終末ノ意味

明日ゆき

第1話 自殺志願者Ⅰ 

微かにカーテンの隙間からは太陽の日差しが差し込んでいる。が、殆ど闇の中で生活をしている。世の中は狂っている。ごちゃごちゃとした人混みを避けるようになったのはいつ?思い出そうとしてもトウノ昔のように感じてしまい上手く思い出すことができない。それよりも自分には思い出すだけの過去おもいでがあるのだろうか?ゆらゆらと揺れ動く思考に吐き気を覚える。

「・・・」

だただた、チカチカと光る液晶画面を眺めているだけ。

ただただ、カチカチと歯を鳴らすだけ。

ただただ、ガリガリと机の脚を抉り削るだけ。

タダタダ、何もするわけでもなく彼はそっと静かに穏やかに呼吸をしている。スウ、スウと肩が上下に動く動作だけでも彼にとっては窮屈でしかたがない。彼は自分自身で何を考え、行動したいかなんて分かっていない。しかし、なにがしたいか分かっていない彼でも一つだけ分かっている事がある。命に興味がないのだ。

命に興味がない。それは生きている意味もないと言う事ではないだろうか。彼の姿を見てまだ生きているなんて思う人間がこの世の中にいるのだろうか?そもそも彼が誰かの視界に入ること自体がないのだから判断する要素もない。うす暗い小さな世界からでさえ出る事を怖がっているのだから。

「夢彌痾・・・うぁ・・・あぁ・・・」

生きているのか、死んでいるのかさえ分からない彼が未だ現世に留まらせている意味は何なのだろうか。右へと視線を向けてみると蒼色の布を被った死ノ神が微笑み柔らかな視線を向けてきている。左へと視線を向けてみると深紅色のナニカが暖かな視線を向けてきていた。彼にとって神だろうがなんだろうがその個体に興味はない。


「・・・いい加減にどうだ?」

「きっとまだナニカ自分に才能があるなんて思っているのか?それは大いに勘違い」


「うぁ・・・あぁ・・・がぁ・・・」


「無駄・・・無駄・・・無駄・・・お前に才能なんて無い・・・ない・・・考えるだけ・・・無駄・・・無駄」

「無駄・・・無駄・・・お前に才能なんて無い・・・ある・・・考えても・・・無駄・・・無駄・・・無だ」


左右では彼に対して向けられているものなのか高笑い声が耳へと入り込んでくる。聞きなれた声。いい加減、楽にさせて欲しい。が、左右にいる神たちは


【それじゃあ、面白くないだろう?】


娯楽おもちゃで楽しむように彼の命を狩ろうとはしてこない。昆虫観察でもしているかのように彼の姿を見ては嘲笑っている。それでもなお彼は視線、笑い声には見向きもせず一点のチカチカト光る液晶を眺めているだけだった。

小さな空間に小さな機械音。ピクリと彼の眉が動く。耳元で死ノ神たちが嘲笑っていても反応を示さなかった人間が機械音、液晶に写った文字を見た途端に反応するのだから死ノ神たちは穏やかじゃあない。仮にも死を司る神。神は冒涜を一番嫌う。彼らたちもきっとそうだろう。乾いた笑いはピタリと消えてしまい部屋に静寂が訪れる。彼はきっと数秒後には左右に居たであろう死ノ神なんて忘れているだろう。そもそも彼の隣に死ノ神がいたのかさえも不明瞭。神とは奉られ尊敬されるもの。だが、彼らは違う。神と言う名を受けているがそれだけ。ただの道化師。


「うぁ・・・がぁ・・・」


彼はカチカチとキーボードを力無く打ち始める。それが文章になっているのかなっていないのか理解はできない。しかし、彼は必死に何かを伝えようとしている。ほんの少しだけ異常をきたしていた彼はキーボードを打っていた事によって何やら周りに蠢く異様な雰囲気いわかんに襲われる。


「ぁが・・・ぢ・・・?」


視線を上下左右前後へと向けてみる。辺り一面には血なまぐさい匂いが充満していた。ねっとりと鼻の中、口の中にくっつくような腐臭。彼の右ポケットには何かの液がパリパリに乾き切れ味が格段に下がっている鋏が入っている。彼は少し先の小さく横たわっている肉片に目をやる。と、愛おしいものでも愛でるように優しく何度も、何度も擦り人間らしい笑みを浮かべ見つめる。


「ぐぁ・・・べぃ・・・ぐぅじゅ・・・」

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