2.4
二年三組、文芸部部長、
横髪を左右三つ編みにし、それで後ろの髪をまとめるようにして結んでいる。
几帳面な性格なのか、絶対に髪型がずれないようにアメリカピンが幾つも幾つも刺さっていた。気の強そうな吊り目にターコイズブルーの眼鏡。
見つめられるとぞくっときそうだ。
「しかし、目の綺麗な人だなあ……」
外国の血が流れているのか、光彩が太陽の光の加減で淡いブルーにも、グリーンにも見える。白目の部分はしっとりとぬれていて、充血はまったくしていない。瞳は吸い込まれそうな黒。
……とそこで、千草が僕のほうを思いっきり睨んでいることに気がついた。
蔵指さんは、南極で白熊に遭遇した人のような、ぽかんとした表情。
あ、声に出てました?
あわててフォローを入れる。
「だ、大丈夫ですよ、別に欲しいなー、もっと近くで見てみたいなーとか、水晶みたいだやべえとかぜんぜん思って……」
あれ、フォローになってない?
蔵指さんは頬を赤くして、ぱっと下を向いた。
千草が叫ぶ。
「せっかくの情報提供者に何変態発言しとんじゃーっ! 変態ーっ」
変態認定された僕への認定はんこは、千草のぐーパンチだった。
「すみませんこいつ実は瞳フェチなんです」
「ホントすみません」
二人で頭を深々と下げる。手で思いっきり頭を押され、頬はひりひりと痛んだ。
「ううん、いいの。色変だね、とか目つき悪いとか言われることはあるけれど、他人に綺麗って言われたのは初めて」
頬を軽く染めてペンだこのできた手をひらひらと振る蔵指さん。
優しい人でよかった。
ちなみに蔵指さん、おばあさんがポーランド人のクォーターらしい。目といい、名前といい、いろいろと納得。
「……で、あたし達のところに来たって事は、何か不思議なことでも? でも?」
ようやく千草が本題へと引き戻す。
蔵指さんは眼鏡のブリッジをくいっと押し上げ、少しためらった素振りを見せてから話し出した。
「実は、これは、文芸部で代々伝えられ続けた話なのだけれど……」
普段文芸部は、二棟三階に位置する図書室で活動している。部室はサッカー部の隣に一応はあるそうなのだが、ぼろぼろなのとサッカー部からの汗のにおいで不要な物置き場と化しているらしい。
「なんでサッカー部の隣なんかに部室を置いたんですか? ですですか?」
「文芸部は学校ができた当初からではなく、途中で白藍って人が作った部活なの。で、部室が欲しいって校長室に直談判しに行ったら、ここが与えられたんだって。無理やり入り込んだ感じだったから、場所がそこしかなかったらしいわ」
で、問題なのはその部室なのだという。
毎日午後六時三十七分から三十八分までの一分間、扉についている窓に、それが映るのだそうだ。実際に、蔵指さんも見たことがあるらしい。
毎週掃除にきていて、たまたま遅れてしまったときに気がついたのだという。
「でる」のは、この学校の女子の霊。
黒髪に銀のメッシュが入ったショートボブ。
右目が緑、左が金色のオッドアイらしい。
「……ちょっと待って。待ってったら待って」
さすがに千草がストップをかける。
「え、何、その幽霊さんは中二病患者なの? なの? しかも結構重症な。おもたーい」
「中二……ああ、そうね、不思議な人だったらしいわ」
人差し指を唇に当て、考える蔵指さん。なかなか艶かしい。
……ん? 何かが引っかかった。魚の小さな骨がのどに引っかかって取れないような、そんな感覚。
蔵指さんに質問する。
「だったらしい? という事は、蔵指さんはその幽霊の検討がついていると?」
あら、と蔵指さんは微笑んで、
「うん、実は。これでも私も文芸部だから、いろいろと調べたのよ。……もう少しじらそうかと思ったけれど、まあいいか。で、結論」
ぴっと、唇に当てていた人差し指を立てる。
「私が見た幽霊は、文芸部設立者にして初代部長――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます