用例集型人工無能の勝利
国語学の成果に基づき、構文規則をアルゴリズム化して人工無能を作ったら少しも自然な会話にならなかった。一方、実際の会話のパターンを、理論的な分析抜きで、大量にデータ収集して用例集のデータベースを作り、データベース上の統計的発生頻度に基づいて機械的に返答させるようにしたら、見た目、かなり自然な会話になった。大学一年の国語学概論で、講師の近藤泰弘先生がそういう話をされたことがありました。構文には本当は規則なんて無いのかもしれないな。話を聞きながら当時の私は思いました。
自分の過去の記憶の中から、似たような状況で発せられた似たような発語内容に対する、返された応答のパターンを検索してきて、検索ランク順に脳内で整列して、上位群から、適宜乱数化によるランダマイズなんかも施して1個選んで答える。それを、反射神経的に一瞬でやるのが会話なのかもしれません。そこには構文規則なんていう理論的に整然とした仕組みは全然無くて、話し手の思想や人間性なんかも実はあんまり介在してなくて、サイコロを司るような確率論的システムだけがランダムに踊っている。言葉の綾って、そういうことなのかもしれません。
音楽の方は、理論に基づく自動生成がかなり実用的なレベルまで進んでいますが、それでも、メロディーに対する伴奏のコード進行自動生成は、私が今まで使ったソフトではあまり実用的とは言いがたかったですね。SingerSongWriterというソフトを使って何曲か自動生成作品をネットに投稿してますが、コード進行自動生成結果を採用できたものは皆無です。私のパラメータの与え方が悪かっただけなのかもしれませんが、なんか、与えたメロディーに対して、とてつもなく突飛なコード進行を生成してくるのです。ちなみに、コード進行まで人手で入力してやると、そこから先の自動生成結果はそこそこ満足のいくものです。そりゃ、どっかで聴いたようないかにもな伴奏にしかなりませんが、自動生成で伴奏作ろうなんて考える私のような人間が求めているのは、まさにそのいかにもなものな訳ですから、そこはオッケーです。
言語の自動生成が理論で制御しにくいのに音楽の方はそこそこいけるってのは、不思議なようでもあり、当たり前のようでもありますね。それに、人工無能に生成させようとしているのが自然言語一般の表現なのに対して、音楽というのは、自然界に発生する音響現象の内の、聴いて楽しめるごくごく狭い範囲でしか無いのですから、理論で処理できて当たり前かもしれません。言語の方も、大衆小説自動生成機とか、ジャンル絞ればそこそこいけるのかも。というか、私が探してないだけで既に普及してるのかもしれませんね。
そういえば、神林長平のSF短編集「言壺」に、そんな感じの、アイデアプロセッサの超進化した版みたいのが出てくる話がありました。この短編集は、「小説とは?」「言語とは?」みたいなかたっくるしいメタ表現ネタをこれでもかってくらいにエンターテイメント化してる傑作でした。最後の頁が割と感動的なので、読んでる途中で間違ってめくって読まないように注意しましょう(笑)。私、間違っちゃって、ずいぶんがっかりしましたから。
あ、そうそう、私、よく国語学って言葉を使ってますが、私が大学生の頃は実際そう呼ぶ人が多かったのですが、今は日本語学っていう呼び方の方が定着してるみたいですね。Wikipediaで近藤先生のしたの名前を確認してたら気付きました。そーですね、国語学じゃ「外人が研究者だったらどうすんだよ?(笑)」って話になりますよね。日本語学が妥当だと思います。
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