第2話 謁見は平民服で

金の鳥かごを揺らして少女と青年は王都への道を急ぎました。

黒々とした彼の馬は疲れを知らないかのように走り続け、日暮れ間近には王宮の前に着いていました。

近衛兵はヘイムダルの顔を見ると厳しく敬礼をして直ぐさま王様へ謁見出来るように手配をしてくれました。

「この格好で謁見ですか……?」

見るからに平民服である簡素なブラウスとスカートを摘み、エイルは不安気にヘイムダルを見上げます。

「陛下は人を外見で判断するお方ではないから大丈夫だ。」

容赦なく豪奢な扉を開けると眩いばかりのシャンデリアと金細工の輝きに目が眩みます。

「陛下、ミス・リフィアをお連れいたしました。」

「ありがとう、ヘイムダル。流石我が半身。仕事が早いね。」

玉座より優雅に立ち上がったのは若き国王、バルドル・デリング・アスガルド。その人です。

太陽の陽のように輝く金髪に金の瞳。まさに太陽神そのものと言って差し支えない類い稀な美しさを持っております。

「ようこそ、ミス・リフィア。この黄金の宮殿にしばらく滞在してもらうよ。君の護衛にはヘイムダルが付くから安心していい。彼の腕は我が国随一だからね。」

「かような手厚いご配慮、ありがとうございます。しかし、陛下。何故私をお呼びになったのですか?」

ふと、バルドルの顔が俄かに曇りますと指を組み直して執事に命じました。

「長くなる話だ。エリック、朝露の間にお茶の用意を頼む。さて、客人の部屋にまず案内しよう。」


通されたのは淡い若葉色が基調になった居心地の良い部屋でした。

「急な旅だったから疲れただろう。ここにあるものは何でも好きに使っていい。少し一休みをしたらヘイムダルと私の所へ来て欲しい。」

後ろに控えていたヘイムダルは口元を引きつらせながら御意に従いました。

二人きりになった部屋に沈黙が支配するとエイルは緊張で顔を赤らめました。

気まずそうにヘイムダルは言います。

「全く、陛下は何を考えているのか……。普通、男と二人きりにはさせないだろう。」

「ええ、しきたりではそのようですね。」

「君は貴族のしきたりを知らないだろう?」

「母が、少しの間城下にいたことがあっていずれ必要になるから、と教えてくれたのです。」

「……もしかすると。」

急に深刻そうな顔つきで彼は呟きました。

「え?」

「いや、何でもない。」

疑問を隠しきれないエイルの表情に僅かに口元を緩めて彼は背を向けました。

「さ、早く荷物を片付けるんだ。」

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