第2話
「兄ちゃん、村だ! 村に着いたよ!」
のどかな村の入り口に、明るい少年の声が響いた。晴れやかな顔をした少年の年はまだ十に達してはいないだろう。そんな少年を追うように、陰からもう一人少年が現れた。先に現れた少年より、五つは年上に見える。
「やっとか……人のいそうな場所に来たのは、二週間ぶりだな」
後から来た大きい少年は、どこか疲れたような声をしている。すると、その声に釣られたかのうように、小さい方の少年も少し疲れたように苦笑した。
「うん、久しぶりに屋根の下で寝れそうだね! あとは、あったかい布団を貸してもらえれば、言う事無いんだけどなぁ……」
その言葉に、大きい少年は「そうだな」とうなづいた。そして、「けど……」と言葉を続ける。
「とりあえず、今は……」
「……そうだね、今は……」
小さい方の少年も頷いた。そしてそれと同時に、辺り一帯にぐごるるるぅぅ……という音が鳴り響く。腹の虫達による、盛大な合唱だ。
二人はそれぞれ「腹減ったぁ……」「お腹空いたぁ……」と弱々しく呟くと、そのままへなへなとその場に座り込んだ。そしてそのまま、ばたりと横になってしまう。
「もう三日も、何も食べてないもんね……」
「前の村で、もうちょっと補給しとくべきだったな……」
反省顔で呟く大きい少年に、小さな少年が「ねぇ……」と声をかけた。
「兄ちゃん……」
「んー……?」
兄と呼ばれた大きな少年は、気だるげに首をめぐらせ、小さい方の少年を見る。
「お腹空き過ぎで、もう足が動かないよ……。おんぶしてぇ……」
小さな少年の泣きそうな声に、大きな少年は少しの間だけ「んー……」と考えた。そして、バツが悪そうな顔をして、小さな少年の方を見る事無く言った。
「……悪ぃ。俺も、腹減り過ぎでもう動けねぇや……」
「えー……?」
小さな少年の、ショックを受けたような、抗議をするかのような間延びした声は、最早辺りに響くだけの力も無い。のどかな村の入り口だからか、人通りも無い。ただ、青い空を鳥達がゆっくりと飛んでいる。
そして、それから十数分後の事である。
村の入り口から近い建物の扉が開いた。そしてその扉から、十五歳ほどの少女が顔を出す。
野草でも摘みに行くのだろうか。少女は籠を手に、村の入口へと一直線に歩いていく。
そして、村を出ようとしたまさにその瞬間、何かに蹴躓いた。
「……?」
何に躓いたのかと少女が下を見てみれば、そこには仰向けになって倒れている少年が二人。ろくに動く様子も無い。
自分が何に躓いたのかを認識し、それが中々動かない様子を見て、少女は顔を真っ青に染めた。喉の奥から、「ヒッ……」という声が漏れ出る。
「なっ……何これ……死体ーっ!?」
少女の叫び声に驚いたのか、のんびりと空を飛んでいた鳥達が急に速度を増して飛び出した。その羽音にすら掻き消されるほどの弱々しい声で、二人の少年はそれぞれ「死体じゃねぇ……」「死体じゃない……」と呟いた。
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