れ近い教室には誰もおらずただその刺す音だけが聞こえるのみ。

返り血を浴びた少女は一心不乱の殺傷行為をぴたりと辞める。

死んでしまった……。正気に戻った少女はその死体を見て、

嘔吐を催したが堪えた。

「私……」

―――ここまではするつもりはなかった。あくまで「あの子」のために注意をするだけの筈だった。

「人を殺した……?」

少女は混乱する。

直後、教室の扉が開かれる音が聞こえる。

焦りながら振り向く。そこには呆然と立ち尽くす教師の姿があった。

「な!? これは……? 細川志保……お前が……?」

志保はさらに混乱する。まともな思考ができなくてもこれからどうなるかぐらいは分かる。

「い……や……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

少女はナイフをポケットに持ちながら教師のほうでない反対側の扉に逃げ出す。

障害物の机を払いのけ、そのまま扉に横から強く開け、廊下を全速力で走った。

「あ……待て!」

教師は言うものの、あまりの速さに追いつくことができなかった。

ただひたすら走った。階段があるなら一気に飛び越え、足を挫いても走るのをやめない。

なんとか校舎の外にまで出た。だが疲労がピークにまで達している。

凶器のナイフはいつのまにか無くなっていた。落としたのだろうか。

だが志保にはそんな気を遣う余裕も無い。

制服には赤い返り血、息が上がり全てに疲れたような顔、足を引きずりながら歩いている。

警察と救急車のサイレンが聞こえてくる。

さらに志保は焦りを感じ人気のないところで全力で走りだす。

路地裏のほうまで逃げ、隠れるように移動する。

ここまでくればと安堵したが、罪悪感も感じていた。

だが同時にああいうクズを殺して楽しかったという気持ちがあった。

「あんな奴は死んで当然だった……。あの子を陥れようとしたんだから……」

乾いた笑いをしながら呟く。その時、人影が現れる。

右手には、刀のような棒。左手には銃のような短い物。

男の姿と同時に具体的に何を持ってるのか分からない。

志保は疲れと周りの暗さで視界が聞かなくなっていた。

両手に何かを持っていた男は、志保に走りながら近づいてくる。

「え……?」

疲労と足の怪我によりまともに動けない志保は、立ち尽くすしかなかった。

至近距離まで近づかれた志保は、左手の短い物で殴られる。

「……っ!」

相当の衝撃だったのか、立ち眩み男の顔を最後に見ながら気絶した。


真っ暗な視界が続くのが止み、瞼が徐々に開いていき天井が見える。

警察病院とかだろうか。少女は上体を起こす。

いつまで寝ていたは分からないが、頭と足が主に激痛が走る。

周りを見渡してみるものの少なくとも病院ではない。

物々しい部屋ではあるが警察関係の寝室部屋でもなさそうだ。

「どこ……?ここ……」

さっきから音がしている。テレビが付けっ放しだ。

ニュースが放送されおり、調度少女が犯した事件の報道がされていた。

「……これって……っ!?」

志保は焦った。未成年なので名前を公開されることはないだろうが、

今後、まともに生きていくことはできないだろうと予想される。

(やばいやばいやばいやばい)

慟哭が激しくなる。自分のしたこととはいえ、怖くなってくる。

『昨日(さくじつ)、男子生徒が教室で殺害される事件が発生しました。未だ凶器は発見されておりませんが警察は刃物による刺し傷と見て、鑑定しており……』

「え……?」

志保は戸惑った。

(つまりまだ警察に捕まっていない? 教師に見られて名前まで呼ばれたのに? じゃあここはどこ?)

『容疑者は未明。警察は現在、捜索中と報告されています』

頭が錯綜し、訳が分からなくなってくる。

その時、この部屋がゆっくりと開いた。

「……!?」

志保は身構える。

開いた先に現れた人間は、女の子だった。

後ろお団子頭で結んだ黒髪。耳鼻と目が整った容姿。

そしてスラリとしたスタイル。

クラスなら人気者になれるだろう。

志保と同い年ぐらいだろうか。

お盆を両手で持ちながら近づいてくる。

「あ! 起きたんだ。おはよう! 細川さん!」

志保は色々と聞きたいことがありすぎてきりがなかった。

ここはどこ? 何で私の名を知っている?

