穴くぐりの歌

糸の海で音のしないこだまがわめき

耳鳴りに重なって眩暈を誘う

沈む船にかこつけた祭りのための

飾りつけた山車が引かれ町を賑わす


メガホンは3度目の説明をする

5分ばかり待っていれば神輿が来ると

人が集まる 海辺の町に

糸の海の浜の町の祭りたけなわ


人の集うところ、そこに穴は生まれる

群れて動く人の波は暗い洞穴

洞穴は歪み縮み呼吸をしてる

べとついて熱を持った溜め息をつく


メガホンは5回目でかすみはじめる

音色にじみ水を吸って景色を溶かす

不意に他人達の熱で瞳ふさがれ

気がつくと人の穴に飲み込まれてた


穴の中は外よりもよほど広くて

もしやこちらこそが穴の外側なのか

飲み込まれたのではなくて吐き出されたか

穴の中の広さに心は惑う


デタラメに重なった道路が見える

車の列ゆるやかに退いてゆく

剥がれかけた青い空の隅の一枚

羽の生えた看板屋がダルそに補修


透明な体をした子等が公園

フラフープに興じている 声も立てずに

夏の子供服だけが輪の真ん中で

忘れられた旗のようにユラユラ揺れる


思い至る ここは穴の中ではなくて

中も外もありはしない ただの向こう側

穴は僕を飲みはしない 吐いてもいない

穴を通り向こう側へくぐっただけだ


休み中の校庭で映画撮る一団が

犬や猫にカメラ背負わせて歩かせる

レフ板の輝きが網膜を焼く

四角い残像は暗号のよう

遅い解読 待たず消えてく


できた映画駄作だとはわかっていたが

なぜか心騒ぎ試写会へと出かけた

スクリーンは度を過ごして明るすぎて

映画館の中はまるで真昼のひなた


配布されたサングラスし、周りを見ると

客はみんな僕の古い友達ばかり

食べたはずのポップコーン ポロポロ落ちて

みると僕の腹にポカリ穴があいてる


穴はのびて友と僕を重ね貫き

銀幕には浜の町の祭りが映る

ここにいてはいけないことやっと気付いて

体貫く穴に頭突っ込む


僕は僕に開いた穴をくぐると決めた

くぐり抜けた先に何かあると信じて

友と僕をつなぐ穴をくぐると決めた

回る全てのものの真ん中求め


くぐりぬけてみると体裏返ってた

体中のスジとクダがあらわになった

生まれつきの弱さやっと知った気がする

生まれつきの強さやっと知った気がする


けれどあたり見回せば何のことは無い

裏返った間抜けは自分ばかりで

糸の海や浜の町や世界全ては

裏返った跡も無い 逆立ちもしない


それからは闇雲にくぐってるだけ

裏の裏の裏返りを続けてるだけ

くぐるたびに体少しやせてゆくから

今度裏を返す時は消えてゆくかも


くぐることは動かぬこと動かぬままに

同じ位置でスタンスだけ変える試み

回るものの全ては別な地平で

それぞれの中心を抱えてるだけ


糸の海に地球儀の雨粒が降り注ぎ

光る熱いもやで浜の町はむせかえる

あと何度裏返り続けてゆけば

僕のスタンス決まるのだろう

決まるスタンスあるのだろうか


いっそもやに焼かれ溶けて消えたい


↓曲

http://kyoku.meta-scheme.jp/works/AnaKuguriNoUta.mp3


↓動画

http://youtu.be/f0kV_oLF7PM

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る