(1分短編)愚痴 ~勇者様はいつもこんなことを思っている~
中西ユウ
第1話 続きはあるのか!?
ここは人知れずこっそり開かれている宿屋の酒場。空になった瓶を手に、今日も勇者はやさぐれている。
勇者:「おい、親父。もう一本」
ママ:「『親父』じゃなくて『ママ』と呼んで頂戴! 『これだから近頃の若者は・・・・・・』なんて陰口叩かれんのよ!!」
ぴしゃりと言い放つママだったが、泥酔している勇者には右から左である。
勇者:「――っつーかさぁ、あのオヤジ『おぉ、勇者よ。死んでしまうとは情けない』って偉そうに……何様のつもりだよ。金だって半分も持って行きやがって」
ママ:「……何様って、『王様』でしょう?」
勇者:「そ、そうなんだけどさ……レベル1のスライムも倒せない癖にあの言い草はないよね」
ママ:「……あら、意外に強いかもしれないわよ? そこを敢えて若い人に譲ってるのかも」
勇者:「はぁ!? だったら、尚更あのオヤジが魔王でも何でも倒しに行けばいいだけの話じゃん!!」
まるでクレームをつけるような口調で声を上げる勇者に、ママは呆れたと言わんばかりの溜息を返した。
ママ:「貴方、分かってないわね……くたびれたおっさんが勇者の冒険なんて、誰が見るっていうのよ!!!! そんなの、ごく一部のコアな人だけでしょ!!!!」
勇者:「……」
そのとき勇者の脳裏に、メタボ腹を揺らしながら「リストラアターック!! 退職金スラーッシュ!!」と攻撃を仕掛ける、頭髪の営業がカツカツである男性の姿が浮かんだ。ただでさえ酔って気持ち悪いのに、変な想像で吐き気倍増である。
勇者:「うっ……」
ママ:「!」
一点を見つめて口元を膨らませる勇者の前に、ママは武道家を凌ぐ素早さで嘔吐用桶を置いた。直後、「オロロロロ」という音と共に吐瀉物が注がれた。出すものを出して我に返ったのか、勇者は申し訳なさそうに頭を下げる。
勇者:「……大変失礼しました……」
ママ:「まったく……吐くんなら次からはトイレに行って頂戴!!!!」
ふんと鼻を鳴らすママに「はぁ」と返事をしつつも、まだ言い足りないことがあるのか勇者の表情は気だるげだ。
勇者:「この前漫画で『勇者は旅に出るものだっていう風潮自体間違ってる』ってあったけどさ……、あれまさにその通りだと思うんだよね……」
ママ:「……だったら『誰でもいいから旅に出ましょう』って文言に変える? そしたら、貴方よりマシな人がいくらでも現れるかも……」
勇者「!!」
勇者は口をあんぐりして固まった。
勇者:「お願いします……俺にやらせてください……」
酒場の夜は今日も長い。
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