2.3
次の日。
「最近起こった変なこと? うーん、特にないなあ」
「幽霊、か。何、二人して探偵業でも始めた? 仲いいもんね」
「変なこと……あ、先週のアニメの作画が崩壊してた。ありゃもう駄目だな」
「幽霊話? 聞かないなあ。春だぞ? 女子も男子も浮かれて、一番しとめやすいときなんだ!俺の目にはすでに女子しか映っておらん、ということでどっかいけ、蒼。お前が女装でもしない限り……いや、意外とありだな、お前」
「変、変……えっとね、私、最近変なの。……授業中に、その、蒼君の巫女さん姿を想像しちゃったりとか……ふふ」
聞き込み調査がもたらしたのは、背筋の寒気だけだった。
「僕、道を踏み間違えそうだ……」
しかも無理やり、他人によって。文化祭の女装コンテスト、去年は何とか他の奴に押し付けたけど……今年は、怪しいかもなあ……。
机に突っ伏した僕に、千草はあー、と頬をかいた。首をかしげると、後ろで結んだポニーテールがかすかに揺れる。あと胸も揺れる。
「確かに蒼、中性的な顔してるもんねーものねー。髪の毛とかふわふわ、つやつや。伸ばしたらいいのに。伸ばそうよぅ」
「誰が伸ばすか」
少しほてった顔を、机に押し付ける。ひんやりとして、気持ちいい。
それにしても、魔法少女だとか少年だとか中二病患者が年中無休で集まってきそうな単語に、本当に信憑性はあるのだろうか。
ひょこっと僕のバッグから、毛並み長めの黄色い物体が顔を覗かせた。目は黄色に埋まって(前は見えているのだろうか?)小さなオレンジ色のくちばしだけがちょこっと出ている。
「何か進展はあったっすか?」
……信憑性がどうのこうの言っても、このひよこ的もこもこ生物――ヴェリテがしゃべっている時点で簡単に打ち消されてしまう。
……ヘタレ口調は似合わないが。
「ないよー。うん、ない。地図広げてえいって指差せばありそうな感じの平凡な学校に、そんな摩訶不思議とか怒るわけないじゃない。じゃない」
全否定の千草に、
「いーや、君達には見えずとも、幽霊はそこらじゅうにあふれかえっているよ。特に、学校だなんていう閉鎖的な空間にはね」
八十まで生きたとしても、その約四分の一位はどこかの学校に縛られているわけだ。それに、こういう場所ほど密度の濃いものはないわ。
どこか茶化すような声で、ヴェリテは言う。
「密度……なんの? どういう?」
「せーしゅんってやつ」
くちばしの端をちょこっとだけ上げた(ように見えた)もこもこは、どこか寂しそうにも見えた。
と、その時だった。
「不思議なことがないか聞いて回ってるって言う変な二人組って、貴方達のこと?」
教室後方のドアから、一人の女子生徒が入ってきた。
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