郵便配達夫であり、地中のドワーフである僕の語る竜の娘の話

@double-bind

第1話

プロローグ


 日が昇るそれより少し前に、僕は外套を羽織り郵便配達夫が被るあのおなじみの黒くくすんだ帽子をかぶる。誰も僕のことを知らない。日々の生活の中の風景の一部だ。 夕暮れが迫ると、僕はのろのろと家路につく。いつもの帰り道、いつものあいさつ。いつもの家路。

 でも、普通に見える僕の生活には実は秘密がある。僕の一族は代々続く【記録者】の家系なのだ。玄関の扉を開けると、すすけた茶色のカーテンにぎっしりと本の詰まった本棚。

 「今日はひどく冷えたな。」

僕はため息をつくと、泥だらけの靴の中から錆びついた鍵を抜き出した。そして「植物と動物に関する百科事典。」の本を棚から取り出し、その裏にある鍵穴に鍵をいつもの手順で差し込んだ。そしていつものように隠し階段を下る。

 平凡すぎる僕の、平凡ではない代々続く仕事はかくして始まる。

「僕ってやっぱりワーカーホリックだ。」

誰もいないさびしい部屋に降り立ち一人呟く。答える人はだれ一人いない。


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