第1話 騎士様のお迎え
昔々、豊かな緑に囲まれたアスガルドという国がありました。
太陽神とも崇められたバルドル国王が懸命に国を治めておりましたから、民たちは花々に彩られ穏やかに暮らしておりました。
しかし、これも運命と言いますもので国の端の村々が天に住まう巨神によって飢饉や嵐に襲われてしまいました。
そのうちの一つ、深い霧に囲まれた「眠りの森」にあるラバーン村も何者かの襲撃を受け人々が虐殺されてしまいました。
この村はアスガルド王国に予言を与えるリフィアという一族が統べておりましたが、一時の間にその殆どが殺されました。
残されたのは一族最年少のエイルという娘です。
この娘は燃えるような赤毛を持っておりますが、気性はその瞳に宿る、海の色の如く穏やかで口元にはいつも微笑をたたえている子でありました。
そして何より、彼女にはたちどころに病を治してしまう不思議な力を持っておりました。
さて、そんないたいけな娘が一人で両親の遺体を弔っていると、ある一人の青年騎士が現れました。何でも国王陛下の命を受け、エイルを迎えに来たと言うのです。
単なる村娘を連れに来るとはどうにも変ですが見せられた勲章と王国軍の紋章にエイルは素直に頷きました。
騎士はヘイムダルと言い、国王軍の大将を務めているとのことでした。
「今すぐ荷物をまとめて王宮まで参上するようにとのお達しだ。従うように。」
あまりにも傲慢な物言いに流石に面白くはありません。
反発を覚えて真っ直ぐ彼を見据えるとこう申しました。
「どれだけ高貴な方かは存じませんが、村娘には爪の先ほども敬意を払うべきではないとお思いですか?少なくとも私は生きとし生けるもの全てに魂が宿っているのだから大切にしなさいと教わりました。」
そうして、彼女は伸び上がってその可憐な白い花を彼の耳元へ差し込みました。
その都会的で洗練された挨拶にヘイムダルは驚きを隠せませんでした。
「……悪かった。騎士として女性に敬意を払わないのは良くなかった。」
エイルは、彼は実のところそれ程嫌な人ではなさそうだと見ていました。
「だって自分の良くなかったところを素直に認められたのよ。」と後ほど彼女は笑いながら話してくれたものです。
急に何故かこの屈強で気難しそうな彼が可愛らしく見えてきたくらいです。
「では、支度をしてまいります。」
軽やかに家内へ戻った彼女をヘイムダルは夢見心地で見つめていました。
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