時には少女の風を感じてみようか/尻からの
上宮将徳
1 大音量ご注意
博士「んあ~~~~~っ!」
コンビニからの帰り、平日昼間の人気のまばらな公園で俺は大きく伸びをした。
背中の筋がぱきぱきと音を立て、体中に新たな血流がめぐる。
博士「もうちょっと外に出るようにしなきゃいかんな」
あまり真剣味のない反省をしながら軽くうろ覚えのラジオ体操をする。
ラジオ体操第二に入ってすぐ、ガニマタ運動のところで通りすがりに笑われたような気がしてやめた。
俺の名前は因幡修太郎、25歳。
少ないながらも特許収入で生計を立てている市井の発明家である。
近しい人には「博士」などと呼ばれているが、自分ではその言葉のイメージから連想されるトンデモ発明家のたぐいではない、地道で実直な研究をしているつもりだ。
別に時間を止めたり透明人間になったり超能力の研究はしていない。
半ひきこもりでたまに外に出るのはちょっとした買い物か大学の研究室に用事があるときぐらいだが、基本的には好きな研究だけで暮らしていける今の生活に不満はない。
運動不足の解消にと気休め程度に遠回りの散歩をしてから家に帰ると玄関の鍵は開いていた。
博士「どうせあいつらだ」
特に心配することもなくコンビニ袋をぶらさげて部屋に入る。
弓菜「あ、博士、おかえりー」
歩「おかえりなさい」
中にいた二人がゲームをしながらこちらに目も向けずに挨拶をした。
元気で生意気そうなのが弓菜、ちびっこくてボソボソ喋るのが歩、左右のお隣さんだ。
どちらも家族ぐるみのつきあいで子供のころからちょいちょいうちに遊びに来るのだが、勝手知ったる人の家、我が物顔で振舞うと同時に家事もやってくれるので合鍵をわたしている。
自分自身生活無能力者ではないが、かわいい女の子にほのかな好意とともに世話を焼かれるのは単純に心地いい。
博士「お菓子買ってきたから飲み物でも出そうか」
弓菜「あ、さっき冷蔵庫にあったスクルトもらったから」
博士「スクルト?そんなのあったか?」
弓菜「あったわよ、ペットボトルのやつ」
歩「あんな大きなスクルトはじめてみた」
博士「バカ、そりゃスクルトじゃねえよ、研究の試作品だ」
失敗作だ、とは言わない。
弓菜「でもスクルトとおんなじ味だったわよ。ちょっとすっぱかったような気もするけど」
すっぱかったら同じじゃねえだろ。
博士「マジか、おい、体なんともないか?」
弓菜「別になんともないわよ、なんなのよまったくもう」
博士「あゆはどうだ、お前も飲んだのか?」
歩「のんだ。すごいすっぱかった」
弓菜「ねえ、何なの、まさか毒じゃないわよね」
博士「毒なんかじゃねえが、あれは俺が腸内の善玉細菌が三倍になるように目指して研究して」
博士「間違って千倍になったやつだ」
三倍と千倍、国語的にはそんなには違わない。
弓菜「千倍! バカなの! なんでそんなの残しとくのよ!」
博士「別の研究に使えると思って保存してたんだよ」
弓菜「ちょっと! 私たちどうなっちゃうの」
バブーン
突然部屋を揺るがすような重低音が響いた。
遅れて周囲になんとも言えぬ臭いがたちこめる。
その威力はただごとではないが要するにただの屁、オナラ。
弓菜「ぷー、ぷー、ぷー」
博士「おい、口でごまかすな」
歩「すごいおなら」
弓菜「うるさいわね、出ちゃったんだから仕方ないでしょ」
博士「そんな子供みたいなごまかしかたしなくても」
歩「弓菜、おならくさい」
弓菜「そんなこと言わないでよ、あああっ、また来る!」
ぱぷう
博士「どうやら効き目が出てきたみたいだな」
弓菜「何これ、おなら止まらない、すごい出ちゃう」
ぶびい、ぱぴい、ぶふー
博士「今度は連発か、もはや遠慮も何もないな」
弓菜「いや、恥ずかしい!これどうなっちゃってるの!」
ぷぅぅぅぅぅぅぅ
博士「いや、腸内細菌が千倍だからな、屁も普通に千倍だ」
博士「おい、あゆ、窓開けてくれ、さすがにたまらん」
歩「わかった。窓、あける」
弓菜「嫌!いや!やめてよ!音が表に聞こえるじゃない!」
博士「俺にこの臭いの中で暮らせと」
弓菜「博士の責任でしょ! なんとかしてよ!」
勝手に飲んだ責任はないのか。
博士「なんとかって言われてもなあ、治まるまで待つか、病院行くしかないんじゃないか」
弓菜「どのくらいで治まるの」
博士「わからん。一週間ぐらいじゃないか?」
弓菜「あ、今適当言った! 絶対適当に言っただけだ!」
博士「よくわかるな」
弓菜「伊達につきあい長いわけじゃないってぃぃぃぃぃ? あぁぁぁ!」
ばぶうん
博士「あゆ、やっぱ窓あけてくれ」
歩「ん、換気、しないとだめ」
弓菜「だからやめってってばあ! 窓開けちゃだめぇ!」
博士「勘弁してくれ、このままじゃ黄色くなって死んでしまう」
歩「おーいーらのとーもだちゃきーろくなってしんじゃったー」
弓菜「我慢して! お願いだから我慢して!」
博士「おまえが我慢してくれ」
ガラガラガラガラ
部屋の窓が大きく開け放たれた。
弓菜「いやーっ! 絶対イヤーッ! 聞かれちゃうーーー!」
ばぶっばぶっばぶっぶばばばびびびびびびびび
弓菜の絶叫とオナラのファンファーレが閑静な住宅地に盛大に鳴り響いた。
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