だが一番最初に口を出したのがこれ。

「アンタ……誰……?」

「私? 私は大宮綾乃。よろしくね」

いや本当に聞きたいのはそれじゃない。まずはこの状況を確かめようと志保は質問した。

「ねぇ……ここどこ……」

「ここは森羅の病室だよ」

「森羅……?」

「ああそういえば言ってなかったね」

綾乃と名乗った少女はおほんと言った後に説明する。

「森羅は東京の隠された地下街にある秘密組織。人命救助を始めとし、暗殺、強襲、要人護衛も行っている。裏組織のため表だって活動しておらず、知られている人物は数少ない……でいいかな?」

「そんな危ない組織が私に何の用……?」

志保は疑心を抱きつつ、綾乃を睨む。

無理もない。警察に捕まったと思いきや、変な組織に拉致されているからだ。

「あなたの力が必要だから」

「答えになってない!!」

志保は腕を綾乃の首に向かって突き出す。綾乃は少しだけ素早く後ろに引いた。

咄嗟の行動だった。別にどうこうするつもりは志保自身にはなかったつもりだっただろう。

だが、手にはないはずのものがあった。ナイフである。

傍から見れば、志保が綾乃の首筋に向かってナイフで脅している図だった。

「……? 何でナイフが……? そういえばあのときも……」

あの時、男子生徒を殺した時だ。志保は別にナイフを持ち込んだわけではない。

男子生徒も別にナイフで脅してきて、志保が取って反撃したわけでもない。

いきなりでてきたのだ。何の前触れもなく志保の手に。

この状況もあの時と同じだ。

志保はゆっくりと腕を下げる。

その時、綾乃は手鏡を志保にかざした。自分の顔が見れるように。

志保は自分自身を見る。

瞳の色が違っていた。黒ではなく緑色になっていた。

「え……?何これ……」

「どうしてあの事件で凶器が見つかってないのか、それとこのナイフと瞳の色は一体なんなのか説明しようか」

彼女のさっきの様子が違う。

「…………」

黙ってはいるが頷く。話を聞くという肯定であろう。

「じゃあまず前者、警察が凶器が不明と供述している。細川さんは殺して逃げた後持ち込んだはずだった。だがいつの間にか紛失している。

それは能力によるもの。ナイフを出現させたり、消したりできる。だから見つかるわけがないということ」

と綾乃は説明した。

「能力者ってこと……私……」

「じゃあその説明。そういう人たちを逆生者って呼ぶの」

「逆生……者?」

「そう逆生者……逆の人生を歩む者と書く。苗字を捨て名前のみとなってしまう。武器召喚や属性付加など、超人的な力を得ることができる。

戦闘や緊張状態の時に瞳が変色するのが特徴。数自体は少ないものの、増え続けている」

「つまり私は逆生者というものになってしまったと……?」

「うん。つまり細川さん……いやシホちゃんは逆生者になったから、警察に捕まる前に私達森羅が確保したわけ」

理解はしたが納得ができていない。人を殺し、いつの間にか人外になったとはいえ、何故こんなところに入れやれなくてはならないのか。

考え込んでる間にまた部屋の扉が開く。

「おう、起きたのか」

