八

 そして明くる日の朝、わたしは念願の靴を手に入れた。

 そのスニーカーをもたらしたのは二十代半ばのきれいに喉笛を切られた東南アジア系の青年で、数えてこれで七つ目の死体。

 一晩につきひとつの死体が増えていたから、わたしがはじめて目を覚ましてからちょうど一週間が経ったことになる。


 下着姿のおじさんとお水のおねーさんとレゲエのおじさは、きつかったけど三人仲良くクローゼットの中。

 小さな女の子とお婆さんはバスタブの中。

 轣死体さん、の残骸はベッドの下。

 東南アジア青年はベッドの上。

 バスルームを使うときやなんかは一時的に移動させたりしたけれど、最終的にはそのような配置となった。

 幸い、危惧していたように腐りはじめるものもなく、むしろ死語硬直というものが進行しつつあった。


 わたしが外出するに足る装備は万端整った。

 お水のおねーさんの服、轣死体さんからいただいたお財布、そして、喉笛ぱっくり青年のスニーカー。

 轣死体さんの靴は血糊でグシャグシャだったし、それに片一方がどこに飛んでいったのか、部屋中探しても見つからなかった。

 だから東南アジア系青年のスニーカーは、わたしがはじめて手に入れたまともな履き物ということになる。

 派手目のおねーさんの服にスニーカーはアンバランスもいいところだし、第一、どちらもサイズ的にわたしにとっては大き過ぎるのだが、この際贅沢をいっている場合ではない。

 あとは意外と豊かだった轣死体さんのお財布の中身で、なんとかすることにしよう。

 ついに、この忌々しい部屋から解放され、外に出ることができるのだ!

 鼻歌なんぞハミングしつつ身支度を整えたわたしは、入手したスニーカーの紐をきつめに締め、希望に胸躍らせてドアを開け、未知の世界に一歩踏み出した。


 その、五分だか十分のちのことである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る