まっしろ屋さんと少女

絶望&織田

犠牲

国民の半分が病気になる国に「まっしろ屋さん」と呼ばれる男がいました。


まっしろ屋さんは、夜明けから夕方までの間に現れます。


まっしろなシルクハット


まっしろな上着にズボン


まっしろな靴


ぜんしん、まっしろなすがたで、困っている人にしかきこえない魔法の言葉で国中を歩き回り、さけびます。


「まっしろは要らんかねー!?なんでも交換するよ!」


おおきな声でなんども、なんども叫びます。


すると、顔が白くまっしろなワンピースを着た少女が言いました。


「まっしろと交換して!私は身体中が痛くて痛くてしょうがないのに!お医者様は注射や薬ばかりして痛いのは治してくれないの!それに部屋は窓もなくていつも真っ暗で怖いわ!最近じゃ眠れなくなって辛いの…眠りはぜんぶ忘れられるのに…私には痛みしかない!パパもママも会いに来てくれない!」



少女はポロポロと泣いてまっしろ屋さんにすがりついて言いました。


地面には透き通るような水たまりと血が滲んでいました。


少女は靴を履いてなく、裸足でした。


足の裏を切ったのでしょう、血は足から流れていました。


まっしろ屋さんは笑顔を浮かべて言いました。


「わかりました。ではこの薬を飲めば、あなたの病はたちどころに治るでしょう」


まっしろ屋さんは少女の手に一粒のまっしろな薬を手渡しました。


少女は手渡された薬を睨んでいましたが…


「見つけた!アイツだ!」


少女の背後には白衣を着た大人達が迫って叫んでいました。


少女はそれを見ると、意を決したように薬を飲み込みました。


そして、笑顔で言いました。


「ありがとうまっしろ屋さん…痛みが嘘みたいにないわ…それにとっても眠いし…寒いの」


まっしろ屋さんはニッコリと笑みを浮かべて少女をお姫様抱っこしました。


少女の体はどんどん冷たくなり、二度と目を醒ますことはありませんでした。


「貴様!我々の実験体12号に何をしている!?」


白衣を着た集団がまっしろ屋さんに近づくと、少女を指さしながら言いました。

まっしろ屋さんは首を傾げましたが、少女の足裏に12号と書かれた文字を見つけると納得しました。


「私は彼女の願いを叶えてあげただけですが?」


まっしろ屋さんはニコニコ顔で言います。


「まさか殺したんじゃないだろうな!?」


それを聞いた白衣の一人が叫びます。


「私はあなた方のように名医ではないので、最善を尽くしただけに過ぎません」

まっしろ屋さんはニヤニヤと笑い答えました。


「人殺しめ!この悪魔め!よく聞け!この国で蔓延している病は12号の投薬実験で治療できるはずだったんだ!なのに貴様は大切なモルモットを殺した!貴様は国民全員を敵にしたと思え!我々は善意で国民を救いたいと日夜努力してきたのだ!」


白衣の男達は皆、顔を真っ赤にして足踏みをしました。


まっしろ屋さんはそれを愉しそうに眺めながら言いました。


「では、あなた方がモルモットになればいい」


それを聞いた白衣の男達は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしてしまいました。

「病んだ国につける薬はあると思いますか?」


まっしろ屋さんはそう言うと、少女を連れてまっくろな水たまりに消えてゆきました。


傍らには箱詰めされたまっしろな薬が置かれていました。


白衣の一人が薬を拾うと、胸を張って言いました。


「一人の犠牲で皆が助かるなら、私は自分の娘でさえ犠牲にする!」


おわり

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まっしろ屋さんと少女 絶望&織田 @hayase

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