ぼさぼさの灰色の髪型に背丈は高いが猫背で姿勢良いとはいえない、中年くらいの男。

所謂おっさんであるが、小汚く感じるもののどこか男らしさがあった。

「細川……いや、シホ。綾乃にどこまで説明を受けた」

いきなりでてきて下で呼ばれればいい気分はしない。

「さっきからアンタ達、何!? 馴れ馴れしく志保、志保って呼ばないでよ!!」

いままで耐えてきたが、堪忍袋の緒が切れとうとう激昂する。

「だって逆生者になったんだろう? じゃあ苗字は捨ててるはずだ」

変な回答をされて戸惑うシホ。逆生者だから苗字を名乗ることを許されない。シホはそのことに理解できなかった。

それだけではない。まずこの者は誰なのだろう。そのことを知る必要があった。責任者かもしれない。

「今度は誰? 偉い人?」

「俺はユウジという。森羅のトップだ。こっからはこっちが色々話す。後々のためでもある聞いておけ」

そう言われシホは聞くしかなかった。


森羅と呼ばれる組織、その病室を出て、シホは解放された。

足はまだ痛むものの、歩けないほどじゃない。

外、正確には地下街のような風景を目の当たりにする。

そこらの地下街とそう変わらず、殺風景という程でもないが

人が少ない。だが、カフェ等店はそこらじゅうにある。

「本当に地下街だったんだ……」

一緒にいる綾乃は笑顔で説明する。

「うん。森羅自体は、ただの裏組織。ここ東京にある地下街は、公にはされていないの

社会に否定された者、否定した者とか様々な事情でここに住んでいる人が多いってわけ

地下街、そこにある森羅。能力者のような逆生者、そういうのがあるのが理解できても実感が全く湧かなかった。

ファンタジーみたいな話だからだ。そこらの漫画の設定のような話。

それが現実で合っている。証拠がなければ信じられる話ではない。

だがその証拠はある。シホ、自分自身だ。ナイフを何処からともなく取り出し、何処からともなく消すことができる。

瞳の変色もそうだが、運動能力も上がっていることも分かる。

「あの時、あんなに逃げた時も……」

本来、シホは足が速いほうではなかった。遅いというよりは平均的ぐらいだっただろうか。

あの事件の折、逃げた際に異常な速さで逃げた。誰にも追いつけないほどに。

歩きながら考えた際、綾乃が突然声を掛ける。

「ついたよあなたの部屋」

考え事していた時に、とっくに扉が数ヶ所ある建物に入っていた。

どうやらシホが今日泊まる、いや今後住むことになる部屋だろう。

「最低限の設備はあるから。ゆっくり寝ていてね。お休み」

案内し終えた綾乃はそのまま離れていく。鍵を渡されていたので開けて中に入る。

そこには、そこらのホテルと変わらないちゃんとした部屋だった。

テレビ、ベット、台所、洗面所、勉強とかに使えそうな机、何故か今普及されている据え置き、携帯ゲーム機まである。

「ゲームはしないんだけど……」

確かに最低限の設備はしている。あとは私物があれば入れていくことぐらいだろうか。

シホは疲れたのかベットに飛んでうつ伏せになって寝込む。

あの事をことを思い出す。

(後々のために聞いておけ)

