グレートマーシャル転生ビーム

第1話


「君も転生希望者か、最近多いんだよね……まあ神だから対応はするけどさ、もう一度思い直してみない?

君は転生後の世界でチート異能を得て無双モードになる。レールを敷かれるのが嫌なら異能だけ与えて放り出してやったっていい。なんなら何度かループさせてやってもいい。

でもね、他人と同じ様に成功し続ける体験はあっという間に陳腐化するよ?

君が大成功してると自己満足に浸ってる側を、もっと新しい幸福の形を切り拓いた人間が通り過ぎて行く、そうして君はまた劣等感に苛まれるんだ。

もう止めようよ、これは僕からの忠告と苦言。めちゃめちゃ願いを叶えてあげてるっていうのに、何かって言うと君らは不幸を僕のせいにするからね……」


「うるさい、さっさとしろ」


僕は転生した。能力は変化。「あらゆるもの」を「別のもの」に変える事ができる。産まれは不明、山の奥に住んでる賢者が拾ったところからスタート。幼くして既に賢者を上回っている。当然だな。転生した事は知っているものの、前世の「記憶」は無く、また物心がつく前の事は記憶していない。従って、僕が始まるのは暖炉の燃え盛る土間の下土、それを見ているところから。


「記憶がない」という「りろんはしってる」。だが僕は自分が寝ている場所が粗末なのは分かっているから、おそらく僕が欠落させたのは前世の「人間関係」に関すると僕が判断した知識だけなのだろう。人や文章、自分の置かれた環境から得られた感性も当然僕を構成する記憶の一部であるはずだから、本当に記憶を喪失したなら僕はきちんと無心に赤子であれたはずなのに、そうなっていない。という事はつまりそういう事だ。ここは僕にとって都合のいい事しか起こらない世界なのだから当然だろう。


僕は横になったまま三白眼を暖炉の前の椅子で居眠りしている賢者に向ける。ハゲだ。老いている。白ひげだ。緑のローブ。テンプレ賢者で本当に素晴らしい。性格はファンタジアンな感じだろう。つまらないので僕は変化させた。服装はリオのカーニバル、性格もリオのカーニバル。外見はまあそのまま爺さんでいいや。汚い絵面だ。僕は立ち上がる。


椅子で眠りこけている頭がカーニバルを置き去りにして僕は家の外に出た。日が高い。深い山の中にいるとは言え、歩けば汗をかきそうだ。すると木立の向こうから柔らかな金髪をした緑眼の少女が歩いてくる。僕がそう変えたのだが。おどおどしながら歩いてくる少女は、実際僕より歳上だ。といっても二、三歳だろうが。


「あ、あの、リヒトさん、もういいんですか?」


僕は病気で寝込んでいた事になった。


「ええ、いいです」


僕は答えた。


「そうですか、あの、これ、お水を汲んで、果物を採ってきたんです」


籠をおずおずと突き出す少女。竹の様な容器には水が入り、橙色の鮮やかなリンゴ染みた果物が五、六個入っている。もんべる ね ぱ ぐらん めじゅぽわ もんべる。


「ありがとうございます」


僕はつべこべ言わずに受け取った。恋愛フラグを無意味に折る必要はない。いややっぱ折るか。


僕は手にした籠から炎を噴き上げさせた。手の周りは器用に熱が避ける。少女は驚いて走って逃げ帰った。籠の中身は消炭になった。僕はそれを摘んで食べた。ぽりぽりと苦い。きっと腐った臓腑を清浄にしてくれるだろう。健康の味なのだ。そして少女の味でもある。そう考えると興奮してこないか? こないな。


僕は結局炭を食べ終えた。化物染みたお歯黒になった事だろうし、全盛期のマンソン染みた唇だろう。割とどうでもいいので直ぐに綺麗にした。一瞬で全て元通り。能力として何の不足もない。便利すぎる様な気もするがどうでもいい事だ。なにせ転生したのだから気にする事などない。責任もへったくれもない。全てが僕の都合で動く。よかろうもん。


僕は歩き出した。

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