2 診察の途中



歩「くさいから帰る」


こんなオナラ屋敷に長居は無用と悪びれもせずあゆが出ていき、俺と弓菜が取り残される。


弓菜「ねえ、いいの? あの子もいずれ私みたいになるんじゃないの?」


博士「なるだろ。たぶん自分でもわかってる」


博士「その症状が出るまでわざわざこんなオナラ地獄につきあう必要はないさ、実に合理的。理系には向いている」


弓菜「オナラ地獄とか言うんじゃないわよ、どうすりゃいいのよこんなの、最低もいいとこじゃない」


弓菜「ほんとどうしよ、こんなんじゃみっともなくて病院にも行けないわよ」


博士「まあ俺としてもこのまま弓菜が病院行って無限放屁の原因が俺の研究だってバレたら捕まるかもしれないので非常に困る」


弓菜「だったら博士がなんとかしてよ」


弓菜はさっきから部屋の扉から尻だけ廊下に出したおかしな格好をしている。


廊下の惨状は考えたくもないが、おかげで部屋の中はとりあえずそんなには臭くない。


臭いか臭くないかでいえば臭いのではあるけれども。


相変わらず合間合間にぷーぷー。とめどなくオナラ。


まあ千倍だからな。


人間が千人もいたら常にそのうちの誰かは屁をたれている状態、というのはわからなくもない。


弓菜「解毒剤とかないの」


博士「そんな都合のいいもの用意しているわけがない」


そもそも毒ではないしな。


博士「まあ現状を把握してからだな。ひとまず腸内細菌を調べるとこからはじめるか」


博士「ほら、そこに四つんばいになってパンツ脱いでお尻こっち向けて」


弓菜「え、何?ここでお尻出すの?博士にお尻見せるの?」


博士「見せなきゃ調べらんないだろ」


弓菜「嫌よ」


博士「嫌よ、って何言ってんだよ」


弓菜「イヤ。博士にお尻見られるなんてイヤ。そんな恥ずかしいことぜったいにイヤ!」


博士「わかった、お尻は見ない」


博士「肛門だ、肛門だけでいいから見せろ」


弓菜「よけい悪いわ!」


博士「って言ってもなあ、調べなきゃ対策の立てようがないし、そのままオナラぶっ放しながら暮らすか?」


弓菜「ううう。それもヤだけど」


博士「まあゆっくり考えろ、尻を見せたくなったら言え」


そう言って俺は弓菜に背を向ける。

このままでいる選択肢などあるわけはないし、どうせ結論は決まっている。すこし待てば肚も座るだろ。


弓菜「うわああ…イヤだぁ…恥ずかしすぎるぅ…」


弓菜「お尻見られるのイヤぁ……、うわぁ……お尻、博士にお尻見せなきゃダメなんだ……ハッ!」


どうやら他の大事な部分を見られる可能性にも気付いたようだ。


弓菜「うわっ!ダメっ!アソコ見せるとか絶対ダメ!ダメ!ダメ!だめなのにぃ……」


弓菜はしばらくモジモジしたり顔を赤くしたり怒ったり泣いたりしながらやがて覚悟を決めた。


弓菜「博士、絆創膏ある?」


博士「おう、そこにあるぞ」


俺は部屋の隅にある救急箱を指差した。


弓菜「あっち向いてて」


言われたとおりにする。


弓菜はガサゴソと救急箱をさぐり、またしばらくのたうちまわりながら思案にふけっているようだ。


弓菜「あああああ、嫌だぁ……いや過ぎるぅ……死ねるぅ……これは軽く死ねるぅ……」


弓菜「でもこれでギリギリ、ギリギリだから、これはセーフ、絶対セーフだから、大丈夫、わたし大丈夫」


それからシュルシュルと衣擦れの音がして、俺の背中に声がかかった。


弓菜「はい、準備できたわよ。博士、お尻見て」


振り返るとそこには四つんばいになってお尻を高く上げた姿の弓菜がいる。


弓菜の尻を見たのは子供のころ以来だから、その頃よりみつしりと成長したその生尻の重量感に軽く圧倒される。


さっきからオナラでてんやわんやしていたから全く気付かなかったが、冷静に振り返ればこの体勢はエロい。


高校生ながら見事な巨尻、と呼んでも差し支えない堂々とした双臀。それを恥らいながらも健気に晒す妹分。喜ばない理由はなにもない!


いや、理由はあるか、オナラだオナラ、尋常ではない量のオナラ、ふつうに嬉しくなかった。


博士「いやだから別にお尻は見せなくていいんだ、肛門だけで」


とりあえずこれは照れ隠しである。こちらとしてもこの状況はいたたまれないものがある。


弓菜「うるさいバカ。さっさとやる」


弓菜はおずおずと尻肉を自分で開いて肛門を見せた。


「くぱぁ」


心の中でだけ擬音を再生する。


大事な部分は先ほどの絆創膏で隠されている。


俺の心情についてはコメントを差し控えさせていただく。


博士「はいはい、ちょっとヒヤッとするからな」


俺はサンプル採取用のガラス棒を手に弓菜のお尻に顔を近づける、その刹那。


弓菜「あっ、嫌だ」


と忍び声が漏れ、


ばぶう。


大音声と爆風と臭気をまともに食らった。


博士「ぐわっ」


俺はたまらず顔を背けるとそのままバランスを崩し、後方に2、3歩たたらを踏んでからずでんどうと仰向けに倒れた。


弓菜「やめてよ! あたしがオナラで吹き飛ばしたみたいじゃない」


博士「まさしくお前にオナラで吹き飛ばされたんだがな」


埃を払って立ち上がると、再び弓菜のお尻に向かい合う。


その曲線美を堪能する間もなく


弓菜「あーっ!」


弓菜の声、そして


ばひん。


博士「どわ」


どんがらがっしゃん。


弓菜「ちょっと! 何でそんなに大げさに倒れるのよ」


博士「少しも大げさではないのだが」


自分でも食らってみればいいのに。



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