ユウジという者のそう言われた後の説明。

シホは一つ一つ思いだしていく。

あの事件の後、見られた教師はどうなったのか。当然通報してるはずだった。

だが、誰がやったのかまでは言わなかった。いや言えなかった。

その部分が覚えていないと言ったからだ。

そう「記憶の一部を消した」。

ユウジがその場で居合わせ、記憶を消す能力を使ったという。

あり得ない筈なんだが、実際はそうなってるから今後これを考えても仕方ないということ。

「自首は……まずいよね……」

もし能力をばらしたら森羅に消される可能性が高い。

次の事柄。森羅の戦闘員として戦ってくれという件。

シホにとっては承服しかねる事だった。

つまり死と隣り合わせ。金ははいるという話ではあるが

どう考えったて割に合う話ではない。

そういうのが好きな人もいるかもしれないが、シホはその一人ではない。

戦う理由があるとすれば、彼女が殺した人間。

人のことを言えないかもしれないが、あいつは人間の屑だった。

そういう連中はごまんといる。それに、殺したことでそういう楽しみを少し見出してるかもしれないからだ。

人も殺してしまっている以上、もうまともに生きることもできないのは分かりきっていることだ。

最後に家族の件。

シホには、両親と妹がいるが、友人の家に数日泊まっていることになっている。

不幸中の幸いというべきなのか、学校は事件のおかげで休学になっている。

ユウジから聞いた話によると、寮生の女子高校に編入という話がでていたが詳細が定かではない。

今後家族暮らしだと色々と危ないということの配慮なのだろう。

明日どうなるか、シホはそれに備えるため、風呂に入り、ベッドで寝た。


窓がないため昼か夜かの区別がつきにくい。

換気扇や空気清浄機があるため、衛生的には問題ないのだが

日光を浴びるのとないのとではだいぶ違う。

音が次第に聞こえてくる。ドアを叩く音だ。

「シホちゃーん。起きてー」

音と女性の声が響き、起きざる負えない。

声からして昨日の大宮綾乃という少女だろう

シホは時間を確認する。六時を指していた。

結局、ここに泊まってしまった。そう思い、起き上がろうとする。

最低限の身支度を済ませた後、扉を開け大宮綾乃と会う。

「こんな朝早くからごめんね」

顔は笑っているものの申し訳なさそうにしてる。

「別にいいよ。用事があるんでしょ?」

シホは諦めたのか。特別嫌な顔をせず普通に接した。

これから様々な手続きがある。あからさまな態度をするわけにはいかないと判断している。

「そう。今日は森羅の戦闘員と顔合わせ。つまりシホちゃんの今後仲間なになる人達かな」

「仲間…」

一人でやるわけではないと分かってはいたが、自分の同類、つまるところ犯罪者みたいな連中と

仕事をするということ。まともな連中じゃないというのは最早当り前だろう。

「自分でいうのもなんだけど、アレな奴らばっかじゃないよね……」

「大丈夫だよ。みんな優しい人たちだから」

どうだが。と言うシホに対して綾乃はじっと彼女の顔をを見つめる。

「……? 何?」

「いや髪長いかなーと思って」

シホの髪の色は茶髪。ロングというほどではないが肩までに届く程度には伸びていた。

ちゃんと手入れしてあり綺麗である。

「そう?」

「うーん。後ろに結めばいいかな」

そう言って赤いリボンみたいなのを取り出し、シホの後ろに回って髪を触った。

「え…。ちょっと!?」

いきなり髪を触って戸惑ったのか、シホは赤面しながらうろたえる。

「動かない」

ちょっと厳しめに言って、髪まとめをリボンに結んだ。

(なんで今ドキッとしてしまったんだろう……。同じ女性なのに)

