いつまでも幸せに暮らしました。

来屋折房

零、プロローグ

 カーテンの隙間から漏れ出す朝日の帯が顔に垂れ下がり、少女は掛け布団代わりのタオルケットを頭から被った。それも束の間、忌々しい目覚まし時計が枕元で叫びを上げる。タオルケットからするりと出てきた細く白い手は、二度ほどベッドサイドテーブルの角を触って、目覚まし時計に達する。手は時計の位置を確認し、その頭を叩いて黙らせた。

 ――静かな小休止。

 長閑な小鳥の囀りを聴いて、少女は飛び起きる。勢いよく、上半身を起こした後、寝惚け眼で自分の部屋を眺めた。それから、はぁ、と溜め息をひとつ、そのまま膝を抱え込んだ。

 少女の名前はセツ。セツではあるが、セツではない。確かに、小さな島の小さな雑貨屋の娘で、毎朝商品の陳列を手伝うと言った記憶はあれど、少女はもう一つ、別の記憶を持っていた。

 ――少女の名前は明日葉。

 この話は少し込み入って煩わしい。何より始まりから順を追って辿るのが、最も分かりやすいだろう。それは、今からちょうど一日程前、かもしれない日の、お昼過ぎに遡る。

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