まっくろ屋さんと鬱の国
絶望&織田
認めます
体は健康でも心を病んでしまう国にまっくろ屋さんはいました。
公園には老若男女が集い各々、頭を抱えて地面に座り込む光景があります。
スーツ、靴、シルクハットから下着に至るまで黒ずくめなまっくろ屋さんはそこへ向かって叫びました。
「まっくろは要らんかねー!? 何でも交換します!」
すると、老若男女は一斉に顔を上げてまっくろ屋さんに詰め寄りました。
「まっくろと交換してくれ!」っと。
まっくろ屋さんは微笑んで彼らに言い放ちました。
「はい、かしこまりました。しかし本当によろしいんですか? あなた方は大変ご苦労なさっていますが十分素晴らしい物をお持ちですよ?」
それを聞いた心を病んだ皆は互いに顔を見合わせたり、目をパチクリしてしまった。
皆思うことは同じだった。
「「「そんなバカな!」」」っと。
手首に包帯を巻いた女性は口を開いて叫ぶ。
「私は長年付き合っていた彼に捨てられました! 痛いんです……手首よりも……胸が!……む、胸が……張り裂けそうで……!」
続くように身体中包帯だらけの少年は叫ぶ。
「ぼ、僕は……死にたい……パパもママも、頑張れ! 頑張れ! って僕に言うんだ……僕は頑張りたくないのに……!」
青年は泣き叫ぶ。
「皆の期待に応えるために雑用でも何でもこなして会社で頑張ってきたのに……俺は……俺は……クビに……! ぁあ…だ、誰も今の俺には見向きもしない……ぉ、俺……どうしたらいいんですか!? 教えて下さい!」
老婆は叫ぶ。
「子供の頃に母親に捨てられました……そのことが……今でも忘れられません! 憎しみも……!」
声は大きく、悲しみは深く、寂しさに果てはなく、明日に希望がなく、救いがなく……。
誰しもが他人を呪い、自分すら呪い殺そうとしていた。
否、そうせざるおえない状況を国が、環境が、人が作り出していた。
まっくろ屋さんは皆の言葉をすべて聞くと、ニッコリと笑って叫びました。
「あなた方に言いたい! お疲れ様です! 大変、御苦労なさいましたね! 他者が何と言おうと私はあなた方を労り尊敬致します! よくぞ生きていた! と! あなた方は怒りや苦しみ! 悲しみ! この世の不条理全てを一身に受けて戦いました! それは心が健常者でありあなた方の気持ちが分からない方々にはできないことです! 誇って下さい! 自殺をして逃げずに自分の問題に向き合って苦しみながら今を生きていることを! 心が病むことは恥ずかしいことではありません! 不安があるならもっと私にブチまけて下さい! 悲しみがあるなら聞かせて下さい! 怒りがあるなら私にぶつけて下さい! 寂しいなら私の友達になって頂けませんか!?」
まっくろ屋さんの言葉を聞いていた皆は一同に笑い、涙した。
大粒の真っ黒な涙を地面に降らせて胸を抱えて安堵したのだ。
「「「嗚呼……やっと認めてくれた…私の、俺の、僕の……苦しみ、悲しみ、怒り……」」」
そして皆は前に向かって一歩ずつ歩き出した。
手首に包帯を巻いた女性は携帯で友達を呼び飲食店をはしごする。
身体中包帯だらけの少年は迎えに来た両親に叫ぶ!
「僕はパパやママの人形じゃない!」
少年の背後には彼の祖父と祖母が佇み、少年を引き取って行った。
青年は青空を仰いで悟る「よくよく考えたら……あんな陰険な奴等の元を離れられて良かった……俺はまだ若いし人生はこれからだ、これから……まぁゆっくり確実に人生を楽しもう! んじゃぁ! 飲みに行くか! ひゃっほぅ!!」
老婆の元にはお孫さんが訪れて無邪気に笑いかけて言います。
「バァバ、帰ろう! 絵本読んで! バァバ読んで!」
老婆も小さな孫に笑いかけて胸を撫で下ろし思いました。
『私には可愛い孫がいる。 この子の笑顔を守ろう! 私が受けた苦しみなんて吹き飛ばしてしまうくらい、この子の人生に笑顔を送ろう!』
皆がいなくなり、一人残されたまっくろ屋さんは踵を返すと笑顔で叫び歩き出しました。
「まっくろはいらんかねー!? 何でも交換します!」
まっくろ屋さんと鬱の国 絶望&織田 @hayase
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