シホは感じたことのない感覚に苛まれる。

「できた!」

と言ってシホに手鏡をかざす。

シホの髪型の雰囲気が一気に変わった。髪を後ろに纏めポニーテールにしたのである。

さっきとうって変って凛々しいシホはそう思い感動してしまった。

「……すごい…! ……ありがとう」

いままで綾乃に対して疑心暗鬼だったシホだったが、違うんじゃないかと思い始めた。

じゃあなんでここにるの?と同時に考え始めたがきりがない。

「じゃそろそろ行こっか」

そういって目的地へ案内した。


シホと綾乃は、大きい扉の前で立っている。

所謂、戦闘員の詰所とよばれる場所だ。

ここに仲間と呼ばれる戦闘員の逆生者がいるとういう。

「ここだね。心の準備はできてる?」

綾乃が心配そうに声を掛けてくる。

「うん。そうだけど何?」

「いやネタばらしになっちゃうけど戦闘員は男三人だから……」

「大丈夫。一度も異性に興味持ったことないから」

シホは得意げに言う。

「それはそれでどうなんだろう……」

ともかく扉を開ける。

その先にはひし形で作られたソファ四つが置いてあった。

その中の北の席に人がいた。

その座っていた男性が存在感が溢れていた。

何故かというと、太くはないが、180ほどの身長。

頭は天然パーマ、いや髪の量が多いので所謂アフロと呼ばれるものだろうか

顔つきは優しそうであり、髭も整えてあるのでどこかダンディなところがある。

その男がこちらに気付いたのかシホ達のほうへ顔を向ける。

「ん……?」

シホはその外見に戸惑い、苦笑いをした。

「ああ、あなたが昨日言ってたシホさんですか」

外見だけでなく、声も渋い男はシホに話しかける。

「っえ、ああ……そうですね……」

何を話せばいいか分からないシホは、綾乃がフォローを入れる。

「この人はワタルさん。結構優しいから以外と話しやすいよ」

ああ、そうなんだと言うシホは戸惑いを未だ隠せなかった。

「立ち話もなんですしどうぞ席へ」

ワタルと呼ばれた男は、シホに席を催促する。

「あ。はいお言葉に甘えて」

それを言われて席に近づくシホは南の席に座ろうとした。

しかし、そこには。

腕を組みながら下を向いて寝ている男性がいた。

身長が低く、体が細い短髪の男が

「え? うわぁ!!」

驚いたシホはとっさ引いた。

「!? なんだ!!」

気配を察した短髪の男性は起き、何もない手のひらから拳銃が粒子を放っていきなり出てくる。

正確にはデザートイーグルと呼ばれるものだろうか。

鋭い眼光とともにその拳銃がシホに銃口を向ける。

「誰だ? お前は?」

ドスの聞いた声でシホを威圧する。

危険を察知したシホは、両手を上げる。

「違います……怪しいものじゃありません……」

しかし、その片手にはいつの間にか出てたナイフをもっていた。説得力が皆無である。

「……お前、逆生者か」

何かを察したように小さく呟く。

「はい。そこまで。この人はコウヤさん。見ての通りちょっと神経質なところがあるの」

銃を消しながら、言う。

「五月蠅い。そうか昨日報告であったこの女が……」

「お騒がせしてすみません。西の席の方に座ってください」

ワタルは再び催促する。

シホはその通りに西の席に座った。

突如、ドアが強く開かれた。

「よお!! どんな面だ! 新人っていうのは!」

大きな声でいきなり体格のいい大男が出てきた。

背丈が大きく肩幅も広い。髪型は黄色であり、髪を上げている

その姿はまさにヤンキーといってもよかった。

「えっ!?」

シホは動揺した。彼女にとってこの手の不良は苦手だからだ。

席の方に近づいてくる。

「で、どんなやつなんだ!?」

「今、西の席にいる人ですよ。残念でしたね女性です」

ワタルが言う。

「え?」

シホの方に目を向ける。強気だった性格が一変する

「ああ、そうなのか……」

今までと態度が違う。女とわかった途端に微妙な感じとなる。

「えっと……シホ…さんて言うんだっけ。居続けるかどうかは分からないがまぁよろしく頼むわ」

この微妙な雰囲気を綾乃が切り出す。

「この人はケンタさん。多分男性だったら喧嘩するつもりだったんでしょうね。見ての通り女の子には悪いようにはしないから安心して大丈夫だよ」

「はぁ……」

シホは呆れ気味にため息のような声を発した。

「顔合わせは済んだし今日はここまでかな」


※この後訓練描写の話がありましたが破損したため最終試験の話から入ります


訓練を終えた二日後、最終試験の日。

最終試験の内容は、任務のよる実戦。

つまり、任務を成功し、生き残れたら合格となる。

任務の詳細。

工場跡に麻薬組織の隠れ家であるという情報を掴んでいる。

その取り締まり、及び始末。

一人ではなくワタルと同伴、正確には監視であった。

その二人は、走らせている黒い車に後部座席に座っている。

