鷺沢萠「眼鏡越しの空」

(「ビューティフル・ネーム」収録作品)


巧みな作品ですねぇ。特に図書カードのシーンは鮮烈でした。「駆ける少年」の疾走シーンもそうですが、この作者さん、ハッとするような場面を物語に織り込むのが大変に上手ですね。本作は、このネタをそこまで美味しく料理できるのか、という点でも感嘆しました。


これを書けるようなスキル持ってて、なんで自死したくなるかね、しかし、と、最初ちょっと思ったのですが、よくよく考えると、このレベルまで書けるようになっちゃっうと、書く行為からは、逆に、書いてる本人を救済する効能は薄くなっちゃうのかな、という気もしますね。


良くできた作品というのは、本人が死んだ後にも価値を持ち続けるわけで、いってみたら、本人の存在とは無関係な価値で、書き手にすりゃ「あたしが死んでも引き続き存続可能な価値なんかじゃあたしの生を救うことなんてできゃしないさ」といったところなのかも知れません。ホビー創作者の立場から、創るという行為が自分にもたらす効能の面から創作行為の意義を考えることの多い私にとっては、その構図は、新鮮かつ無関係かつ他人事で、ちょっと面白い状況だなと思いました。

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