二人の服装はスーツに近い。

運転者はサングラスをかけた森羅の構成員。戦闘員ではないが、銃を所持し、最低限の防衛は成されている。

「一通り目を通したと思いますがおさらいしますか?」

ワタルが先に話しかける。

「ええ、大丈夫です」

任務内容が書かれた、書類を持ちながら、ワタルの方を振り向いて言う。

「別に敬語じゃなくてもいいですよ」

「え? しかし、あなたは……」

シホはちょっと驚く。

「私は好きに使ってるだけです。基本的に上下関係なんてありません」

森羅いや地下街全体に言えるが、上下関係というのを構築していない。

面目上、ユウジがリーダーではあるが本人はそのことを気にせずに接している。

「はぁ……。わかり……いや、わかった。ところでこの書類以外に注意点とかはあるの?」

「強いて言うならば、おそらくターゲット以外に雑魚が多く配置していると思われます。研修を受けた以上は負けることはないと

 思いますが、少なくとも逃がさないようにはしてください。後々面倒になります」

「殺した方がいいってこと?」

「経験している以上は問題ないかと」

シホはちょっとムッとして言いかけだが堪えた。

「目標に到着、健闘を祈る」

運転手が目的地についたので車を止め、喋った。

その地は海岸沿いの古工場。情報によるともう経営はしていない。

隠れ家にはもってこいの場所であろう。

同時に二人は車に降り、工場へ向かう。

扉の前に黒い服を着た見張りが一人いた。

とても背丈が高く顔も体もいかつい。

「見張りいるけどどうやって入るの?」

「まぁ見ててください」

ワタルは見張りに向かうように歩いていく。

「……え?」

見張りとワタルの距離は近づいてくる。シホは渋々近づかざる負えない。

とうとうワタルは見張りに話しかける。

「あーどうもお日柄もよく、ああ、はいなんというかそのですねー」

とてもフランクに喋る。

「何ね? お前……」

警戒心を強めながら吐き出す。ドスが強く威圧しながら。

普通の人ならばここで逃げ出すだろう。

「あーそうでしたね申し訳ございません。わたくし、こういう者とといいます」

深きお辞儀をし、名刺を出す。それを手に取り、読む見張り。

「んあー……何? わ……た……。ングァ!?」

見張の様子が一変。名刺を読んでいたら急に苦しみだした。

血も口中から吐き、まるで今にも死にそうな悶え方。

その原因は腹部にあった。長い物に貫かれている。腹と背中を貫通し壁にも届いている。

いまだワタルは下を向く。

だがさっきと違ったのは両手で長物を持っていた。

槍だ。槍で見張りの腹を突いたのだ。

「……ちょっ!?」

シホは咄嗟の攻撃に狼狽する。

「がはっ……ぐほ……」

未だワタルは下を向いている。

「はい。私の名前はワタルと申します。森羅の戦闘員をやっております」

さっきの声とはうって違う。暗く低くとても殺意のこもった声。

同時に顔も上げた。その瞳は青に染まり光っている。

サファイアのような神々しく綺麗な。

「……あぐぁ……もしかしてきさんは……」

そう切れ切れで呟いた後に、見張りは息を絶える。

「ちょっといくらなんでもそれは……」

「さぁいきますよ!」

ワタルは死体を持ち、巨大な出入口に入ろうとする。


工場の中。

そこには十数名の麻薬組織の構成員が屯しており、雑談などをしていた。

工場の門が轟々と開く。構成員が警戒し銃を取り出す。

入り口から大きな物体が投げ込まれる。遺体だ。

腹と背中が貫通した跡があり、血を未だに出し続けている。

「な!? 何だ!」

「姿を現せ!」

狼狽える構成員達。二つの影が現る。

シホとワタルであった。

「長身の男に……女!?」

構成員たちは驚いた。とてもじゃないが人殺しをするような連中には見えないからだ。

「まさかの正面突破……」

彼女は呆れはてながら溜息をつく。

「怖気づきましたか? 帰ってもいいですよ」

「あんたって意外に脳筋……まぁいっか!」

シホは眼をつぶる。数コンマ後に開眼。瞳が緑色となる。

その後に、粒子を纏わせナイフを取り出す。

ワタルも続き、瞳を変色させて槍を出す。

構成員たちはさらに驚く。

シホに向かって銃口を向ける。

(来る!)

引き金を引く寸前に彼女の姿は消える。

本当はいなかったかのように。

「消えた……?」

刹那、構成員の目の前近くに彼女の姿を現す。

構えていた銃の引き金を咄嗟に引こうとする。

シホは何もしない訳がなく、一回転をし、拳銃を持っている手に、回し蹴りをかます。

拳銃は後ろに飛ばされ、手に痣ができる。

その隙を見逃さず、次の一手を出す。

ナイフを首に向けて、繰り出す。

切っ先が頸動脈に直撃する。男の首筋から噴水のように血が噴き出る。

「……ァ……!!」

途絶えることなく出しながら男は倒れる。

(あんまり見栄えはよくないな)

シホはそう考えながら、残っている数名の構成員に睨みつけるように目を向ける。

「ひっ。このアマ……平気で……」

「あまりこいつに近づくな! 距離をおいて撃ちまくれっ!」

三人の構成員は固まってシホに離れる。

「そう来る……なら!」

ナイフの切っ先が緑に変色する。ナイフを振り上げ、そして振り下ろす。

構成員三人に風が吹き荒れる。風にしては肌に響きすぎる。

そして切れて血が噴き出る。

違う、風ではない。衝撃波だ。かまいたちのような斬撃に晒され全身に傷が出来る。

「やりますね。……なら私も!」

血まみれになりながら三人は倒れる。

――化物だ

彼女に勝てないとふんだ連中は、今度はワタルを狙う。

五人がかりでワタルに銃口を向ける。

それぞれが違う間隔で発砲。

万事休すと思われたが、男達にとってありえない光景を目の当たりにとなる。

ワタルに弾丸が届いていない。何故か。

片手で槍を縦から三六〇度回し続け、弾いているからだ。

同じように撃ちまくっても結果は変わらない。

「もう終わりですか? ならば次はこちらから」

ワタルは持ち手を変え、槍を片側に寄せて一度上に上げる。

掴んだ瞬間に槍の周囲に水が纏う。

その槍で構成員五人に向かって投げる。

まず一人に貫く。そっから真っ直ぐ行くかと思われた。

違う。槍の進路が変わった。そばにいた後ろの左に、二人目の構成員が槍に貫かれた。

同じ要領で三人、四人、最後の五人を貫く。生き物のように追尾して。

「……すごっ……」

始末を済ませたシホは、ワタルの戦いぶりに見とれていた。

「そちらも終わりましたか。以外に少なかったですね。試験だと考えれば妥当ですが」

「でも油断はできない」

「よく分かってますね。ではいきましょう」


工場の地下には場違いの木造りの壁と床には赤い絨毯があった。

薄暗くいものの、それでも豪華さを感じさせる。

この部分のみ、クスリの収入による影響が出ているのだろう。

まともな感性なら、悪趣味を感じさせる。

二人はここに残っている構成員を一人残らず始末した。

幸いというべきか、人質等の類もいない。

シホとワタルは、無駄に豪華の扉の前で立つ。

「では……とおわぁ!!」

ワタルは扉を力強く蹴りを入れる。

その扉は、豪勢に吹っ飛び、中にいた一人の者を驚かせた。

「ななななな、なんだぁ!!」

その男は、肥満で禿、低身長の中年。まさに小物そのものような風体だった。

問答無用。

ワタルはすぐさま槍はすぐさま投げる。

中年の顔の横の壁に当たる。

「あわわわわわわ……」

腰を抜かし、股間からシミが出て、液体を出している。失禁だ。

もはや戦うことも逃げることさえもできないような状態。

ワタルはため息をついた後、シホとすれ違う。

低くこう呟く。

「殺ってください」

「……え!?」

シホは動揺する。

「この男が麻薬組織のボスです。これが最終試験においての最後の課題となります」

察しがついたシホはナイフを持ちながらその麻薬組織のボスに近づく。

「ちょっと待ってくれ! 命だけは助けてくれ! そ、そうだ金をやる。だから」

「……ハァ?」

豚を見るような冷たい視線と、威圧した声で中年を見る。

「すみません! すみませんでした! だから……その……死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

突如中年は隠し持っていた拳銃をシホに向ける。

「なめやがって! 糞が!」

発砲しようとしたその瞬間。

銃をもつ五本の指がなくなっていた。

「……あら? あああああああああああああああ!!」

損失した指から血が噴き出、床に手が落ちる。

すぐさまシホがを切っていたのだ。

中年はパニックに陥ったのか、逃げようとする。

それも見逃さず、両足の脛をナイフで切った。

もはや動けなくなった中年を見て、シホはナイフを消した。

「? どうしました? まだ終わっていませんよ」

ワタルが言う。

「いや終わった、もう十分」

「まさか今更殺したくない……とかじゃありませんよね?」

「違う違う、殺す必要がもうないってこと」

「ほう」

「だってそうじゃない。麻薬組織のボスなんでしょ? ならなにか情報を得られるかもしれない。拷問か自白剤か……趣味じゃないけど

 そういうのをすれば何か吐くでしょうし。殺すのはその後からでいいと思うけど」

「…………」

沈黙する。これでよかったのかとシホは思うものの、ワタルに凝視する。間違っていないと。

「フウ……合格です」

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